ユダ、イエスへの裏切りを企てる② ~裏切りはユダなりの渾身のメッセージ~
【ユダ、裏切りを企てる】
そのとき、十二人の一人で、イスカリオテのユダという者が、祭司長たちのところへ行き、「あの男をあなたたちに引き渡せば、幾らくれますか」と言った。
そこで、彼らは銀貨三十枚を支払うことにした。
そのときから、ユダはイエスを引き渡そうと、良い機会をねらっていた。
マタイによる福音書 26章14~16節
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イエスが十字架にかかって処刑されることになっていく、発端の事件である。
ユダ、という弟子の裏切りである。
ユダがイエスに期待していたのは、恐らく「威厳ある、栄光の救世主」だった。
ユダヤの国を再興し、この世界を統べ治める「大成功者」のようなものをイメージしていた。というか、彼ばかりが悪いのではなく、当時の「救世主像」とは全般的にそのようなものだった。
だから、イエスが現れ「この人物がメシア(救世主) か?」となった時に、皆はとまどった。
だって、カネなし。定住もせず、放浪ホームレス状態。弟子を含め、常に腹をすかせやっと食いつないでいる。
金持ちでも相手にすれば儲かるのに、イエスがもっぱら関わろうとするのは一般庶民、貧乏人。病人や犯罪者や娼婦など、世間からつまはじきにされている人。
精神的に高いということは間違いないのだが、どうもイメージが違う。
「こんなみじめな暮らしのために、イエス様に従ったんじゃない!
これも作戦なのかと思って、いつか立ち上がるのかと今まで我慢してきたけど、どうも作戦とかではなく、ホンネでこれがいいと思っているらしい。
万民の王(この世的な意味での)になる気はないらしい。
ならば、ここらで見切りをつけるべきか——」
こういう、ユダのような人は多い。
謙虚に師事しているようでいて、その実は尊敬する先生に自分のしてほしい役割を重ねて見ているだけなのだ。こういう役割でいてくれ、と要求し押し付けているだけ。そして先生がその要求を満たしてくれなくなった時、その人にとって先生の存在意義はなくなる。
そうなれば次は、自分の要求水準を満たしてくれる別の先生を探すだけ。
このような、自分勝手な一人相撲を取っている尊敬する人物への「信奉者」は、時として目に見えて分かる批判者や反対者よりやっかいなことがある。表面上はとっても好意的だからだ。
最初から反対してる人など、実は大した脅威ではない。
最初好きになってくれて、後で何かの事でつまづく人の方が、脅威になる。ユダの場合もそうだった。可愛さ余って憎さ100倍、ということわざの通りである。
ユダは、意を決してイエスが邪魔で亡き者にしてしまおうとしてる権力側に接触する。私はイエスに信頼されている弟子だから、協力できるぞ、と。
もちろん、権力側はこの話に飛びつく。
でも不思議なのは、報酬に関してである。
銀貨30枚、と聖書には書いてある。
それって、いかほどの価値なのか。
当時の価値にしたら——
●奴隷一人分の値段。
日雇い労働者が約90日分働いた額に同じ。
日給1万円程度として、90日で90万円。
かなりおおまかにいって、100万円程度。
イエスの価値が100万円、って安すぎません?
ユダは歴史的にもものすごいことをするわけだから、もっともらっていいはずだ。
彼一人くらいなら、相当の地位を与え一生遊んで暮らせるだけのお金を支払ったっていいくらいだ。権力側にとっては、それほどまでにイエスが邪魔だった。
きっと、ユダがごねればアップしてやってもいいか、とは思っていただろう。
これも一種の駆け引きで、最初は安値を言った。でも、意外なことに、ユダは値上げを要求してこなかった。最初の言い値銀貨30枚で即OKだったのだ。
これには、大阪のおばちゃんも真っ青である。
「あんた! なんちゅうもったいない……」
駆け引きのため、反対を承知で言った値に対してそれでいい、と言われたので、権力側はビックリというか、かえって拍子抜けである。はぁ……それでいいんなら……まぁひとつよろしく、ってな感じ。
では、なぜユダは銀貨30枚(100万円ぽっち)で、イエスを裏切るという大それたことに手を染めたのか。それを理解するには、感情というもののメカニズムを考えねばならない。
●感情エネルギーが増大していくと——
その感情が向かっている方向性に、さらに押し広げて行こうとする。
良い感情は、もっと良くなる方向へ。
悪い感情は、さらに悪くなっていく方向へ。
しかも自ら望んで、そうするのだ。
つまり、良い方向(喜び・発展)に感情を使えば、もっともっととその方向にエネルギー増大させていく。
逆に悪い方向(妬み・憎しみ)に感情が向かえば、もっとそちらの方向へ、相手もわが身も持っていこうとする。
不思議なことに、ここで損得勘定はあまり邪魔をしない。
そんな感情、自分が損だぞ? あなた自身も、不幸になるぞ?
