穢汙の泉
武州人也
禊泉
この泉は
この泉を世に広めたのは、かの
明の
好事家たちの間で、禊泉のことが知れると、水を汲みに現れる者が毎日あった。この水で茶館を開いたり、酒を醸したり、
それから暫くすると、禊泉の名は更に広く知れ渡った。水を汲みに足を運ぶもので、井戸の前はいつもごった返していた。水を汲むよう命じられて庵に来た下僕の者たちは、炊事場を勝手に拝借しては、薪やら米やらおかずやら、果ては酒や肉を求めて大声で騒ぎ立てた。それが貰えぬと分かると、拳に訴えかけて乱暴に及ぶ始末であったという。
庵の住職は、修行僧たちを呼び集めて話し合った。用心棒でも雇って、水を汲みに来る者に睨みを利かせよう、という案がまず最初に発せられた。そのような余裕はないと、住職は案を退けた。次に、泉を封鎖して出入りを禁じては、という案が出た。しかしあの熱狂ぶりでは、封鎖したとて無意味に違いない。もっと根本的な解決策はないものか、と住職は尚も求めた。
その時、一番若い僧がやおら手を挙げた。
「申してみよ」
住職はその若い僧を指名し、意見を求めた。僧は自らの意見を衆前で滔々と述べた。一同は皆驚愕し、俄かにざわつき始めた。住職は腕を組み、難しい顔をしていた。判断を渋っているのだ。この若い僧の案を採れば、泉の水は長い中華の歴史から永遠に姿を消してしまうだろう。後世の者から泉の水を取り上げてしまうのは、何とも忍びないことであった。
住職は、判断を保留にし、その日は合議を終えた。
次の日も、井戸の周りは喧騒に満ちていた。その中に、酒に酔った一人の男がいた。男は傍にいた男に難癖をつけて殴り、喧嘩が始まってしまったのである。絡まれた男が反撃を加えると、酔った男は後ろに倒れ、地面にあった石に頭をぶつけてしまった。酔った男はそのまま動かなくなり、事切れてしまった。とうとう、禊泉で死人が出てしまったのである。
もう、住職は我慢の限界だった。最早、やむを得ない。住職はそう考えたのであった。
その次の日、朝早くに、住職は四人の修行僧を引き連れて、井戸の前に立っていた。既に早朝から、水を汲みに来る下僕が多くいた。
「貴様ら、見ておけ!この泉の最期である!」
住職と修行僧は、僧衣を脱ぎ捨て、下着を解いて全裸を衆目に晒した。
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