富裕層が余剰なお金を放棄するか、富裕層が倒されるか

 持っている人にはなお与えられ、持っていない人からは、持っているものまで取り上げられるであろう


 → 富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しくなる



 【ルカによる福音書19章26節】



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 今回も例によって、教会推奨の「優等生的聖書の解釈」は放棄する。



 少し前に話題となった『イカゲーム』をはじめ、韓国発のドラマに勢いがある。韓国だけでなく世界規模で人気が出ることも少なくなく、その快進撃の前には日本のドラマなどかすんで見えるくらいだ。ただ、一口にいいことばかりとも言えない事情があるようなのだ。

 問題は、世界規模でヒットするドラマがある程度『Netflix』の手によるものになっているという点である。世界的成功を収め、動画配信サイトとしては揺るぎない立場を確立しとてつもない資本を蓄えるに至った同社は、映像制作会社に潤沢な資本(予算)を与える代償として、それが生む利益のかなりの部分を取る契約にするのだ。そうなると、どんなにドラマが大ヒットしても「どれだけ売れてもその1割以下の利益」しかもらえないらしい。

 その結果、ドラマが大ヒットして大儲けなのはNetflix側であり、作った会社にはそこまでのうま味がない。結果、資本的に成長できないので、次もまた次もNetflixの下請けみたいなことしかできず、これが延々と繰り返される。

 これに危機を抱いたのが「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」を世に送り出した制作会社だ。同社はNetflixに対して「放映権は売るが資本提供は断った」。自社で製作費をまかなうことにより、同作品が大ヒットすることでNetflix側に利益をほとんど持っていかれるということもなく、正当な利益を得た。でも残念ながら、このようにできる制作会社はまれで、巨大資本に頭を下げないと仕事していけない会社が多いのが実情である。



 冒頭のイエス・キリストの言葉はこのことを突いている。

 富む者はさらに富み、貧しい者は貧しいまま、持っていると思っていたものまで取り上げられる。そのシステムの中では「逆転」はない。

 なぜこういうことが成り立ってしまうのか。



●富む者が、自分だけの成長をより願うからである。

 貧しい者のことは基本どうでもいいのだ。(建前上言えないが)



 持っている者はさらに持とうとする。しかし、この物理世界ではトータルの富は決まった額である。その範囲の下でパイの争奪戦が行われるので、そりゃ強者が総取りしていく。力のないものは取れない。

 非常に残念だが、この世界の経済格差の問題が解消しないのは、良い生活を知ってしまった人間がそれを手放したくないゆえに、ない人間にはないままいてもらいたいというところから出発している。地球の限られた富の中で、自分の方に余計に配分されるためには、モグラたたきで「貧しい者に頭を引っ込めてもらう」しかないのだ。

 このことを分からずにいい人な金持ちでいられるのは「自分で財を築いたのではない、金持ちの親の家に生まれた子ども」くらいなもので、親がどんな手を使ってうなる大金を稼いだのかの実を知らない。



 エンタメ業界全体の活性化、みんなで幸せになろうということを目指すなら、もっと携わる皆に富が分配されるような契約にするはず。でもそうならないのは、結局自社がトップになりたいからで、裏を返せば他は知らん(というか落ちぶれろとすら願っているかもしれない!)ということの表明である。

 この「富む者がさらに富み、貧しい者はさらに貧しく」というのを打破する方法がふたつある。



①富裕層が、自分が楽に暮らしていける以上の余剰分の富を、世に還元する。



②耐えきれなくなった民衆が、何らかの形で自ら変わろうとしない富裕層を打倒する。



 皆さんは、どちらがよいかな? もちろん「あきらめる」という選択もある。どのみちこれが人間の社会というものだ、抗っても疲れるだけで仕方がない、と。

 今のところ、筆者が世界を観察していて①は起きそうにない。

 じゃあ②だ。だが、社会にそういう雰囲気が醸成されるにはまだ時間が必要だ。今の社会はたいへんはたいへんだが、理不尽なことに目をつぶれば大勢がまだなんとか食ってはいける状態だから、戦うより現状維持に気を取られ続けるはずだ。

 イエスが願ったのは、①だろう。愛に気付き、たとえ理想論でも「みんな一緒に天国へ行こう・幸せになろう」という気持ちを、恵まれた人にこそ持ってほしかったに違いない。

 そんな当たり前のことに耳をふさいだのが、当時のユダヤ特権階級である。彼らはイエスを十字架につけろ、と言った。イエスの正しさは、自分たちが守りたいと思ってるものを破壊するからだ。なまじ頭で「イエスのほうが倫理的に正しいことを言ってる」ことを否定できないだけに、何かバカにされたようで怒りが湧くのだ。

 このように、自分が間違っていると分かっているのに、他人から正しさを指摘されるとその相手を攻撃しようとするのを『逆ギレ』といい、今の世の中に多い現象だ。



 今持つ者が、そのまま持つ者でいるために外野からの様々な情報に耳をふさぎ、それでも自分は勝ち組の側でいたいのか。それとも、自分の内側の同胞愛に目覚め、皆で幸せになるんでなければ真の幸せなんかじゃない、と思い切った行動が取れるのか? 筆者は、さらに今後10年の世の動きを見てみようと思う。

 10年後も、地球の富の半分以上を十数人の大富豪がもったままの現状と変わりがないのか、を。

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