第二章六節 撃破

 いまだ続くFlammbergフランベルクの連撃を受けながらも、Asrionアズリオンの装甲には大したダメージが見受けられない。


『ちょっと、いくらなんでも硬すぎでしょ!?』


 何度も連撃を叩きつけたというのに、一向に動きの鈍る気配が無いAsrionアズリオン

 そんな様子を見て、グスタフは焦りを隠せないでいた。


『グスタフ、離れて!』


 と、そこにフィーレの声が聞こえる。


『フィーレ姫! わかった、やってみる!』


 言葉の意図を察したグスタフは、Flammbergフランベルクを飛び退かせる。

 しかし。


「悪いな、おれにも聞こえているぞ」


 シュランメルトもまた、グスタフに迫るようにAsrionアズリオンを跳躍させる。

 秘匿ひとく性も何も無い、ただ拡声機で声を響かせただけの通信は、シュランメルトにも内容を知らせていた。


「そしてグスタフ、お前がする事はもうわかっている」


 その言葉に続いて、Flammbergフランベルクを放つ。


『はぁっ……!』


 しかし。


「予想通りだ」


 Asrionアズリオンは蹴りを盾で受け流すと、そのまま伸び切ったFlammbergフランベルクの脚を盾で殴って転倒させた。


『うわっ!?』


 予期せぬFlammbergフランベルクの動きに、グスタフが慌てる。

 が、時すでに遅し。


「終わりだ。まずは一つ」


 Asrionアズリオンが、Flammbergフランベルクの三本の左腕目掛けて剣を振り下ろす。

 結晶の破砕音を立て、腕がちぎれ飛んだ。


『ひ、一振りで三本とも……!?』

「グスタフ、降参しろ」

『ッ、まだ……!』


 残った右腕三本を振り回し、寸鉄を握りしめた拳を叩きつけようとするFlammbergフランベルク


「降参しろと言ったはずだが?」


 しかし腕を振るよりも先に、Asrionアズリオンが盾をFlammbergフランベルクの手首目掛けて殴りつける。

 一番上の一本を除いて腕が押さえつけられ、残る一本もむなしく空を切った。


『これでもダメか……! わかった、僕は降参するよ。腕を回収させてほしい』

「了解した」

『承知しましたわ、グスタフ。わたくし一人でも戦ってみせます。王家の誇りにかけて』


 AsrionアズリオンViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンが、互いの合意の元に動きを止める。

 完全に2台が止まった事を確かめると、Flammbergフランベルクがよろよろと立ち上がり、ちぎれた腕を回収してから工房へ向かう。腕の半分を失った事でバランスが崩れており、足取りはふらついたものになっていた。

 そして模擬試合用の広場から離脱したのを確認した2台は、再び武装を構えた。


「1台で戦えるのか? フィーレ」

『ええ、十分ですわ。あなたは確かに強い。ですが』


 Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンが杖を左手に持ち替える。

 そして杖ごと左手で鞘を押さえながら、右手で剣を引き抜いた。


『わたくしもまた、リラ師匠に十分な実力を付けていただきましたの。それに、わたくしのViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンは、王国最強とされる機体、Gloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズを元につくられておりますのよ。ですから』


 右手で剣先を上に向け、眼前に持って行く“剣礼けんれい”の姿勢を取るViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリン

 すみれ色と金色がバランス良く整った外見と、細身の女性に似せた意匠とがあいまって、今の姿には優美さがかもし出されていた。


『その力、証明してみせますわ』


 そして剣を振り下ろすと、Asrionアズリオンに向けて疾走したのである。

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