打ち合わせ議事録
湫川 仰角
打ち合わせ議事録
湫川(記)
議題:生産工程へのロボット導入について
出席者
生産本部:生天目本部長
心電営業部:営野部長
心電開発部開発一課:発地課長
品質保証室:品川課長、湫川
定刻。萎びた六階建ビルの最上階。地震の揺れを何倍にも増幅する最も格調高い応接室が今会議の場である。部屋の大部分を占める二十人掛けの円卓には既に関係者が着席しているものの、八割近い空席は格調に水をさし、議題への関心すら希釈していた。
即ち、今議題は既に決を採る段階を過ぎているのである。それでも会議を設定したのは生産本部長であり、粛々と会議は始められた。
以下、敬称略。
生天目「ご参集ありがとうございます。ロボット導入による生産工場の自動化について、検討を進め実現の目処が付きました。これまでの経緯は配付資料にあります。本日は導入に向けた、社内の実際的なプロセスを確認させてもらおうと思います」
営野「進捗は予定通りの認識で良いですか?」
生天目「準備次第ですが、概ね予定通りです」
品川「ロボットを導入する工程を拡大すると聞きましたが?」
生天目「はい。今予定している組立以外も対象とします。部材のピッキングから、組立、検査、梱包まで全ての工程で導入します」
営野「後ろ倒しになりそうなのですか?」
生天目「いえ。導入範囲を拡げた上で、予定に沿って進めています」
発地「今はロボットに使わせる治具を作成中です。セル生産に変わりはないですが、各工程に最適化させて作業効率を上げます」
営野「自動化とか効率化でコストダウンは見込めないのですか?」
発地「コストアップしないための取組みと考えてください。歩留りは改善できます」
営野「わかりました」
生天目「ロボットの試験運用は来月頭から始め、再来月には本格生産と考えています」
品川「一斉に導入を始めますか?」
生天目「いいえ。各工程毎に割り振ったロボットと協議をして、準備が整ったひとから始めてもらいます」品川「どこから始めるにせよ、新規工程として作業の妥当性確認が必要です。臨時監査として丸一日でしょうか。試験運用前に実施したいので、候補日を提示してください」
生天目「導入工程全部を監査しますか?」
品川「もちろんです」
生天目「では後ほど、候補日を連絡します」
営野「くれぐれも日程厳守でお願いします」
品川「考慮しますが、工程確認は絶対ですよ」
営野「無休で稼働させる件は大丈夫ですか?」
発地「今の仕様だと二日に一回、半日程度の充電が必要ですが、作業ロボットの交代制とバッテリーの改造でクリアできます」
品川「工場作業用ではないのでしたか?」
発地「もともとは介護業務に従事していたロボットたちです。介護支援用自律アンドロイド、と呼ぶのが正式なところです」
品川「会話もできるし、人間との感応性が高いと聞くけど、法律上問題はないですか?」
営野「それは品質保証室が確認すべきです」
品川「仮に法規制上の定めがあるとしたら、然るべき対応を取る必要があります」
発地「日本工業規格には定めはありません」
生天目「社内的に言うと。設備導入時の規程はありますが、ロボットの導入は前例がなく社内規程もありません」
品川「社内規程を策定してから導入となると、一ヶ月の遅れは確実ですかね」
営野「この件は既に社長に話しているし、営業部はその前提で納入予定を組んでいます。今更一ヶ月遅れなんてありえないですよ!」
生天目「しかし、会社として管理は必要です」
営野「今ある方法でやれば良いでしょう!」
品川「……ロボットではなく、設備としてなら、社内運用上は問題ありません」
生天目「設備承認で扱うということですか?」
品川「そうですね。番号を割り振って、管理上は計測器などと同じになると思います」
発地「交代方法や充電についてはどう手順化すれば良いでしょうか?」
品川「始業前点検か、校正の一つとして考えれば今の社内規程で対応できると思います」
営野「ではその方法でいきましょう」
生天目「承知しました」
品川「では、本日の議事は品質保証室でまとめ、後ほど連絡します」
生天目「宜しくお願いします。では、ありがとうございました」
以上
打ち合わせ議事録_rev1
議題:生産工程への設備導入について
出席者
生産本部:生天目本部長
心電営業部:営野部長
心電開発部開発一課:発地課長
品質保証室:湫川課員、品川(記)
●決定事項
・試験運用前に、品質保証室が全工程に対して工程監査を実施する
・導入に際しては、設備承認、妥当性確認、各種点検事項を明確にし社内規程を遵守する
●確認事項
・生産本部は監査候補日を提示すること
・品質保証室は関連規制を確認すること
以上
打ち合わせ議事録 湫川 仰角 @gyoukaku37do
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