穢汙
その頃、張岱は
「何とも
張岱は、未だ眠って可愛らしく寝息を立てている姣童の肩をそっと撫でた。その肌は絹のように清らで滑らかで、何時までも触っていたいと思うほどであった。かつて遥か昔、漢の
張岱が身を起こして寝惚け眼を擦った所に、突然、彼の下男が走って床の間に入って来た。
「旦那様!旦那様!」
あまりにも性急に過ぎるその叫びに、張岱は煩わしさでしかめ面になった。
「何じゃ、騒がしい。入って来るなと言いつけておったろうに。」
「そ、それが……
下男は途中途中で舌を噛みながら、その重大事を主人に伝えた。
「何だと!?」
張岱は蒲団を蹴飛ばして跳ね起き、多めの金を置いていくと、急いで身支度をして出立した。
全裸になった住職と修行僧は、井戸の
「ふんぬ!」
住職の気張り声と同時に、尻から
ぼちゃん、ぼちゃん、ぼちゃん、と、それが水に跳ねる音が、辺りに響いた。
住職と修行僧たちは、
「見たか貴様ら!もうこの泉は仕舞いじゃあ!はっはっはっはっ!」
住職は縁から降り立って
下僕たちは泉を覗いたが、その水底は先程ひり出された穢汙で濁り切っていた。これではもう飲めたものではない。落胆した下僕たちはすごすごと退散していった。
張岱が下男と共に斑竹庵に着いた時には、もう住職たちは奥に引っ込んでいた。張岱は、泉の周りの閑散としているのを見て首をかしげた。いつもは人だかりであることを考えると、全くおかしな光景であるからだ。
張岱は泉を覗き込んだ。そこは既に人が出す穢汙の物に穢されてしまって、嫌な臭いを漂わせていた。その時初めて、張岱は下男の焦った態度の
張岱は下男に命じて水を
「ああ……そんな……」
張岱はがっくりと肩を落とし、力なくとぼとぼと帰っていった。中華の悠久の歴史の中で、失われたものの数は計り知れない。秦始皇の治世には数多の書が焚されたし、南北朝の戦乱で南朝の建康は無残にも破壊され、唐の長安も
その日は日がな一日、自室で俯いていた。食事さえ喉を通らない。まるで李夫人を失った漢の武帝や、楊貴妃を斬らねばならなかった唐の玄宗のように、ひたすら悲しみに暮れていた。
落ち込む張岱の頭に、ふと、昨晩の姣童のことが浮かんだ。途端に、その柔肌が恋しくてたまらなくなった。そうだ、気を晴らすには、
張岱は、銭を握りしめて、紹興の夜の街へ繰り出した。
穢汙の泉 武州人也 @hagachi-hm
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