第十二章十八節 悲痛

「父さん、しっかりしてくれっ!」


 魔導騎士ベルムバンツェに取り付けられたレバーでBerfieldベルフィールドの胸部装甲を強制的に開き、シュランメルトはアルフレイドにすがりつく。

 アルフレイドは左腕と左脚を切断され、出血多量でショックに陥っていた。


「ッ……。ゲルハルト、か……」

「父さん! 今みんなを呼んで……」

「いや、良い。最早、手遅れだ……。それに、私は嬉しいのだ。お前に、討ってもらったのだからな……」

「違う! おれはちっとも嬉しくなんてない!」

「落ち着け……。私は、本望だ」

「諦めるな! 今ならまだ間に合う!」


 シュランメルトがBerfieldベルフィールドの外に出ようとする。


「やめ、ろ……!」

「父さん!?」


 だが、アルフレイドはそれを制した。


「もう、良いのだ……! もう私は、十分に生きた。お前の記憶も、取り戻せた。それで……それで、満足、だ……」

「父さん! しっかりしてくれ! 父さんっ!!」

「母さんが……Asrielアスリールが、待っている……。私は、息子の、記憶を……取り戻した、ぞ……。後は、ゲルハルトを、頼む……守って、くれ……」


 それを最後に、アルフレイドは力尽きた。


「父さあああああああああんっ!!!」


 シュランメルトの悲痛な絶叫が、響き渡った………………。


     *


 その直前。

 リラ達突入部隊は、神殿騎士団に追い込まれていた。


「このOrakelオラケルの装甲を、ここまで剥がすとは……!」


 コート状の装甲のほとんどを切り裂かれ、武装も破壊され、満身創痍の状態で立っているOrakelオラケル


「何という力……何という剣技! わたくしでは、最早……!」


 Gloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズは美しい装甲にいくつも傷を付けられ、剣も半ばで切断されていた。


「そんな……! 師匠の鍛えてくださった魔導騎士ベルムバンツェでも、太刀打ちできませんの……!?」


 Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンは杖をボロボロに砕かれ、機体の各部から悲鳴のような軋みを上げている。


「模擬試合の時以来か……! ここまで我が盾を砕かれるのは……!」


 Randius Schildランディウス・シルトは自慢の盾からも機体からも、結晶片を無数に零していた。


「っ、強い……! 本気のししょー相手でも、ここまで追い込まれた事なんて無いのに……!」


 Flammbergフランベルクは6本ある腕の内、左右一番腕の計2本の腕をもがれていた。

 残った4本の腕も、半ばで千切れたり関節基部が脱落寸前だったりと、もはや戦闘の継続は不可能な状況であった。


 そんなリラ達を見て、ガレスベルが告げる。


「これ以上の戦闘は無意味です。撤退してください」

「それは出来ませんわ、ガレスベル様」

「何ですか?」


 否定したのは、シャインハイルであった。


「この先でシュランメルトが戦っているというのに、わたくし達だけで撤退などというのは、わたくしの王族としての誇りが許しませんの」

「その通りですわね、お姉様。わたくしも王族の一人として、この場に留まらせていただきます」


 フィーレもそれに従う。


「その通りですね。姫殿下お二方が残っていらっしゃるのに、撤退は出来ませんわ」

「私の役目はフィーレ姫をお守りする事、フィーレ姫が残っていらっしゃるのでしたら引けませんな!」

「僕も残る……! ししょーがいるのに、逃げたくない……それに、僕の名前は『鋼の心』の意味がある! 逃げるものか!」


 リラも、シュナイゼルも、そしてグスタフまでも、踏みとどまる意思を見せた。


「ふむ……その意思、受け取りました。では私達も命令に従い、皆様を押しとどめさせていただきます。ご安心を、胸部は狙いません。魔導騎士ベルムバンツェの手足を奪うくらいはするでしょうが」


 5台のAsrifelアズリフェルが、再び武器を構える。


「皆様、来ますわ。迎撃態勢を」


 シャインハイルが、突入部隊の全員が覚悟を決めた、その時――


「父さあああああああああんっ!!!」


 シュランメルトの叫びが、響き渡った。


「むっ、これは……!」


 それを聞いて何かを察したガレスベルが、命令を下す。


「総員、これ以上の戦闘は無意味だ! 武器を下ろして道を開けろ!」

「団長!?」


 オティーリエが疑問に思うが、ガレスベルは構わずに繰り返す。


「繰り返す、武器を下ろして道を開けろ! もはや!」


 その言葉を聞いて、神殿騎士団の全員が察する。

 すぐさま武器を下ろし、両端に寄って道を開けた。


「今です!」


 シャインハイル達突入部隊は、開けられた道を一気に通り抜ける。

 そして屋外に抜けると、擱座したBerfieldベルフィールドと、その上に乗っているシュランメルトを発見した。


「シュランメルト、無事でしょうか!?」


 シュランメルトの返事は無い。

 ただ、顔を覆って泣いている姿があった。


「お兄さん、やった……ね…………」

「グスタフ!」

「ごめんなさい、ししょー……!」


 グスタフの失言を叱りつけるリラをよそに、フィーレはシュランメルトを見た。


「何やら悲しそうですわね、シュランメルト……。何があったのでしょうか?」

「向かいますわ、お姉様!」

「私もお供致します」


 シャインハイル、フィーレ、シュナイゼルが、魔導騎士ベルムバンツェから降りてシュランメルトの元へ向かう。


「大丈夫ですか、シュランメルト!?」

「…………」


 シャインハイルが呼びかけるが、シュランメルトは答えない。答えられる状態ではなかった。

 その様子を察したシャインハイルは、シュナイゼルに命じる。


「シュナイゼル。アレス特等尉官に、作戦終了を報告してください」

「かしこまりました」

「お姉様……」

「フィーレ、何も話しかけてはなりません」


 シャインハイルはフィーレを遠ざけつつ、シュランメルトをただ見守っていた……。

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