イエス、不出来な弟子を嘆く ~天才の言うことはまともに受け取るな~

【イエス、悪霊に取りつかれた子を癒す】



 翌日、一同が山を下りると、大勢の群衆がイエスを出迎えた。

 そのとき、一人の男が群衆の中から大声で言った。

「先生、どうかわたしの子を見てやってください。一人息子です。悪霊が取りつくと、この子は突然叫びだします。悪霊はこの子にけいれんを起こさせて泡を吹かせ、さんざん苦しめて、なかなか離れません。この霊を追い出してくださるようにお弟子たちに頼みましたが、できませんでした。」

 イエスはお答えになった。「なんと信仰のない、よこしまな時代なのか。いつまでわたしは、あなたがたと共にいて、あなたがたに我慢しなければならないのか。あなたの子供をここに連れて来なさい。」

 その子が来る途中でも、悪霊は投げ倒し、引きつけさせた。

 イエスは汚れた霊を叱り、子供をいやして父親にお返しになった。

 人々は皆、神の偉大さに心を打たれた。



 ルカによる福音書 9章37~43節



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 ある日のこと。

 雑貨屋に買い物に行った。

 ちょっと商品説明を聞きたいものがあったので、近くの店員を呼んだ。

 その店員、最近アルバイトで入りたてなのだろう。

 何だか、対応できないことを聞かれたらどうしよう、みたいなオドオドした感じ。


 

 案の定、商品に関してもあまりよく分かってなかった。

 そこへ、多分店長と思しき人物がこちらに気付いて、駆け寄ってきた。

「まぁ、すみません。何か粗相はありましたでしょうか?」

 まぁさすがは店長、私の聞きたいことをよどみなく、ツボを押さえて説明してくれた。せっかくさすが店長、と思ったのに……

 客の目の前で、その店長は未熟なアルバイト店員をきつくしかった。

 決して間違っちゃいない。理屈上、非があるのはアルバイト店員のほうだろう。

 でも、人としてどうなのか。

 入りたてのバイトより、経験も知識も豊富な上の立場の人間として、もうちょっと配慮というか、優しさというものはなかったのだろうか。



 キリスト教において、イエスは絶対である。神である。

 イエスは完全なる愛の人で、間違ったことは一切しない、言わないと思われている。その前提で聖書も読むので、当然この箇所もそうなる。



●弟子たちは悪霊を追い出せなかった=信仰が薄い

 イエスにはできた=神への信仰が素晴らしい (だって神だもん?)

 つまり、弟子たちは情けない。私たち(クリスチャン)も、弟子と同じ立場=常にイエスを見上げて頑張りましょう!



 クリスチャンには、イエスに非があるという読み方は、どう逆立ちしても出てこないのだ。



 筆者流解釈は、「イエスが人間としては精神性が最高峰の人物で、間違わない」 というリミッターすら外して読む。つまり——



●イエスも、間違う。

 大人げないことも言う。



 この可能性は絶対にある。

 実は、今日の箇所もそのひとつである。

 イエスが未熟だったというひとつの例である。

 先ほどのアルバイトと店長のお話を思い出してほしい。

 確かに、店長の方は知識も仕事の実践力もある。ただ、上の立場の者としてはある程度の寛容さを持って下の者と接しないとやっていけない。

 後進を育成するなら、ある程度の人間力(待つ力、信じる力)がリーダーに求められる。なのに、イエスは悪霊を追い出せなかった弟子たちに、何て言った?



「なんと信仰のない、よこしまな時代なのか。いつまでわたしは、あなたがたと共にいて、あなたがたに我慢しなければならないのか」



 確かに、「我慢にも限度がある」という意見はあろう。

 イエスはある程度まで耐えたが、同じ失敗を弟子が繰り返し過ぎた、と。

 でもそれを言うなら、イエスは自分の命を差し出してでも、十字架の究極の苦しみを無実なのに味わってでも、人類の救いのために思い切れたほどの人物なんですけど? それが、弟子たちの失敗程度で、キレますかね?

 弟子を見下すようなことを、言いますかね?

