第二章八節 闖入

 シュランメルト達が模擬戦闘を終え、機体を格納庫へ戻そうとしたその時。

 光るものが、Asrionアズリオンの目の前を通り抜けた。


「光弾だと!? くっ、全員散れ!」


 シュランメルトの指示とほぼ同時に、全機が散開する。


「今のは、どこから……」

「全員、空を見てください!」

「空……? ッ、あれが攻撃の正体か!」


 シュランメルトの見た先にあったのは、灰色の魔導騎士ベルムバンツェであった。

 腰部に取り付けられた筒状の物体から魔力を噴射し、空に留まっている。


 左肩には、右側を向いた狼が描かれていた。


「あの狼のマーク……。この前フィーレを襲った連中の仲間か?」

「その通りだと思いますわ、シュランメルト。そしてあの機体は“Bispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデル”。高級機の一種で、飛行能力を有する機体ですけれど……何から何まで、卑怯なやからですわね」

「まったくだ。あのように空を飛べる機体まで保有しているとは……」


 そう。

 シュランメルトの駆るAsrionアズリオンには、跳躍能力はあるが、飛行能力は無い。


「それでも、わたくし達の魔導騎士ベルムバンツェでしたら……!」

「そうだよ! 僕達やししょーの乗る魔導騎士ベルムバンツェは、飛べるんだから……!」


 フィーレとグスタフが意気込む。

 が、それをリラが制した。


「フィーレ姫、グスタフ。ありがとうございます。ですが、あなた達の機体は万全ではありません。私のOrakelオラケルが戦いますので、どうか安全な所へ。シュランメルトも」

「リラ師匠!」

「ししょー!」


 リラを心配する、フィーレとグスタフ。

 だが、リラは操縦席の中で軽く微笑んだ。


「安心してください。手負いではありますが、いえ、手負いだからこそ……私やOrakelオラケルは強いのです」


 そうして、前へと出たリラは、高らかに告げる。


「警告します! 今引き下がれば、私達は何もしません!」


 だが、Bispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルは、無視して光弾を撃ち始めた。


「聞き届けては下さらないのですね……! では!」


 リラが光弾を放った、その直後――


おれが何もしないのは我慢ならんな。それに、あの程度の高さならば何とかなるかもしれん」


 シュランメルトが、Asrionアズリオンを疾走させる。


「待ちなさい!」

「お兄さん、今は……!」


 フィーレとグスタフが止めるが、シュランメルトは無視する。

 そして――


「跳べッ、アズリオンッ!」


 自らの愛機、Asrionアズリオン


「シュランメルト!? 何をしているのですか!?」


 リラは気づいてすぐに光弾を止めるが、シュランメルトは既に空高く跳躍していた。

 焦ったBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルの1台が、慌てて回避しようとするが――


「遅い」


 Asrionアズリオンは容赦無くBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルを掴み、もろともに地面へ向かっていく。

 Bispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルは頭から地面に叩きつけられ、動きを止めた。


「シュランメルト!」

「安心しろ。おれAsrionアズリオンは平気だ。それにしても、試してみるものだな。これならばもう1台もいけそうだ」


 言葉通り、Asrionアズリオンにはいささかのダメージも無い。

 シュランメルトは残っている2台のBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルを睨むと、リラに告げる。


「リラ。1台は任せても良いか?」

「え、ええ……」

「承知した。ならばおれは、手前の1台を潰す」


 言うが早いか、Asrionアズリオンは大剣と大盾を構え、再び跳躍する。

 足元にあったBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルは、跳躍の衝撃でバラバラに砕け散った。


「今すぐ、消えろ……!」


 シュランメルトはAsrionアズリオンに、跳躍しきったタイミングで剣を構えさせる。

 Bispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルは急いで離れようとするが、より上の高度を取っていたAsrionアズリオンに先回りされる。そして――


「終わりだ」


 頭部から、機体が真っ二つになったのであった。


「こちらも、終わりました」


 リラの声に振り向けば、発射し終えたボウガンを構えているOrakelオラケルの姿、そして胸部に矢が2本刺さったBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルが見えた。


「シュランメルト。まずは、この窮状より私達を助けてくださったお礼を申し上げます。ありがとうございました」

「いいさ。当然の事をしたまでだ」

「ですが、それとは別に話したい事もあります。今晩貴方の部屋にまいりますので、くれぐれもお忘れなきよう」


 リラはそれだけ言い残すと、Orakelオラケルを格納庫へと向かわせたのであった。

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