幼馴染に彼氏ができたが、なにかおかしい。改訂版

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短編 幼馴染に彼氏ができたが、なにかおかしい。改訂版



 僕、平井 蒼汰ひらい そうたには水樹 玲みずき れいという女の子の幼馴染がいる。


 ぽやっとした性格をしていてショートカット、パッチリとした眼と見た目もよく、周りから好かれ何かをしなくても自然と人が集まってくるようなそんな女の子。勉強や家事、運動と女子力も高いそんな女の子。本当に僕にはできた幼馴染で。だからいつかは僕の側からいなくなる、そういう思いが溢れてしまうそんな女の子。

 告白はしないのかって? 告白なんて……僕にはする勇気がないから。僕なんてと思ってしまってさ。

 それでも玲のことを好きな気持ちは変えられないから、いなくなるその時まではこのままの気持ちでいたいそう思っていた。




 そして昨日、とうとう玲から「彼氏ができたよ」と伝えられることとなった。彼氏の名前は別府 智也べっぷ ともやくん、同学年だけど別のクラスの男の子で、校舎裏に呼び出されて告白を受け、彼を受け入れたらしい。どんな男の子かわからないけれどきっと素敵な人なんだろな、玲が受け入れる人なのだから。




 そっか……とうとう来たんだなって。

 とうとう玲に彼氏が出来たんだなって。

 とうとう僕は失恋したんだなって。

 いや、なにもしなかった僕が失恋と呼んで良いのかよくわからないけれど。うん。


 玲が僕に告げた言葉で、うん、やっぱり寂しさを覚えてしまう。小さな頃から今まで、いつも一緒にいた玲がいなくなるんだなって。覚悟はしていたけど、やっぱり辛いものは辛いよね。


 だけど、いつかはこうなることは分かっていたわけでこれはこれで仕方ない。そんな言い訳じみた思いを胸に抱きながら


「おめでとう、玲」


 と、玲にそれだけは、なんとか言葉にして伝えることが出来たんだ。


 その後、家に帰った僕は「はぁ」とため息、ベッドに倒れ込み枕に顔を押し付けて。とにかく、明日からは玲無しの生活をしなきゃなと落ち込んだ心に活を入れ、その日はそのまま眠りについた。




 むにゅ。柔らかいなにかが僕の体に押し付けられる。

 あれ? なんでいつもの感覚が僕の体に感じるのだろうと目を覚ますと、今までどおり玲は僕の腕に抱きついて、目を瞑ったまま


「むにゃむにゃ、そうくん……」


なんて言葉を呟きながら寝てるし。というかこれは駄目だろう……


 僕は玲を起こし、彼氏が出来たんだから幼馴染であっても他の男だ、こんなことはするなと注意するが……


「ううん、幼馴染なんだからいいじゃない、智也くんは関係ないよ? 」


なんて言う。


 え? 智也くんの彼氏の扱いが雑じゃない? おかしくないかな? 幼馴染の僕より大切でしょ? だよね? なのに何を考えてるの? 玲? 


と、困惑しながらも


「いやいや、玲と一緒にいたら智也くんに悪いしこんなの駄目だよ」


と、言葉を返す。


「へ? そんなことないよ。そうくんと私は、今までどおり一緒でいいんだよ? 」


と、玲は平然という。ん? なにかおかしい。


 何で幼馴染ならいいんだろうか?幼馴染より彼氏を大事にしないと駄目だろうよ。玲? 朝、目が覚めたばかりだからまだ寝ぼけてる? 


「玲の考えがわからないよ。でも、玲がどう考えようと、僕はやっぱり智也くんに恨まれたくないから。今までどおりは無理だからね。智也くんを大事にしてくれよ」


 僕は今でも大切に思ってくれる? 玲を拒絶してしまうのだった。




 なんやかんやでいつもどおりの朝を迎えたわけなんだが、それでもやっぱりいつもと違う出来事があるはずなわけで。朝食を食べ、身支度をし、さて、これから学校へと向かおうとしていたところ、今日から智也くんが玲を迎えに来ることにになっていた。それならと、僕は玲とは別にひとりで学校に向かうと伝えたところ