 イエスは、無条件の愛を持たれた「神の子」らしいじゃないですか。キリスト教によると。

 それが相手に「信仰がない」だとか「いつまで我慢すりゃいいんだ」なんて言うかね? それだったら、イエスよりも不良ラグビー部員に「信じ、愛し、待つ」と言えたスクールウォーズの滝沢先生のほうが人格者ではないだろうか。



 結論として、ここではイエスがリーダーとしてはまだ未熟だったという話なのだ。

 確かに、サイキック能力はピカ一だった。彼の右に出る者は、歴史上でもそういないだろう。だが、人としてはまだまだだった。

 私の解釈では、イエスが大悟したのは十字架上でのこと。

 それまでは、まぁ色々と人間臭いお話があってもおかしくない。



 野球でも、こういう言葉がある。



●名選手だからといって、必ずしも名監督になるとは限らない。



 長嶋監督が、そうだった。

 あの人は、野球の天才だった。

 でも、天才が苦手なのは 「人に教えること」である。

 ある意味努力よりも感覚なので、人が倍苦労してやっとできることをすんなりやってしまう。

 だから、努力によって同じ内容を獲得しないといけない人に対して、的確なアドバイスができない。だから、バッテイングのアドバイスでも以下のような言葉になる。



『このヘンの高さでシャ~ッとボールが来たら、グイッと顎を引いてシュッと腰をひねって、カァンとバットの真芯で捉えて、ビュゥゥッと振りぬくんだ』



 つまりもう、理屈や分析ではなく天才的勘なのだ。

 悪気がなくても、こうとしか言いようがない。

 当然、教えを受ける天才ではないフツー人は「???」である。

 でもこれが、野村監督とかになると話は変わってくる。

 アドバイスが、かなり具体的になるはずだ。

 なぜなら、天才肌でのし上がったと言うよりは、経験と研鑽の積み重ねだから、たどる道がさして違わないので、同じ目線のアドバイスが可能である。

 イエスは天才だったが、自分ができてしまう人な分、他人に寛大にはなれなかった。天才ゆえの、できない人たちに対するイエスのいら立ちが描かれた一幕なのである。今日の話は。

 なのに、クリスチャンたちはイエスが完全という前提を外さないので、そこから出て来れない。



 この世の風潮として、(決していい悪いではないが)成功者や天才をもてはやす。

 人気者にする。

 そのこと自体は害はないが、その人物をマネしだすと、弊害が出る。

 この世界には、成功した人、一躍時の人となった人物が『成功本』を出す。

 一応、「自分はこうやって成功したので、その秘訣を皆さんにも」という好意からではある。でもそれは、実は大迷惑な話なのだ。

 読み物として楽しむ分にはいいが、自分が実際にうまくいくためにマネしだしたらドツボ。

 この世界で、一体何冊の自己啓発本や成功本が売れた? で、何人が大成功を収めた? 私は、そういう話をゼンゼン聞かない。

 本を書いた作者くらいじゃないか? 成功しているのは。(笑)



 この世的に成功したヤツらは、ある意味「天才的勘」がある。

 つまり、それは文字にして他者に伝えることのできない部分である。

 実は、大事なことの9割まではそちらの「感覚部分」 になる。

 それを本にするなど、すれっからしの、出がらしのお茶っ葉と同じ。

 でも人は、そこにこそ成功のエッセンスがあると信じて、頑張ってマネをする。

 でも、そもそものキャラ設定や環境設定がこの世ゲームでは皆違うので、前提条件が違う者のマネをしても、同じようにいかないのは必然。

 そこで、筆者からの老婆心からのアドバイス。



●天才の言うことは、あまり相手するな。

 真に受けるな。



 アイツらは、アイツらだからできたのだ。

 他人は、また別だ。

 ヨソはヨソ!ウチはウチ!

 もちろん、参考材料にはしたらいい。

 でも、何かそれが自分より上で、自分を成功や幸せに導いてくれるものだなんて風にあがめだし、必死に実践しだしたら、ちょっと赤信号。

 かなりの確率でうまくいかない。で、「うまくいかないのはなぜ?」と考えだす。

 そこで、成功本なりその作者に好意的なので、そっちに非があるとは考えず、「自分のやり方に問題があるんだ」というオトナな発想ができてしまう。

 で、どんどん自分のダメさ加減が自覚されてしまう。



 成功本に書かれてあるのは、長嶋監督の ヒューッととかズバンととかカキーンととか、その種の言葉の羅列でしかない。

 それに、冷静に見たら当たり前のことしか書いてなくないです?

 それができるくらいなら、苦労はないんですよ。

 あなたはあなたの状況に合った、あなたオリジナルの『スピリチュアル』を編み出すのだ。それができるのは、あなた自身のことを一番良く分かっている「あなた」しかいない。

 


 どうか、天才のマネをしたら天才になれるという勘違いから目を覚ましてください。聖書も成功本も自己啓発本もスピリチュアル本も、面白いお話を楽しむ感じで。

 決して、熱くなりすぎないように。(笑)

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