第十二章十三節 突入

『奴らは本拠地内に立てこもるつもりだ! 迂闊うかつに突出せず、確実に追い込め!』


 嵐のような光弾を前に、アレス達突入部隊は攻めあぐねていた。

 元々魔導騎士ベルムバンツェ3台が並んで通れる程度の幅しか無い上に、交代で光弾を連射されては、近づきようなどない。


 その様子を見ていたシュランメルトが、一計を案じた。


「アレス。おれAsrionアズリオンと本拠地入り口との間にある機体を全て退避させてくれ」

「何をするつもりですか?」

「突破口を開く」


 シュランメルトが言い終えるよりも早く、Asrionアズリオンが大剣を構える。

 意図を察したアレスは、即座に命令した。


『全機、退避! Asrionアズリオンから本拠地入り口までの射線を開けろ!』


 アレスの命令を聞いた味方の魔導騎士ベルムバンツェ隊が、指示通りに退避する。


『今です!』

「承知した!」


 合図を受け、シュランメルトはAsrionアズリオンに射撃させる。

 大剣の切っ先から、極大の光線ビームが放たれた。


 本拠地入り口に吸い込まれるように放たれた光線ビームは、十数台と潜んでいた敵の魔導騎士ベルムバンツェの胸部より下を熔解、消滅させた。


「光弾が止んだはずだ。行け!」

『かしこまりました! 全機、突入せよ!』

『了解!!』


 Asrionアズリオンによって開かれた道を使い、数十台もの味方魔導騎士ベルムバンツェがなだれ込む。

 後続に控えていた“ヴォルフホイル”の魔導騎士ベルムバンツェが迎撃に出るが、物量と突入の勢いに抗いきれず、次々と撃破されていく。

 一瞬で、30台はいた魔導騎士ベルムバンツェが文字通り全滅した。


 アレスの部隊はその後すぐに、中枢区画の手前までを占拠した。

 奥行きだけでも1kmは軽く上回る拠点であったが、その半ばよりも先に、あっさりと進んでいたのだ。


 作戦会議での想定以上に本拠地へ乗り込んだ者が多くなったが、不利益が無いために疑惑は黙殺された。そもそもはAsrionアズリオンの予想以上の火力ゆえなのであるが。


「やはり敵は犯罪組織に過ぎなかったな!」


 勢いに乗って浮かれた味方の兵の一人が、勝利を確信して言い放つ。

 だが、シュランメルトは先ほどよりも強い違和感を覚えていた。


(やはりこの戦いはおかしい……。いや、! 王城の蔵書によれば、アルフレイド・リッテ・ゴットゼーゲンは英雄と呼ばれるだけの、卓越した指揮を誇っていたはずだ。まさか、罠か……?)


 その時、轟音が響いた。


「何だ!?」


 兵の何人かがうろたえる。

 が、近場で何かが破壊された形跡は無い。ましてや本拠地が崩れるなどといった気配は皆無であった。


 しかしシュランメルトをはじめとした何人かは、場の変化を感じ取っていた。


「あの坑道……。先ほどまでは、無かったはずだが?」


 Asrionアズリオンが先行して、内部の様子を窺う。

 中には何もなく、ただ暗闇と、いくつかのランプが点在するだけであった。


「どうしたのですか、シュランメルト?」


 シャインハイルの駆るGloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズが、Asrionアズリオンの元に近づく。


「これを見てくれ。先ほどの轟音の後に、坑道が出来た」

「あら……。それにしては、整い過ぎておりますわね」

「“整い過ぎている”?」

「ええ。恐らくですが、わたくし達が突入するよりもかなり前から、整備されていたのだと思われますわ」


 シャインハイルが、構造から推測を述べる。


「幅も魔導騎士ベルムバンツェ2台が横並びに通れる程度にはあります。しかし……罠の可能性も否定しきれませんわね」

「ならばおれが先に行こう」

「では、2番目はわたくしが……」

「お待ちください、シャインハイル殿下」


 割って入ったのは、リラである。


「2番目は、罠に引っかかる可能性のある配置です。ある程度知略に長けた者は、『仕掛けた罠を敵が通り過ぎる時、一人目は何もせず通過させ、二人目で罠を作動させる』事を好みます」

「なるほど……かしこまりました。では、わたくしは何番目にいるべきでしょうか?」

「前から3番目が適切かと。それに、この坑道を通る時は、“前後で最低25mは距離を開けておく”としましょう。罠……例えば落とし穴などの一網打尽は、少なくとも避けられるかと」

「承知した。態勢を整え次第、坑道に突入する。おれとシャインハイルにリラ、後は誰だ……?」

「わたくしがおります」

「フィーレ姫のお側に」

「僕もいるよー!」


 集まったのはフィーレ、シュナイゼル、そしてグスタフである。

 都合6人が、突入する運びとなった。


 集合を確かめたシュランメルトが拡声機を起動し、アレスに問いかける。


「アレス、本拠地の制圧状況はどうだ!?」

『全て制圧完了しております!』

「承知した! おれ達は作戦通り突入し、アルフレイドの身柄を拘束する!」


 ここからは本来の作戦通りである。

 シュランメルト達は“25mの距離”の話を全員で共有したのち、坑道へと足を踏み入れたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る