第18話 スケコマシの矜持
ガキッ!
空気を切り裂くグレゴリウスの猛烈な突きは、間一髪の所で翔の刀に阻まれた。
噛み合った槍先と剣先から火花が飛び散る。
グレゴリウスは驚愕の表情を浮かべると、弾かれた様に後方に飛びのいた。
「<憤怒>とか言ったな、あんた!」
翔は、怒りに燃える目でグレゴリウスを睨みつける。
「そうか、憤怒の呪縛を怒りで解いたというか。」
合点がいったようにグレゴリウスが頷く。
「面白いヤツッ!」
グレゴリウスは左前に構えると、再び猛烈な突きを仕掛ける。
「面白くねんだよ!」
繰り出された突きを、すんでの所で躱す。
「その怒りを女にもブツけろ、犯せ!それが本物の男だ!」
袈裟掛けに切りつける翔の刀身を横殴りにして直撃を避けると、グレゴリウスは再び距離を取って、今度は上段に構える。
「ほざけっ!」
突きが繰り出される前に、懐に飛び込み斜め下から切り上げる。
「所詮、オスとメスだ!
強い者が犯し、弱い者が犯される!」
切り上げる刀を、更に下から払いあげて叫ぶ。
翔は後方に飛びのくと、正眼に構えた。
グレゴリウスも体制を整え中段に構える。
「あんた、好きな女は犯せって言ったな。」
「あぁ、言うた。」
「それが本物の男だと。」
「そうだ。」
「下らねぇ。」
「なにっ?」
「女を犯して本物の男だ?下らねぇ!そんなのをモテない男の僻ってんだよ!
そもそも、あんた程度がこの俺に女の事を講釈するとは、身の程知らずにもほどがあるんだよ!」
「ふん、小癪だな。」
「いいか、本物の男てのはなぁ、女に自分から股を開かせるんだよ!
犯さないと女をモノにできない様な男は三流のクズ野郎だ!」
「くくく、やっぱり面白いヤツだ。」
グレゴリウスは重心を落とし、最後の一撃の為に力を溜める。
「では、どちらが正しいか決着を付けよう。
我はお前を倒し、その美人を見つけ出して犯す。
お前が正しいと言うなら、我を切って、その美人に自ら股を開かせるがいい。」
「言われなくてもそのつもりだ!」
「お前の名前は?」
「服部 翔だ!」
中段に構えた槍先を翔の眉間に合わせる。
「グレゴリウス、いざ、まいる!」
強烈な後ろ足で踏み込んできた槍先に、渾身の力を込めて刀を振り下ろす。
ガキッ!!
火花が舞い散り、刀と槍が絡み合った。
(勝機!)
そう思ったのは、グレゴリウス。
刀身を跳ね上げて、そのまま突き殺してやる!
力を込めて振り上げた槍は、先端が付け根から折れ、翔の刀は跳ねあがらない。
(不覚!)
一瞬の逡巡が勝負を決めた。
翔は切っ先を翻し、前に突き出しながら切り上げると、グレゴリウスの顔面を真っ二つに切り裂いた。
グレゴリウスが絶命すると、憤怒の呪縛とやらも解けたようで、ダニエルと崇継はようやく体の自由を取り戻した。
「いや~、助かったばい。」
ダニエルが感謝の言葉を述べる。
「ばってん、青少年にはちょっと刺激ん強か話やったね。」
「ば、ばか!」
翔は、慌ててダニエルの口を手で隠した。
崇継が穢れの無い澄んだ瞳でこちらを見ている。
気まずい思いで目をそらす翔に、本気とも冗談ともとれぬ言葉が飛んできた。
「翔さんの矜持、感銘を受けました、知佐さんの事、頑張って下さい。」
翔は、ダニエルと目が合うと、思わず笑いがこみあげて来た。
「ばか!」
軽いタッチで、崇継の頭をはたく。
「で、あれ、どげんするね?」
ダニエルが指さす方には谷本早耶香が、全裸のまま気を失っていた。
「あれこそ、刺激が強すぎる。」
翔は羽織っていたジャケットを脱ぐと、谷本に被せる。
念のため、後ろ手に縛って自由を奪うと、頬を叩いて目覚めさせた。
谷本は、半分覚醒した意識で翔を見ると、続いて前のめりに倒れているグレゴリウスを見た。
「殺ったんか?」
「あぁ。」
「よう勝てたな。」
「あぁ、お前のお蔭だ。」
グレゴリウスの槍が折れたのは、谷本の蹴りを受け止めた所だ。
いくら頑丈な槍でも、谷本のあの蹴りは効いたのだろう。
もし槍が折れていなければ、翔は突き殺されていたかもしれない。
気絶していた谷本は、そんな事を知る由もなかったが、身にまとっているジャケットが翔のものだと気づいて頬を赤らめた。
暗がりの中で顔色までは見えなかったが、戦意はないと判断した翔は、谷本の上半身を起こして言った。
「俺たちは先を急ぐ、あんなのと一緒にそんな恰好で置いて行くのは申し訳ないが、邪魔はしないでくれ。」
谷本は、不満げな表情を浮かべて答えた。
「そんなん気にすんなや、自分こそ気ぃつけや。」
**********
「お兄ちゃんたち大丈夫かなぁ。」
旅館に残った紗織が、心配そうに窓の外を見ている。
「大丈夫よ、翔君とダニエルが付いてるもの。」
「アァ、ダニエルは元軍人ダシ、翔は忍者ダ、
むしろ、キミは残ったワレワレを心配スベキダナ。」
レオナルドは、さっきからダニエルに渡されたジグ・ザウエルを、物珍しげに弄っている。
知佐と紗織は、目を合わせて微笑み交わした。
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