第二章九節 叱咤

 その夜。


「ねえ、フィーレ姫」

「何でしょう、グスタフ?」

「どうして、ししょーとお兄さんがいないのかな?」

「……さあ?」


 ダイニングでは、フィーレとグスタフだけが食事を取っていた。


---


 グスタフが話題にした二人、シュランメルトとリラは、二人揃ってシュランメルトの部屋にいた。


「さて、シュランメルト。お話があります」


 腕を組んだリラが、じっとシュランメルトを見据える。


「本日の模擬戦闘に関するお話です。どのような内容か、心当たりはありますか?」

「さあ、まったくわからないな」


 その返答を聞いた途端、リラはゆっくりと息を吐く。

 そして、シュランメルトに告げた。


魔導騎士ベルムバンツェ2台を小破、および中破させた事に関するお話です。単刀直入に言いましょう。




 シュランメルト、貴方は“やり過ぎ”です」




「“やり過ぎ”だと?」


 想像の外にある言葉に、シュランメルトは首をかしげる。

 リラはシュランメルトの反応を気にせずに続けた。


「ええ、やり過ぎです。いくら魔導騎士ベルムバンツェに自己再生能力があると言っても、腕を叩き斬るのはもう、再生能力を上回っています。そうなった場合、どうやって修復するか、知っていますか? シュランメルト」

「……」


 シュランメルトの沈黙を確かめたリラは、あくまでも冷静に答えた。


「私達人間が魔力を込めて、あるいは物理的に繋げなおして、修復するのです。当然、自然再生よりもはるかに手間がかかります。ましてや魔導騎士ベルムバンツェは最低でも9m、最高では15mもの大きさを有するもの……。その手間は、いかほどのものでしょうか」


 ここまでの言葉で、だいたいの意味を察したシュランメルトがうつむく。

 それでも、リラは言葉を止めなかった。


「ですので、貴方に罰を与えましょう」

「……何なりと、言ってくれ」


 罰――それだけの事をした。

 シュランメルトは全く理解出来ないながらに、それを察したのだ。


「明日、フィーレ姫をお迎えする使者達がいらっしゃいます。ですが、貴方は腕とはいえ、姫のViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンを破壊した。そのような姿を、使者の皆様にお見せするわけにはいきません」


 リラはまず前提を述べてから、本題に入った。


「ですので、シュランメルト。貴方に、Asrionアズリオンによる姫の送迎を命じます。無論、往復どちらの道も、です。引き受けて、いただけますね」

「もちろんだ」


 シュランメルトはあっさりと、リラの罰を受け入れた。


「ありがとうございます。では、夕食にしましょうか」

「わかった。ゆっくり、いただくとしよう」


 こうして、リラによる叱咤は終わったのであった。

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