第二章七節 勝利

『はぁっ!』


 突進しながら杖をかざし、光弾を立て続けに放つViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリン

 Asrionアズリオンはその場に立ったまま、盾でやすやすと全弾を受け流した。


「受け流せない事は無いな」

『そのくらい、承知の上ですわ!』


 が、その間にViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンAsrionアズリオンとの距離を詰めきっていた。


『覚悟!』


 剣を逆手に持ち替えるや否や、素早く盾との間に引っ掛け、強引に引きはがそうと試みる。

 Asrionアズリオンは抵抗するが、Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンは重量を乗せて引っ張っており、いかに膂力に優れたAsrionアズリオンといえど、片手ではなかなか振りほどけなかった。


「ふむ、捨て身の攻撃か。となると、取る行動は一つだけだな」


 振りほどけないと判断するや否や、シュランメルトは決断をした。

 Asrionアズリオンが盾を持つ手を緩める。


『きゃっ!?』


 自重を乗せていた事が仇となり、Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンがよろけながら後ずさる。

 そうして生まれた隙を、シュランメルトはきっちりと突いた。


「そこだ」


 まだ剣が届く内に、真上に高々と掲げてから振り下ろす。

 それを見たフィーレは。


『諦めませんわ……!』


 むしろ思い切り後ろへ跳躍し、致命の一撃を回避した。

 剣は何も無い空間を切り裂くにとどまる。


「ふむ、的確な判断と行動だ。今のをよくかわしたな」

『王族の、そしてリラ師匠の鍛錬を侮らないでくださいませ。まだ勝負は付いておりませんわ』


 距離を取った状態のまま、フィーレは杖から光弾を放つ。

 盾を失ったAsrionアズリオンは、剣の腹で弾く――が。


「むっ、ただの一撃で捻じ曲がるか。もう一度受けたら、間違いなく折れるだろうな」


 Asrionアズリオンの堅牢な装甲はもとより、Adimesアディメス結晶にさえも強度で劣るただの金属では、Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンによって増幅するフィーレの魔術を抑えきる事は出来ない。

 いくら威力を加減しているといえど、Adimesアディメス結晶に及ばぬ強度の物質ならば、十分に破壊可能な威力を有しているのだ。


『今度こそ、その剣をへし折って差し上げます!』


 再び光弾が放たれ、Asrionアズリオンが持つ剣へと向かって飛翔する。

 それを見たシュランメルトは、既に次の行動に移っていた。


「へし折る必要は無い。もはやこれは不要だ」

『何ですって……!?』


 剣を捨て、Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリン目掛けて疾走するAsrionアズリオン

 胸部を両腕でかばいながらも、着実に距離を詰めていた。


『捨て身の攻撃!? くっ、距離のある内に……!』


 フィーレは予想外の動きに動揺しつつ、しかし冷静に狙いを定め、光弾を連発していた。

 何発かはAsrionアズリオンの腕に命中する。


「流石はリラの弟子だ。動く標的であっても、こうも当ててくるか」

『まだまだ当ててみせますわ……!』


 攻撃の手を緩めず、なおも光弾を放ち続けるViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリン

 それを見たシュランメルトは、口元をにやけさせた。


「見事だ。その腕前に敬意を表し、おれも操縦技術を見せてやろう」


 その言葉に合わせ、Asrionアズリオンが前傾姿勢を取る。


『何ですの………………!?』


 フィーレが訝しむ時間もあらばこそ。


「はぁっ!」




 何とAsrionアズリオンは、




 一瞬でViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンの手前まで、たどり着いたのである。


「その武器、もらうぞ」


 そしてViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンの肘関節を、可動域から逸脱した方向に力を込めて粉砕する。


『きゃっ、右腕が……!?』

「終わりだ」


 Asrionアズリオンは大した時間もかけず、Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンから剣をもぎ取る。

 そして喉元に突き付け、こう告げた。


おれの勝ちだ」

『くっ……!』


 フィーレは一瞬、左手に残された杖での抵抗を考える。


(けれども、間に合う保証はありませんわね。

 わたくしの攻撃よりも先に、シュランメルトが頭部を潰して終わり。

 認めたくはありませんが、これが結果ですのね……)


 しかしすぐに敗北を認め、杖から手を離す事を決断した。




 ここに、2回の模擬戦闘は、「どちらもシュランメルトの勝利」という結果に終わったのであった。

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