第十三章二節 母親
シュランメルトの両親の葬式、および告別式から一夜明けて。
シュランメルトは再びアルフレイドについて書かれた蔵書を見る為に、リラ工房の皆を見送った後、シャインハイルの協力を得て書庫にこもっていた。
(全ての記憶を取り戻した今見ると、
今やアルフレイドは憎き犯罪組織の首領ではなく、息子の為に命を散らした英雄である。シュランメルトは自らが抱く誤解にまみれた認識を修正する為に、ひたすら貪るように本を読んでいた。
(もし7年前の戦争が無ければ、こうはならなかったのだろうか……? いや、よそう。今になって仮定の話をしても、何も変わらない。
その後もアルフレイドに関する書籍を、シュランメルトは泊まり掛けで読み漁っていた。
*
それから六日後。
「もう良いのですか? シュランメルト」
「ああ。父さんに抱いていた誤解のいくつかは消えたからな。ありがとう、シャインハイル」
シュランメルトは短く礼を告げると、ベルリール城から神殿に向かう。
「通してもらおう、グロスレーベ」
「かしこまりました、
すぐに神殿までの道を開かれると、短く「ありがとう」と挨拶して神殿へ向かう。
「来たぞ、
『お帰りなさい、シュランメルト。いえ、もうゲルハルトで良いのでしたね』
「ただいま。正直ああいう別れ方は好きじゃないんだ、母さん」
『私はいつでもここにいるのに、別れなど……』
「違う! 機械の体じゃない、
シュランメルトは会って早々、
「いくらあの母さんが仮初めの体だからって、
ただ、黙ってシュランメルトの言葉を聞いていた。
「『ここで会えるから良い』って話じゃないんだよ! どうして
シュランメルトは言いたい事を言い終えて、呼吸が荒くなっている。
『シュランメルト。貴方が人間のぬくもりを求めているのはよくわかります』
諭すように、
『ですが、貴方は巣立つ時が来ました。子はいつまでも親の側にいてはいけません。そして私は、いえ、あの“変わり身”は、アルフレイドの死によって存在意義を失いました』
「だから天界に残ったと?」
『その通りです。しかし、私はここにいます。貴方の見上げる、その先に』
「それは――」
『私の加護は人間であろうと機械であろうと、変わる事はありません。加護を与える事は、すなわち私が面倒を見るという事です。まだ私は母親としての責務を放棄した訳ではありませんよ、シュランメルト』
その一言で、シュランメルトは憑き物が落ちた表情になる。
「そうか……。ははっ、まだ一緒なんだな、母さん……」
『ええ。言ったはずです、『私は貴方を、いつも見守っております』と』
シュランメルトは「シュランメルト・バッハシュタイン」の名を得てから、初めて
「そうだったな、母さん。今度こそ、思い出した」
シュランメルトは、途端に笑顔になる。
「聞きたい事はもう聞いたからな。ありがとう、付き合ってくれて」
『母親として、当然の事をしたまでです』
「助けられっぱなしだからな。その恩はベルグリーズ王国を守る事で返そう」
『ふふっ、立派になりましたね』
「いや、まだまださ。もっと成長してみせる」
『その意気です』
「では、本当にありがとう。また何かあったら、ここに来る」
『いつでもお待ちしております』
かくして、シュランメルトは
---
「さて、戻るか。それからリラの屋敷に……」
「シュランメルト・バッハシュタイン。ちょっといいか」
「何だ?」
シュランメルトを呼び止めたのは、オティーリエであった。
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