何の権威でそれをやるの? ~借り物の言葉で得をしようとすると、結果ひどいことに~

 神は、パウロの手を通して目覚ましい奇跡を行われた。彼が身に着けていた手ぬぐいや前掛けを持って行って病人に当てると、病気はいやされ、悪霊どもも出て行くほどであった。

 ところが、各地を巡り歩くユダヤ人の祈祷師たちの中にも、悪霊どもに取りつかれている人々に向かい、試みに、主イエスの名を唱えて、「パウロが宣べ伝えているイエスによって、お前たちに命じる」 と言う者があった。ユダヤ人の祭司長スケワという者の七人の息子たちがこんなことをしていた。

 悪霊は彼らに言い返した。「イエスのことは知っている。パウロのこともよく知っている。だが、いったいお前たちは何者だ。」 そして、悪霊に取りつかれている男が、この祈祷師たちに飛びかかって押さえつけ、ひどい目に遭わせたので、彼らは裸にされ、傷つけられて、その家から逃げ出した。



 新約聖書 使徒言行録 19章11~15節



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 皆さんの家には、買っただけで読まない「ためになる本」はないだろうか。

 ちゃんと読まないと意味がないのだが、何だか買って家に置いてあるだけで「いつでも読もうと思えば読めるのだ」という安心感も手伝って、「読んだ気にすらなる」 ことがある。

 読書の世界で、最後まで本を読み通すことを「通読」などと言うが、それをもじって買って読まずに積んであるだけでホコリをかぶっている本を「ツンドク(積んどく)」などと表現するジョークもある。

 私も中学時代、有名な進学塾に入っただけで、(そこには入塾のためのテストすら通るのが大変であった)なんだかひと仕事したみたいになり、結局そこで落ちこぼれてしまったという苦い経験がある。 



 スピリチュアルでも、似たようなことが起こる。

 ある人が、素敵なスピリチュアルな教えに出会う。覚者や指導者に出会う。

 その出会い自体は、良いことである。喜ばしいことである。しかし……



●あなたが「これだ!」と思う教えに出会えたり、師を見つけたりしても——

 当たり前だが、それはゴ-ルではない。

 むしろ、出発点であり、旅の始まりなのだ。



 そのことを忘れているような人を、散見する。

 何かの教えや指導者に心酔して、はまっているような人に多い。

 確かに、その先生や教えは素晴らしいのだろう。でも、私は最初に紹介した聖書の文章に登場する悪霊が問うているように、あなたにこう問いたいのだ。



「その指導者のことは知っている。その人物の教えも、よく知っている。

 だが、いったいお前は何者だ?」



 紹介した聖書箇所には、パウロという名前が出てくる。彼はキリストの啓示により、キリスト教をスタートさせた「開祖」である。信仰に篤く、イエス並に数々の奇跡を行ったとされる偉大な人物である。

 イエスやパウロの名によって悪霊に命じると言うことを聞く、という噂だけを聞いて、どこかのバカがマネしてみたというのだ。だが、悪霊はその人物に「資格」を問うたのだ。

 これでは、悪霊の方がまだまともな頭をしてるではないか。



 その真理を知った時。その真理を説く師と出会ったまさにその時こそが、旅の始まり。決して、探求の終わりなどではない。

 その教えを知って後、あなたがどうそれを用いたのか。

 そして、あなたの気付きがどれだけ深まったのか。そして、何人を笑顔にし、その肩の荷を軽くしてあげることができたのか。何かの教えを外部に対し発する時、問われるのはそこである。

 それがなくて発する「偉大な人物からの借り物にすぎない言葉」は、空疎である。

 それで済めばまだいいが、場合によってはその責任を問われ、何らかの現象が起きるかもしれない。(かなりのケースで、それはあなた個人の都合にとって良くないことである)ちょうど、聖書本文の祈祷師が、縁もゆかりもないイエスやパウロの名を軽々しく用いて悪霊に襲われた、というような種類のことである。



 スピリチュアル指導者の本を読み、その人物のセミナーに行きまくることで、何か自分が上等な人間になっていくかのような錯覚。何かがつかめ、分かった気になる錯覚。入り込みが深いと、まるで指導者の境地そのものを自分がつかんだかのように思えてしまうことだって起きる。

 そういう人が、始末に負えない。付き合うのが非常に面倒くさい人たちである。

 たいがいのケースで、あなたはそれほど変わっちゃいない。

 自分の土俵で相撲を取った分しか、正味のあなたは成長しないことを、ゆめゆめ忘れないように。

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