第二章五節 連携

「ところで、グスタフ」

『なに?』

おれはお前の魔導騎士ベルムバンツェの名前を聞いていなかったな。フィーレ、お前のもだ」

『そう言えば、名乗っていませんでしたわね』


 模擬戦闘が開始する直前。

 シュランメルトは、二人の魔導騎士ベルムバンツェの名前を聞き出そうとしていた。


「相棒の名前は、知っておきたいからな。既に知っているだろうが、おれ魔導騎士ベルムバンツェの名前は、Asrionアズリオンだ。おれ共々、よろしく頼む」


 シュランメルトの名乗りを受け、まずフィーレが返す。


『では、わたくしから名乗らせていただきますわ。わたくしの愛機の名前は、Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリン。“紫の魔術師”の意味を持ちます。よろしくお願いいたしますわ』

「ああ、よろしく頼むぞ」


 そしてグスタフもまた、名乗り返した。


『僕の機体の名前は、Flammbergフランベルクだ。よろしくね、お兄さん』

「よろしく、グスタフ」


 挨拶を聞き終えたシュランメルトは、剣と盾をAsrionアズリオンに構えさせる。

 フィーレも、そしてグスタフも、それぞれの得物を構えた。


「グスタフ、その武器は何だ? フィーレの構えているものは杖だろうが……」

『これ? “寸鉄すんてつ”って言うらしいよ。先っぽの丸っこい部分で、叩くように使うんだ。ししょーから聞いたんだけど、遠い東の国で造られた武器なんだってさ』

「このベルグリーズよりも、東の国……」


 自分の想像のつかない内容を思い浮かべようとする、シュランメルト。

 それを止めたのは、フィーレであった。


『そろそろ、わたくしは待ちきれませんわ。始めませんこと?』

「そうだな。始めるか、フィーレ、グスタフ」


 シュランメルトの言葉に合わせ、Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンFlammbergフランベルクが真横に並ぶ。


「かかってこい!」

『ええ!』

『いくよ!』


 開戦の火蓋が、切って落とされた。


 Asrionアズリオン、そしてViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンFlammbergフランベルクは同時に仕掛ける。

 AsrionアズリオンFlammbergフランベルクは互いに距離を詰めんと駆け寄り、Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンはその場で杖を構えた。


『まずは一撃、ですわ!』


 フィーレの声と共に、Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンの杖の先端に光球が形成される。

 最大まで大きくなったそれは、ひとりでに杖から離れ、十分な速度を伴ってAsrionアズリオンへと向かっていった。


「たやすいものだな」


 シュランメルトが呟きながら、余裕を持って盾で防ぐ。

 が、そのために、Flammbergフランベルクへの反応が遅れた。


『姫様、ありがと! いくよ!』


 寸鉄を握りしめた六本の腕が、一斉にAsrionアズリオンへ襲い掛かる。

 盾をかざしたままであったAsrionアズリオンは、その内の四本を防ぐも、二本が右胸と右腕を叩きつけた。


「ふむ……なかなかの振動だな。恐らく実戦ならば、あれの先端を尖らせたものを用いて搭乗者を刺し貫く戦法を取るのだろう」


 機体がダメージを受けた状況でも、シュランメルトはさしたる動揺のそぶりも見せず、冷静にFlammbergフランベルクの武器を評していた。


『まだまだいくよ!』


 グスタフの言葉に続き、Flammbergフランベルクが蹴りを見舞う。

 Asrionアズリオンは盾で防ぐが、およそ29tもの重量が放つ蹴りを受けて、その場に留まる事はかなわない。たまらず数歩よろめいた。


 それを見たViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンが、構えたままの杖から光弾を立て続けに放つ。

 Asrionアズリオンは素早く対応し、盾で防御するが、光弾の一発が防御をすり抜けて漆黒の装甲を打ち据えた。


「重い一撃だ。模擬戦闘の威力に加減されていなければ、Asrionアズリオンの装甲にもダメージが通っていただろうな。……む」


 シュランメルトがのんきに光弾攻撃を評している内に、Flammbergフランベルクが迫る。


『それっ!』


 握りしめられた寸鉄と6本の腕による連撃に、Asrionアズリオンが防戦一方となる。

 堅牢な装甲とて、何度も打撃を加えられればへこみ、脆くなる――が。




「グスタフ。その戦い方では、隙を突かれるぞ」




 あくまでもシュランメルトは、冷静であった。

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