「そうくん? え? なんで? 一緒に行こうよ? そうくんが、もし嫌なら智也くんへ迎えに来ないように言うから」


なんて宣うおかしな玲。


 だからなんで僕を優先するのですか? 智也くんを優先しないと駄目でしょう? なぜか丁寧な語尾になってしまったが、智也くんに恨まれるのは嫌だと何を言っても考えを変えなさそうな玲をおいて、ひとりで走って学校へ向かうのだった。




 教室に到着し、僕はひとりで席に向かう。途中挨拶を交わすクラスのみんなは、僕がひとりでいるのが珍しいのか不思議そうに尋ねてくる。

「喧嘩したの? 」や「別れたのか? 」とか、僕と玲が付き合ってると思っていたような感じで尋ねてきた。あれ? そんな認識だったの? みんな? たしかにいつも一緒に居たから、それで勘違いされていたわけかと今更ながら理解した。

 まあそうだったら良かったんだけどね。思い出させないで、クラスのみなさん。


 とりあえず僕と玲は付き合っているわけではないので、きちんと玲に彼氏ができたとクラスのみんなには伝えておくことにした。その言葉にクラスのみんなは驚いていた。


 嘘だろ? 嘘でしょう? あれだけ仲良かったのに? と。




 さて、遅れてきた玲はついた途端、すぐ様一緒に登校してきた智也くんを置いて、何故か僕のところへやって来た。

 ほっぺたを膨らませ可愛い顔をしながら。


「なんで置いていったのよ。一緒に行こうって伝えたじゃない! 」


と、怒ってくるんだけど。んー。やっぱりわからん。何考えてるんだ。玲。


「いや、玲には彼氏出来たんだから。僕と玲が一緒にいちゃ智也くんにも悪いし、きっと嫌がるだろう? 」


 今日は、朝から玲に同じことばっかり言ってる気がする。


「関係ないの。幼馴染はいつまでも一緒なの! 」


 なんの論理だか知らないが、そんなことを言ってくる。んーわからん。幼馴染より、彼氏のほうが良いから彼氏を作ったんじゃないのかな? 僕はどうしたらいいんだろう。


「えーと、智也さんでしたっけ? なにか言ってあげて下さいよ。僕、あなたに恨まれたくないんですけど」


 玲に言っても話が進まないと智也くんへ話を振ってみた。


 そこで智也くんは口を開きはしたのだけど、僕はまさかこんな事を言ってくるとは思っていなかった。


「幼馴染との関係を邪魔したら別れるって言われてて……」


と、智也くんは僕の顔を見て悔しい顔をしながらそう言った。


 んーわからん、やっぱりわからん。智也くん可哀想すぎるだろ。というより失恋した僕が心配しなきゃいけない彼氏ってなんなのさ。

 こりゃ埒が明かんと僕は


「とりあえずふたりとも僕に関わらないで。間男になりたくない! 恨まれたくない! 」


と、僕は拒否の言葉を伝えて逃げた。なんで失恋したのにこんなに困ってしまう状態なのか。ほんと失恋に悲しむ時間も今では無くなった、そんな感じで。どうすりゃいいのと思ってしまう。


 そんな中、僕の言葉を聞いた玲は、そこからなぜか「うーん」と考え込んでしまっていた。




 まあ、そんな感じな日々がしばらく続いていたのだが、いつのまにか玲は、彼氏の智也くんと別れたらしい。


 聞いて良いのか迷ったけれど聞けるのなら聞いておきたいと、玲に理由を尋ねてみると


「そうくんといられないなら彼氏はいらないかなって。思ってたのと違ったの。なんだか難しいね、彼氏って」


なんてことを言う。


 いやおかしい、おかしいよ。幼馴染と彼氏を比べて彼氏なんていらないとか……どういうランク付けなんだろうね。そして、なんで彼氏作ったんだろうね。不思議だよ。玲。




 ほんと玲の考えがわからない。

 でもそのおかげで、僕は失恋を免れたわけでなんと言っていいものか。


 まあ、またしばらくはこのまま玲の側に居られるんだよなと、一緒の時間をできる限り大切にしたいと再度考えさせられた出来事であったのは言うまでもない。






 なお、玲は


「そうくん……少しは妬いてくれたっていいじゃないの! 」


 僕には聞こえない声で今まで感じていなかったそんな思いを、ボソッとひとりつぶやくのでした。

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