そういう声は、しなくなる。
むしろ、自分から望んで、喜んで自分を傷付けるのだ。相手をおとしめるという望みがかなうなら、自分のこうむる損害など構わないのだ。
ユダも、この場合に当てはまると考えてみよう。
彼自身の内的世界の中で、期待と実際が違ったイエスに対して恨みを抱いた。
そのマイナス方向のエネルギーは、さらに発展しようとした。
ゆえに、どういうドラマが引き起こされたかというと——
銀貨30枚ぽっちでイエスを売る、ということを通して、「ホラ見ろ、お前の価値はこの程度よ!」ということを言いたかった。
自分の損得などを越えても、言いたかった。銀貨30枚という安値で自分が損だ、ということなど乗り越えさせる感情エネルギー。
それが、現代の人々の中にも、まだある。
私の行った講演会の中でも、寄せられる質問の中にも、時として「不幸自慢」のような質問がある。
まず、本題に入る前に「いかに私が不幸か」についての、親切すぎる描写が入る。
ひとしきりそれを説明した後に、こう言う。
「私、変わりたいんです。この状況が、イヤなんです。どうしたら変われますか?」
答えは簡単である。
その人が本気で変わりたいなら、変わるでしょ。
変わりたい、と思っているんだから、もう質問しに来なくていい。
人生の主人公がホンネでそう思うんなら、万事解決。
裏返せば、今ここにおいてそういう質問をしてくるということは、ウソがあるということ。「変わりたい」 という気持ちは、実は錯覚。
エゴによる巧妙なすり替え術。無意識では、「今の状況をもっとやっていたい」 のだ。でも、そう自覚するのはプライドが耐えられない。だから、そこは顕在意識が協力体制に入り、「ホンネで変わりたいと思っている」という認識にマジでなる。
だから、質問している本人は「マジに」変わりたいと思っている。
当然だ。だって、「変わりたくない」という思いは無意識に隠されているから。
だから、私がこういうことを言うと、皆首を傾げる。
「いや、そんなことないけどなぁ……」
そりゃそうだろう。自覚できちゃったら、無意識じゃないもん。
長年月かけて築かれた砦だ。簡単には陥落しない。
不幸を並べ立て、こんな状況から変わりたいけど変われない、そんな人の特徴。
それは、ユダに同じ。負の方向への感情エネルギーが増大して、それは自然に、さらに負の方向に発展しようとする。
本気で変わりたいなら、変わるはず。(現象面のことではない)
本気なはずなのに変わらないというなら、何かがせき止めている。
せき止めているどころか、望んでそうなろうとしている。
世の中に、他人に恨みがあるその心は、こう叫んでいる。
「ホラ、私を見ろ!
世界よ、この私を救えるのか?
こんなに大変なんだよ。ホラ、さらにこんなひどいことになってやったぞ!?」
これでも、あなたは私を救えるというか?
救えるもんなら、救ってみろ!ホラホラ!」
これが言いたいがために、その人は人生をも懸けて惜しまない。
そこまでするのだ。
ユダにしても、銀貨30枚という割に合わない報酬で危険な仕事に手を染めたのは、自分の負の感情を、そんなことを通してでも表現せずにはいられなかったから。
不幸を並べ立てる質問者さんも、そんな辛い思いをしてまで、他者にこれが言いたいのだ。納得されないとは思うが、「あなたが望んでそうしているんですよ」。
結局、ユダが銀貨30枚でイエスを売ることに同意したその意味。
彼なりの、命がけのメッセージだったのだ。
方向性は「負」ではあったが、全身全霊の自己表現だったのだ。
彼は、損得を越えて 「言いたいことを言い、やりたいことをやった」 。
皆さん一人ひとりが、宇宙の主人公である。王である。
筆者は、あなたの宇宙の中では脇役にすぎない。
だから、あなたの宇宙の中で私ができることには限りがある。
結局は、王であるあなた次第。
私の言葉があなたを救えなくても、それは私のせいではない。
あなたの、意識的選択である。
だって、あなたがその気にさえなれば、高額なセミナーなど出なくても、石が転がるとか箸が落ちるとかいう現象からでさえ、気付きは起きる。(そんなこと言ったら、誰もお金払って講演会なんか来なくなる? 笑)
外に存在する、あなたが優れていると考える人物が、あなたを救う手段を知っていると思わない方がいい。例えそう見える現象が起こっても、それすらあなたのプレイヤー意識が創造した自作自演のドラマである。
私に出来るのは、あなたという命(魂)を信じ、応援することだけである。目に見えたあなたを取り巻く大変な状況ではなく、それを演じているあなたの命の方に注目してあげることである。
そしてその唯一のことは、世界で一番素敵なことでもあったりする。
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