84 僕らが生きる「今」を語るべき時が来るまで。
ゴールデンウィークだった。
有給を使うと最大10日間の休みになり、また「不要不急の帰省や旅行など、都道府県をまたいでの移動は極力避け」る要請のないゴールデンウィークで、それは2年ぶりのことだった。
正直、僕は3月から(あるいは、もっと前から)、4月の終わりから始まるゴールデンウィークを待ち望んでいた。
この連休によって、色んなものに区切りがつく。
ついてくれ、と殆ど拝んでさえいた。
これを書いているのはゴールデンウィークの最終日で、この先どのように世間で連休のことが語られるのかは分からないけれど、過ごしてみた肌感としては日常が戻ってきた前向きな空気を感じる。
ポストコロナの時代の到来とまでは言わない。
まだ、この先にコロナウィルス関係の大きなトラブルや混乱が待ち受けている可能性は十分に考えられる。
けれど、おそらく、もう半狂乱と言う他ないネットの呟きや情報に振り回されることはない。
多くの人が粛々と求められる行動を可能な限り行っていき、誰かが誰かに何かを強制したり、罵倒することも少なくなっていくだろう(と僕は信じたい)。
あらゆる問題はあるにせよ、流れは穏やかになって行く方へと進んでいる。
そう感じられることが、僕は本当にそれが嬉しい。
実のところ、僕のゴールデンウィークはまったくもって知的な時間ではなかった。
何をしていたっけ? と振り返ってもお酒を飲んでいたか寝ていた記憶しかない。ダメ人間も良いところだが、そういう生活もまん延防止等重点措置や緊急事態宣言中では出来なかったことを考えると、意義があったんだとも思う。
そういう風に自分を慰めているとも言えなくないけれど。
とはいえ、最終日を目前となった土曜日にお酒ばかりも味気ないなと思い立ち、ポール・オースターの「ムーン・パレス」を読み始めた。
31歳も3ヶ月を超えた今、そろそろアメリカ文学くらい読んでおくべきだろう、という気持ちにもなりつつある。
ちなみに、「ムーン・パレス」は1994年3月に出版されていて、冒頭は以下のように始まる。
――それは人類がはじめて月を歩いた夏だった。そのころ僕はまだひどく若かったが、未来というものが自分にあるとは思えなかった。
良い一文だと思う。
これを現代的に言い変えるなら「それは人類がはじめて世界的なウィルスに見舞われた夏だった。」となるのだろうか?
そこから語られる青春小説は普通に読んでみたい。
コロナウィルスは歴史的に見れば、それほど強いウィルスではないとも言われるし、考え方はそれぞれあると思う。
ただ、世界が混乱したと言う意味でやはり重要なパンデミックだったことは無視できない。
その背景にあるのは、人類が初めてインターネットとSNSが発達した世界だった、ということもある。
インターネットとSNSは人に脊髄反射的な感情や反応をもたらしやすく、何かをじっくりと考えることを奪ってしまうんだと、今回の世界の混乱を目の当たりにして改めて実感した。
僕はそういう点でインターネットとSNSにはうんざりした気持ちを抱いているが、そんなことをネットに書いても意味はない。
インターネットとSNSにも良い側面もあることは間違いない。
僕の今の便利な生活は間違いなくインターネットがあって成立している。
それを今更、否定する気はない。
とはいえ、生活にあまりにも肉薄しているため今一度、距離感を考えるべき時期に差し掛かっているのではないか、とは思う。
ゴールデンウィーク中に、こんなニュースを見かけた。
5月5日にウクライナのゼレンスキー大統領が自国の防衛や医療などにあてる支援金を募るクラウドファンディングサイト「UNITED24」を設けたと、自らのSNSにビデオメッセージで投稿していた。
ネットニュースの記事にはゼレンスキー大統領のメッセージから抜粋した「力を合わせれば、きっと勝てる」という文字が躍っていた。
このニュースに対し、批評家の東浩紀が「まさに「SNS時代の戦争」という感じ。」とツイートした後に、「これからの戦争においては、外交面でも資金面でもグローバルなSNS発信力こそ死活的に重要になるのだとすれば、政治家に求められる資質は大きく変わってくる。ひとことでいえばYouTuber的であることが求められている。いいか悪いかはともかく」と続けていた。
2022年2月24日から始まったロシア軍のウクライナ侵攻は未だに終わりは見えない。
その渦中で「SNS時代の戦争」として、インターネットとSNSは戦争において重要な役割を間違いなく担っている。
パンデミックと戦争の中でインターネットとSNSはどのような役割を果したのか、全てが落ち着いた後に検証される日が来ることを願っている。
僕らはネットが社会基盤(インフラ)となった人類最初の時代に生きていて、いつか歴史として今を語る時が来る。
その時、世界が可能な限り平和であれば良いと心から思っている。
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