第十三章三節 父親

「少しだけ、話がしたい。“将軍”……いや、お前の父君の、アルフレイド様に関する話だ」


 オティーリエは、自らの部屋にシュランメルトを案内する。


「ここでならゆっくり話が出来るな。何かいるか?」

「いや、何もいらん」

「そうか。なら今から話し始めよう」


 椅子に深々と腰掛けたオティーリエは、ゆっくりと話し始める。


「私の性格は既に知っているな」

「ああ。一度は刃を向ける程、強い感情を持っている」

「その通りだ。そして私は、思い入れを強く持つ。例えそれが犯罪組織であったとしても、だ。いや、そもそも私は、アルフレイド様に対して、尊敬の念を持っていた。今でもだが」


 ため息を挟み、オティーリエが話を再開する。


「神殿騎士団に入団する前から、アルフレイド様のご高名は耳に入っていた。ゆえに団長から、アルフレイド様を、アルフレイド様の組織を補佐せよと命じられた時は、心が躍った。そして私は1年かけて、アルフレイド様の組織と……“ヴォルフホイル”の構成員達と打ち解け、私もいつしか、情が移っていった」

「面倒見が良かったのだな」

「ああ。どうにも私は世話が好きでな。さて、そういうわけで、“ヴォルフホイル”に対する帰属意識もまた、生まれていた。そしてそれは、いつの間にか強くなっていたのさ」

「お前がおれに敵討ちを挑むのも納得だ」

「分かってくれたようだな。無論、あの時の行いは冷静に考えれば、お前に対して無礼極まりないものであった」

「悔やむな。反省していればそれで良い」

「ありがとう。さて、本題に移る」


 オティーリエの表情が、先ほどよりもいっそう真剣になる。


「お前はアルフレイド様を殺した。それはアルフレイド様の計画の内であり、また、お前自身も望むものではなかった」

「その通りだ。いかにおれの記憶の為とは言え、到底納得出来るものではなかった。今でも心に疑念が残る」

「安心したぞ」

「何をだ?」

「お前がアルフレイド様を手に掛けた事に嫌悪感を抱かねば、私はまた剣を抜いていたかもしれなかったからな」

「なるほどな」

「だが、この後の問いかけに対する返答いかんによっては、今度こそ剣を抜くかもしれん」

「承知した。いかなるものか、聞かせてほしい」

「では、問おう」


 オティーリエは一度息を吸うと、問いかけを放つ。


「貴様はアルフレイド様の遺志を継ぎ、また、自らの行いに責任を持つと誓えるか?」


 シュランメルトは迷わず、返答する。


「ああ。望まぬとはいえ、おれが殺したのは事実だ。嫌でも遺志は継がねばならぬし、継ぐ。それがおれが父さんに報いる事の出来る、唯一の方法だからな。責任についても同様だ。守護神の御子みこと呼ばれる以上、この国を守るのがおれの使命だ。同時にそれは、父さんの生前の意思でもあったからな」

「誓った以上、守れよ。もしも破れば、私はお前を許さない」

「守るさ。それに、おれの周りに一人くらい、厳しい人がいてくれると、おれの生き方も良くなるというものだ」

「面白い事を言うな、お前は。ふふっ、その考え、承知した」

おれの真似か?」

「ああ。今の私は、お前に対する見方も少しは変わっているからな。さて」


 オティーリエが席を立つ。


「話はこれで終わりだ。引き留めて悪かった」

「気にするな。元々、あの後はどうするか考えていなかったからな」

「では、また会おう」

「ああ」


 オティーリエが部屋を出たのを見届けたシュランメルトは、自らもまた部屋を出た。

 そしてそのまま神殿を後にし、ベルリール城へと戻ったのであった。

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