ひとりぼっちのお姫様

在原旅人

第1話


 あるくにに小さなお姫さまがくらしていました。

 お姫さまがすごしているお城は小さいですが、小さなお姫さまにはじゅうぶんな広さです。

 しゅういは色とりどりの花にかこまれ、だいりせきで作られたお城やすんだみずうみがあさひにてらされるすがたは、それはそれはうつくしいこうけいでした。

 お城にはお姫さまにつかえる鳥やどうぶつたちが、お姫さまの身のせわをしてくれました。

 お姫さまはまいにちけらいたちがじゅんびしてくれるごはんをたべ、にっちゅうは城やしゅういの森をさんぽしたり、花をつんですごしました。

 城やそのしゅうへんのうつくしいけしきも、鳥たちがさえずるうたも、おやつにだされるあまいケーキやクッキーにもまんぞくしていましたが、ただ一つふまんがありました。

 お姫さまにはともだちがだれもいないのです。

 お城のどうぶつたちはせわをしてくれますが、あそびあいてやはなしあいてになってくれませんでした。

 はなしかけても、あそびにさそってもいつもいそがしそうなのです。

 だからお姫さまはいつも一人ですごしていました。


 ある日のことです。

 一人でお花を摘んでいたお姫さまの前に、みなれないどうぶつがあらわれました。

 ぜんしんまっくろで、目だけがギョロリとしています。

 まるであくまのようなそのすがたに、お姫さまはこわくてふるえました。


「こんにちはちいさなおじょうさん」


 あくまのようなどうぶつは、お姫さまにむかってはなしかけてきました。

 お姫さまはゆうきをだしてはなしかけました。


「あなたはだあれ。わたしはあなたをはじめてみます」

「これはしつれい。わたしはたびのクロネコです」


 そのどうぶつは、そうなのりました。


「それでそのいいにおいがするクッキーを、ぜひともわけてもらえませんか」


 お姫さまはおやつにたべるクッキーを、ポケットにしのばせていたのです。

 お姫さまはポケットに手をあててかんがえました。


「わかったわ。そのかわり、あなたのたびのおはなしをきかせてもらえないかしら」

「おやすいごようです。このくにほどうつくしいくにはありませんが、それでよろしければよろこんでおはなしいたしましょう」


 お姫さまはクッキーを一つ、てわたしました。

 クロネコはそれをたいらげると、たびしたくにのはなしをはじめました。

 すべてがブリキでできたブリキのくに。

 おおきなとけいときかいばかりのきかいのくに。

 かげほうしですべてがくろづくめのかげのくに。

 なにもかもさかさまのあべこべの国。

 クロネコのはなしはしんせんではありましたが、たしかにこのくにとくらべてすぐれているものはありません。

お姫さまはきたいしていたはなしとちがうことにガッカリしました。


「お気にめしませんでしたか」


 クッキーをほうばりながらクロネコはいいました。

 かれはクッキー一まいにつき一つのくにのはなしをしてくれるのです。

 のこったクッキーは二まいになりました。


「なにかこう違うのよ。あなたのはなしにでてくるくにはみんなたいくつだわ」

「わかりました。とびきりのはなしをいたしましょう」


 お姫さまはクッキーを手わたしました。

 クロネコがつぎにはなしたのはへいぼんなくにでした。

 でもそこにはたくさんのこどもたちがいて、いつもいっしょにあそんでくらしているのです。

 お姫さまは目をかがやかせました。


「それはすてき。ねえ、そのくににいくことはできるのかしら」

「もちろんですよ」


 お姫さまのといかけに、クロネコはにやりとわらいました。


「これまでにクッキーをいただいたおれいです。そのくにつれていきましょう」

「ありがとう」

「ですがわたしは一つのくに一にちしかおれません。なのであなたがそのくににいられるのは一にちだけです」


 一にちとはいえすてきなくににいけるよろこびに、お姫さまはうなづきました。


「それはどれぐらいかかるのかしら」

「なあにすぐですよ。われわれネコには、ほかのどうぶつにはみえないネコだけのみちをしっていますので」


 お姫さまはたちあがると、クロネコの後ろについてあるきました。



 きがついたらしらないところにいました。

 そこはちいさなへやで、いろいろなおもちゃがゆかにおちていました。

 しゅういにクロネコのすがたはありません。

 お姫さまはふあんになりました。


「だれ?」


 とつぜんのこえに、お姫さまはおどろきました。

 へやの中にはもう一つ、ベッドがあってそこにはだれかいたのです。

 お姫さまがみあげると、そこには王子さまがいました。

 いえよくみるとおうかんもかぶっていませんし、ふくもふつうのシャツです。

 王子さまみたいなおとこのこです。


「あの……」


 お姫さまはこえをかけましたが、おとこのこはけいかいするようにお姫さまをみています。

 どうしたらいいだろうとお姫さまはかんがえ、いいかんがえがうかびました。


「ここにクッキーがあるの。これを一まいさしあげますから、おともだちになってくれませんか」


 おとこのこはおずおずと差し出された手を掴みました。

 そしてベッドからおりました。

 おとこのこはクッキーをたべ、いままでたべたことのないおいしさにおどろきました。

 お姫さまはおとこのようすをみてほほえみます。

 ふたりはともだちになりました。

 それからふたりは一にちじゅうあそびました。

 おとこのはお姫さまにオモチャのそれぞれのあそびかたをおしえ、お姫さまはそれをつかってはわらいごえをあげるのです。

 時間はあっというまにすぎていきます。

 まどからゆうひがさしこんでいました。

 それほどめずらしいこうけいではないのに、ふたりはいままでみたことのない、うつくしい光だとかんじていました。

 ひとりより、ふたりでみるゆうひがこれほどうつくしいとはしらなかったのです。

 お姫さまもおとこのこもおなじでした。

 ふたりはみつめあっていました。

 ずっといっしょにいたいと、おたがいにおもっていました。


「はい、時間だよ」


 そこにクロネコがあらわれました。

 お姫さまははっとします。

 そうです。

 やくそくは一にちだけなのです。


「ごめんなさい、もうかえらなくてはいけません」


 お姫さまはおとこのこに、おわかれをいいました。


「またあえる?」


 おとこのこはといかけました。

 お姫さまはくびをよこにふりました。

 くろねこは一つのくにに一にちしかいられません。

 もう二どと、あえないのです。


「ですが――」


 お姫さまはおとこのこに、ほほえみながらいいました。


「わたしたちはずっと、ともだちなのですよね」

「もちろんだよ」


 おとこのこは、だんげんしました。

 お姫さまはむねにあたたかいものがながれるのをかんじながら、ひかりにつつまれていきました。

 お姫さまは、そのくにからすがたをけしました。

 

 あるくにに、お姫さまがひとりですんでいました。

 そのくにはお姫さまをせわをしてくれるどうぶつのけらいはたくさんいましたが、あそんでくれるともだちはだれもいません。

 ですがお姫さまは、けっしてひとりぼっちではありません。

 どこかとおいくにに、お姫さまのともだちがすんでいます。

 お姫さまはそのともだちのことをもううと、とてもしあわせなきもちになれました。

 とおいくにのともだちのことをおもいながら、お姫さまはきょうもひとりですごしています。

 

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