第41話 "ミリー"とダリア

 あー、やっちゃったなぁー…………。


 目が覚めた時には私は後ろ手に手錠をかけられて、更に鎖の片側が天井近くの金具に繋がれている状態だった。

 場所は多分倉庫かな。すーっごい薬臭い。わぁ、スチルで見た事あるわぁここ。


 外は無音。こんな粗末な建物に防音機能があるとは思えないし、気配すらないってことはまさか見張り無し?ずさんだなぁ、それとも単に街人でダリアをおびき寄せたら始末すれば良いだけだからあまり重要視されてないだけかな。ナメてくれるじゃん。


 理由はまぁいいや、監視の無い状況なら私にも好都合だ。今のうちにせめて手錠くらい外せないかなーっと。


 何か使えるもの無いかなーって身体を揺らしたら前髪からヘアピンが落っこちた。手がかりに置いてきたのと同じデザインで色違いのお花の奴。左右に対で付けてたから右のは置いて、左はつけたまんまだったんだよね。


 昔の推理ドラマやアニメなんかでは針金やヘアピンで手錠開けたりしてたけど、私にも出来るかな。適当に刺してカチャカチャしたら外れたりして? 


(作ってくれたミシェルには申し訳ないけどごめん!飾りは外させて貰います!)


 パチンと音を立て飾りを取り外すと、出てきたのはただのヘアピンじゃなく、何故かたくさんギザギザの付いた金属の板で出来た金留だった。と、同時に壊れた飾りの内側からポロっとメモ紙が落ちる。

 広げてみると中には『君は何かと難儀な体質だからね。万が一の為に仕込んでおくよ』の言葉とともにもう一枚。


    『鍵開け金具の使い方』by.ミシェル


「神よ!!!」


 神様仏様ミシェル様ありがとう!

 無事に手錠が外せました!!



 晴れて自由の身となった。倉庫の造りがゲームで見てたマップ通りなら床下の隠し通路もわかるし脱出は多分出来るけど……ここ、市街からかなり遠いんだよね。人間の足じゃ、一番近い人里まで一時間以上かかる。

 ただ逃げてもすぐに捕まるな。見張りが帰ってきたら会話とかから目的がわかるかも知れないし、そもそもあの犯人が本当にイアンの兄だったかもわからんし。 


 てかイアン兄、なんだったっけ名前。ずっとクズ男て呼んでたから忘れたわー……。そして待機、暇。じっとしてるの苦手なのよ私!


(イベント通りならここにあるの違法薬物のオンパレードだし、証拠として何種類か貰っとくか)


 とりあえず初めの数回は身体能力向上と気分の高揚だけで済むけど回数重ねると精神おかしくなる中毒性あるお茶っ葉とー、自分の髪を溶かして相手に飲ませればその人間を絶対服従させてしまう魔法薬の要になる木の実とー……と、詰まれた木箱の中で開き易そうな中から順番に巡りながら思う。


 いやこれゲームの時から思ってたけどさ、なーんで犯罪の証拠かつ金になる商品置いてる場所にわざわざ自分等の敵にあたる人間を監禁しちゃうかね?そりゃ主人公側からしたら渡りに船じゃんね、馬鹿だね。


 何にせよラッキーと、最後にひときわでっかい箱を開いたら、フワッとハートが舞い上がった。正確には、パステルピンクと真紅の2種のハートの花弁。


「ウソっ、これアモーレの花弁じゃん!こいつらが独占してたから余計に市場価格上がってたの!?最低!」


 やばっ、つい叫んじゃった!聞かれてないよね……?


「離しなさい、この無礼者!お前達、私が誰かを知っての狼藉ろうぜきですか!?私の大切な友人に非礼を働いたら承知しませんよ!」


「うるっせぇ……。どうやらお嬢様はご自分の置かれた立場がわかってねぇようだな。おら、さっさと入れ!!」


 多分私が外を見れないように少しだけ開かれた扉から、投げ入れられたダリアの身体を抱きとめる。すぐにまた閉めてくれたお陰で、私が拘束を解いてる事には気づかれなかったみたい。


「あなた怪我はっ」


「しーっ!私は大丈夫です!ダリア様は平気ですか!?」


 ちらっと入り口を横目に見てからダリアも頷く。


「えぇ、私も外傷はありません。貴女の無事が確認出来てよかったです」


 明かりが入ってこないから時間経過がいまいちわかんなかったけど、どうやら半日以上気絶してたらしい。ダリアは朝、待ち合わせ場所に私が現れず心配していた所で合流場所を変更したいという内容の手紙を受け取って、怪しいと思いつつその場所を調べようとして奇襲を受けてしまったそうだ。


「恐らくあのメイドは今回の主犯に買収でもされたのでしょうね。貴女が私の友人として目を付けられたのも情報が漏れていたせいでしょう」


 友達を娼婦にしたくなければと、お決まりの脅され方をしたらしい。


「すみません、私が先に捕まったから……」


「いいえ、使用人の監督が不行き届きだった我が家の落ち度です。あなたのせいでは……」


「とりあえず手錠外しますから動かないでくださいね!」  


「はい!?ちょっ、あなたその鍵開けピンどこから持ってきたんです!?」


「ナイショでーす。それよりダリア様これ!この箱の中みて!」


 出来るだけ音がしないように手錠を外してからダリアをアモーレの花が入った箱の前に引っ張る。中を見たダリアの目が輝いた。


「これは……!」


「アモーレの花びらだよ!黒幕が誰かは知らないですけど、あいつらを捕らえたらこの倉庫の中身は証拠として押収出来るし、これだけいっぱいあればイアン様の解毒剤作るにも十分だよね!」  


「えぇ、想定外ですが嬉しい誤算です!お手柄ですよ!」


 きゃーっと二人で手を取り合ってから、はたとダリアが固まる。どしたん?  


「貴女、なぜ解毒剤の話を……?」


「あっ、いやっ、それは……!」


 しまった、“ミリー”はダリア達の事情知らないんだった!興奮してつい……いや、これはむしろ、本当の事を言うのは今だ!


「ダリア様、ごめんなさい。私ね、本当は……」


「おっと、オイタはそこまでだ。お嬢さん方」


 ーー……女性向けコンテンツって大体重要な打ち明け話の寸前で必ず邪魔入るよね知ってた!私いま結構な覚悟してたんだぞ何してくれんだこらぁ!!!






  


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転生ヒロインは悪役令嬢(♂)を攻略したい!! 弥生真由 @yayoimayu

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