第十二章十四節 邂逅

 罠を警戒するシュランメルト達は、先ほどまでとは打って変わり、ゆっくりと前進していた。

 万が一にも罠があった場合、自らが嵌まる事で他の機体の盾となる為である。


 しかしそんな不安をよそに、6台の魔導騎士ベルムバンツェは確実に前進していく。


(ここまで何も起きないな。おれの考えすぎ、か……?)


 と、前方に開けた空間が見える。

 シュランメルトは最後の最後まで警戒しつつ、そこまでAsrionアズリオンを歩ませた。


 警戒していた罠も無く、シュランメルトはあっさり開けた空間までたどり着く。


「何も無かったな」

「ですね。しかし、この先に何が待ち受けているかまでは分かりません。油断無きよう」

「承知している、リラ」


 リラをはじめとし後続の5台も、続々と坑道を抜けていった。


「恐らく、この先にアルフレイドがいるはずだ。進むぞ」


 隊列を組み、6台の魔導騎士ベルムバンツェは再び前進を始める。

 100m程前進した、その時――


「待てッ!」


 5つの影が、シュランメルト達の行く手を遮った。

 どの影も、Asrionアズリオンによく似たシルエットを浮かべている。


「まさか……神殿騎士団か!?」


 シュランメルトの両目が捉えたのは、赤、青、緑、黄、紫の五色。

 紛れもなく神殿騎士団の専用機、Asrifelアズリフェルであった。


「この先へ進めるのは、御子みこ様、いえ、Asrionアズリオンのみでございます。それ以外の皆様は、残念ですがお引き取りください」


 うやうやしいガレスベルの言葉遣いとは裏腹に、全てのAsrifelアズリフェルが、剣と盾を構えていた。


「そうは行くか! おれを含めて全員がこの先に用があるのだ、通せ!」

「申し訳ございません、御子みこ様。御子みこ様のお言葉といえど、従う事は出来ません」

おれに逆らうか……! 誰がお前達にそう命じた!?」

「それは……いえ、最早隠す必要もありませんか」


 ガレスベルが、何かを吹っ切るように告げる。


「アルフレイド・リッテ・ゴットゼーゲン様。彼が我々に、この坑道を塞ぐよう命じられました」

「アルフレイド……。奴が、か」

「はい。ですが御子みこ様、いえ、Asrionアズリオンだけは通せとも命じられたのです」

Asrionアズリオンだけだと?」

「その通りです。これ以上の命令は受けておりません」


 ガレスベルの話が終わるや否や、シャインハイルが叫ぶ。


「行ってくださいませ、シュランメルト!」

「シャインハイル!?」

「ここはわたくし達で解決します! 先に行って、真実を聞いてきてくださいませ!」

「しかし……!」

「行ってきてくださいませ!」


 折れないシャインハイルを見て、シュランメルトは決断した。


「承知した! どうか無事でいてくれ!」

「もちろんですわ!」


 短いやり取りの後に、Asrionアズリオンが前へ踏み出す。

 5台のAsrifelアズリフェルは、全てがAsrionアズリオンに何もせず、素通りさせた。


 Asrionアズリオンが最奥部へ向かったのを確かめたシャインハイル達突入部隊は、武器を構える。


わたくし達も、お供させていただきます」

「シャインハイル姫殿下、それはならないのです」

「では、切り開くまで」

「全力を以て止めさせていただきます」


 Gloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズOrakelオラケルViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンRandius Schildランディウス・シルトFlammbergフランベルクの5台が、それぞれ得物を手にする。


「紅の騎士よ、リラ・ヴィスト・シュヴァルベが押し通ります」

「ベルグリーズの天才魔術師よ、ここから先は通せません」


 計10台もの魔導騎士ベルムバンツェが、互いににらみ合う。


「シャインハイル・ラント・ベルグリーズが命じます。この道を開けなさい」

「残念ですが、副団長の私に命令できるのは団長のみです。シャインハイル姫殿下、貴女の命令は聞けません」


 既に“戦う”以外の選択肢は無く。


「フィーレ・ラント・ベルグリーズですわ。シュランメルトの元へ参ります」

「残念だけど、わたし達はこの道を通すなとの命令があります」


 もはやいつ激突してもおかしくはない。


「貴女個人に恨みは無いが、このシュナイゼル・ベルリ・ヘルト、フィーレ姫と共に歩ませていただく!」

「見事な忠義! しかし私にも、団長への忠誠がある! それをこの場で示す!」


 全ての魔導騎士ベルムバンツェが得物を構えた。


「ししょーが戦うのなら、僕も戦う!」

「可愛いねぇ。あたしが鍛えてやろうじゃないか」


 そして――それぞれの武器が、振るわれたのであった。


     *


「この先か……」

「ほとんど真っ暗だけど、一本道だし迷子にはならないかな」


 壁に掛かっているランプにより、進むべき道が何とか見えている状態で、シュランメルトはAsrionアズリオンを歩ませていた。


 やがて、先ほど同様に開けた空間へ出る。


「むっ、ここは外か……!」


 星空が見える、木々に囲まれた空間。


「待っていたぞ」


 そこで、待ち受ける者がいた。


「貴様は……アルフレイド・リッテ・ゴットゼーゲン、か?」


 シュランメルトの視界にあるのは、朱色のBerfieldベルフィールド


「その通りだ。待っていたぞ、よ」

「ッ!? おれが……お前の息子、だと!?」


 シュランメルトの想像だにしなかった事を、アルフレイドは淡々と告げる。


「全ては私の仕組んだ計略だ。聞くが良い」


 そして武器も構えぬ無防備な態勢のまま、アルフレイドはとつとつとシュランメルトに語り始めたのであった。

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