第57話 白兵戦

 宝物館が煙に包まれると同時に、宙に浮いていたドローン達は、力なく地上に墜落し始める。

 翔が狐に抓まれた様な顔をしていると、レオナルドが自慢げに説明を始めた。

「クグツ使いがウイルスと戦っテル間ニ電波の発信元ヲ突き止めたのサ。」


「で、なんでそっちを煙玉で覆ったら、こいつらが落ちてくるんだ?」

 翔は足元のドローンを足で小突きながら質問する。


「タダの煙玉じゃナイ、拡散粒子を混ぜタ電波ジャミング兼用ダ。」

「それでコントロールを失って落ちたのか。

 でもなんで発信元を突き止めるんだよ?こっちで使ったらダメだったのか?」


「ソレダト、離れたトコロに退避シテ、ミサイル撃ち込まれるカモしれないダロ?」

「なるほどね~。」

「アトはクグツ使い本人だけダナ。」


『おじさん、聞こえる?』

『あぁ、さっきから聞こえてるぞ。』

『俺達もそっちに向かうから、合流するまで待ってて。』

『おう、急げよ!』


 翔たちは、戒壇院と観世音寺を隔てる小道を横切り、観世音寺の境内へと急ぐ。


「でも、俺ドローンって自分で勝手に動くのかと思ってたよ、AIとかで。」

「自立行動型ノ攻撃機械はマダ実用化されてナイ。」


「そうなんだ?」

「モット単純な、例えバ、熱感知デ味方ノ識別信号ヲ発してナイのを自動的ニ攻撃スルのは実用化されてるケド。」

「けど?」

「街中デ使うニハガアルんダ。」

「倫理的に?」

「味方以外ハ全部敵、無関係な中立ノ人マデ攻撃してシマウ。」


『おいおい、そりゃ酷いな。』

 レシーバーで聞いていた半次郎も思わず口を挟む。


 その時、翔が木立の影に佇む黒い影に気付いて立ち止まった。

 今はあまり見なくなった、理髪店の店頭にあるサインポールのような大きさの円筒状のその物体は、よく見ると蜘蛛の足の様なものが4本付いており、頂部には機関銃のようなものが付いている。


「おい、あれ、まさか?」

 機関銃の脇の緑のセンサーが点灯し、何かを探すように左右に回転している。


「ドウヤラ、のアル敵のヨウダ。」


 回転する緑のセンサーが翔たちを見つけると、獲物を見つけた喜びを表すように赤く色を変える。

 と、同時にそこかしこから同じ機体がワラワラと出てきた。


「逃げろ!」

 慌てて逃げ出す翔とレオナルドを、機関銃の乾いた音色が追いかける。


 **********

 黒木義明は用を足さなくなったモニターを前に、腕を組んで背もたれに深く背を預けた。

 その耳に機関銃の音が小さく聞こえてくる。


「バカめ。」

 低く笑うと、長机の上のポテトを摘まんで口に放り込む。


(ハンティングは残りの四人でやるか…。)


 くちゃくちゃと音を立てて、ポテトを喉の奥に流し込んだ。

 **********


「おい、何か手は?」

 レオナルドはしばらく考えていたが、思い浮かばない。

 すると、半次郎がレシーバー越しに話しかけて来た。


『おい、レオ君!』

『ハンジロウもニゲロ!』

『そうじゃない、敵が持ってるんだな?その…識別信号を!』

『タ、タブン。』

『俺が行ってくるから、お前たちはそいつら引きつけといてくれ!』

『危険だ、おじさん!』

 翔は半次郎を止めようとしたが、それしか手がないのも事実だ。


『やらなきゃならんだろ!行くぞ!』

『おじさん、頼んだ!』

『任せろ!』

 そういうと通信が途切れた。


 翔とレオナルドは<飛梅>で弾を必死に防ぎながら、逃げ回っている。

 足場が悪いのが幸いして、敵のドローンの動きは遅いが、このままでは早晩持たなくなるのは必定と言えた。

 しかも、こいつらを引き連れて表通りの方へ逃げるわけにはいかない。


「おい、こいつらどうやって探知してるんだ?」

「タブン、熱ダ。」


(くそっ、やるしかないか!)


 翔の決意の目を見てレオナルドも察する。

「マサカ!?」

「燃やす!」

「デモ、ドウヤッテ?」

「火遁の術だ。」

 そう言うやいなや、翔の口から飛び出した炎が雑草から木々に燃え移り始め、ドローン達は戸惑ったように右往左往し始める。


 それは、かつて翔自身が、サーカスでしか需要が無いと卑下した術であった。


 **********

 急に止んだ機関銃の音に、黒木義明はにやりと笑みを浮かべると、椅子から尻を上げた。

 1階に降りる階段に向かって歩こうとしたその時、その階段を登って一人の男が姿を現した。


「確か、あんた、服部半次郎だね?」

「お前が黒木義明か、小太りとは聞いてたが、こんな不健康なオタク臭い奴とはな。」

「そう言うあんたも健康そうには見えないよ。」

「おいおい、バカ言うなよ、これでも若い頃はワンダーフォーゲル部で鍛えたんだ、お前一人くらい料理するのは朝飯前だぞ。」


 半次郎は明らかに小太りの小男を見下している。

「さぁ、ここからは男同士の一対一のクロースコンバット()だ!

 痛いのが嫌なら大人しく降参して識別信号を渡しなさい、持ってるんだろ?」


「ふんっ、いつ僕が一人だと言った?」

 黒木が手に持っているゲームのコントローラーの様なもののスイッチを押すと、傍らの人間大の仏像が、命を吹き込まれた様に動き出した。

 せり上がった胴体の下には蜘蛛のような足が四本、先端には車輪が付いており、ご丁寧に仏像の目の位置に取り付けられたセンサーは、不気味に赤い光を発して睨みを利かせる。


「僕が傀儡使いだって知らなかったの?」

 黒木が醜い子ブタの様な笑みを浮かべて、コントローラーのスティックを操作すると、まるでアーケードゲームのキャラクターの様に、仏像が手に持った剣を振るう。


「おいおい、嘘だろ、お前汚いぞ!」


「汚い?忍者らしくないセリフだね、服部半次郎。」

 嘲笑うようなセリフを吐いた黒木が更に付け加えた。


「そうか、あんたはだったっけ。」

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