2 文章の向こう側にいる憧れの人へ。
みなさまは好きなエッセイってありますか?
「オムレツの中はやわらかい方がおいしいのか?」はエッセイのカテゴリーに設定して書かれています。
だから、今この文章を読んでくださっている方も何かしらエッセイという形式を好んでいるのだと思います。違ったら、すみません。
僕はエッセイや随筆が昔から結構好きでした。
初めて好きだなぁと感じたエッセイが何だったのかは覚えていないのですが、
人によく勧めていたエッセイ集はダ・ヴィンチ編集部/編の「君へ。 つたえたい気持ち三十七話」です。
これは三十七人の作家が「コミュニケーション」をテーマに書いたもので、二十一歳くらいの時に買いました。
当時の僕は今よりも偏った読書をしていたので、新しい作家を知る意味もあったと記憶しています。
ちなみに参加されている作家は宮本輝、江國佳織、五木寛之、角田光代、北村薫、高橋源一郎、重松清と錚々たる顔ぶれです。
その中で今回紹介したいのは藤沢周の「教えない」というエッセイです。
まず、内容に触れさせてください。
「おとこ、だけの、はなしがあるんだよ」
と三歳の息子に言われた藤沢周は彼と一緒に散歩へ出かけます。
息子が口にするはなしは、いわゆる男同士の内容です。
父である藤沢周はすぐに、そういうことかと納得し、息子を安心させます。
はなしが終わった後、「パパ、もう、はなしはおわりなんだよ。ママのところ、もどってもいいんだよ」
と言う息子。
そして、
――携帯電話が鳴って、妻の「……何の話だった?」という少し臆した声。
「ああ、大丈夫。……でも、教えない」
というラスト。
横のページには冬服に身を包んだ子供の写真があって、その下に手書きで以下のように書かれています。
――夫婦に黙っておく、という方法があるんだね。藤沢周
エッセイ集のテーマはコミュニケーションでした。
人の悩みの八割は人間関係だとよく言われています。
人間関係を維持する力はコミュニケーションにかかっていると思いますが、それに絶対的な正解はありません。
個人に合ったコミュニケーション方法が他でも同様に有効である訳では決してありません。
関わって行く中で、その個人に合う方法を探っていくしかありません。
そんな手探りの中にも指針となるものはあって、その一つに今回紹介した藤沢周のエッセイは当て嵌まると思います。
「教えない」は息子との関係、妻との関係が描かれています。
僕は誰かの父親になったことも、誰かの夫になったこともありません。
ただ、そうなった時、僕はこんな父親、夫になりたいと「教えない」のエッセイを読み返すと思います。
僕は現実に顔を合わせる人に対し、憧れを抱くことが(あまり)ありません。
それは憧れを抱いた後に、幻滅した時が本当に辛いからです。
けれど、エッセイや小説を書かれる方には易々と僕は憧れを抱きます。
基本的にチョロイ人間なので、僕は藤沢周のように息子(いないけれど)や、妻(いないけれど)に接したいと強く思っています。
言い換えれば僕はすごく他人から影響を受けやすい人間なのでしょう。
ちなみに、僕は「君へ。 つたえたい気持ち三十七話」の後に藤沢周の小説を読みました。
好きな作品は、ラストで鳥肌が立つ芥川受賞作の「ブレノスアイレス午前零時」もしくは、最強の童貞小説「奇蹟のようなこと」です。
いや、ホントに、藤沢周が書く童貞はもう痛いけど、なんか笑えちゃう上に羨ましいんです。
そんな童貞を書かせたら天才(?)の藤沢周がダ・ヴィンチという雑誌でオードリーの若林正恭と対談をしていました。
随分前のものですが、若林が藤沢周の小説の大ファンの為に成立したものでした。
そこで藤沢周が小学生の息子に「パパは一生反抗期だね」と言われたと語っていました。
「おとこ、だけの、はなしがあるんだよ」
と父親を散歩に誘っていた三歳児は小学生になり、少し生意気なことを言うようになっていたんです。
なぜでしょうね。
僕はこの「パパは一生反抗期だね」の発言を読んだ時、悶えた記憶があります。
凄く良い話を読んでいる。
そんな気持ちになりました。
もう一度、「教えない」のエッセイに戻りたいと思います。ラストの手前で藤沢周は以下のように考えます。
――そのうち、「自分は一体何故生まれてきたのか」とか、「友達を殴ったことがあるか」とか、「死ぬほど女の子を好きになったことがあるか」とか聞いてくるのか。いや、そんな秘密話をしてもいいくらいに、息子が私を信頼しているかが問題だが。
藤沢周が予想した質問を息子がしたのかは分かりません。
ただ、藤沢周は息子と向き合い続ける覚悟のようなものが、そこから窺い知ることはできます。
エッセイは小説よりも書き手の人柄が分かる形式です。
僕はその書き手の人柄が分かる瞬間が、たまらなく好きです。
だから、エッセイだと聞くとまったく知らない作家の本でもカクヨムでも、読んでしまいます。
そこに潜む人柄や思考の手順は当然一人一人違います。その違いを知る度にエッセイを好きになり、書き手の方の日常をもっと知りたいと思います。
みなさまは好きなエッセイ、随筆はありますか? と再度問うて今回は終わりたいと思います。
二回目にして結構な時間が掛かりました。
前までは仕事終わりの時間を二日ほど掛ければ書けていたのですが。少し肩に力が入っているみたいです。
ちなみに僕がエッセイを書き始めた理由は、カクヨムで掲載する小説のプロモーションの一貫でした。
今回もそのような側面はあります(と言っても具体的な宣伝はとくにしないのですが)。
エッセイを読んで少しでも郷倉四季に興味を持って下さった方で、小説の方も読んでも良いかなと思う方がいらっしゃいましたら、よろしくお願い致します。
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