第十二章十節 決断

 時は、シュランメルト達が眠っている頃。

 “ヴォルフホイル”本部では、“将軍”ことアルフレイドが直々に会議を開いていた。


「集まったな。ではこれより、緊急の会議を開く」


 沈黙が満たしている講堂にて、アルフレイドが切り出す。


「諸君。落ち着いて聞いてほしい。今より数時間後に、この本拠地は大攻勢を受ける」


 場は一瞬で騒然とした。アルフレイド、それに神殿騎士団以外の者にとっては、当然知りえない情報である。


「静かに! 打開策は既に用意している」


 その一言で、場が落ち着きを取り戻す。

 十分に静粛になったのを確かめたアルフレイドは、続きを切り出した。


「諸君。命が惜しければ、今すぐ遠くの人里離れた地に逃げるか、王都にいる軍に投降してくれ。止めはしない」


 再びどよめきが起こる。


「“将軍”!」


 と、一名の構成員が手を挙げた。


「何だね?」


 アルフレイドが呼びかけてから、構成員は続けた。


「“将軍”は、逃げられないのですか?」


 その質問に対し、アルフレイドは即答する。


「ああ、逃げんさ。やり残したことがあるからな。しかし逃げるか否かの選択は君たちの自由だ。どのような決断であれ、自ら決めた事だ。尊重しよう」


 アルフレイドは講堂全体を見回すと、高らかに告げた。


「諸君! 戦火より逃れるを欲するならば、今すぐこの講堂より去れ! しかし私と共に死するを願うのであれば、この場に留まれ!」


 アルフレイドの言葉が、講堂に響き渡る。

 全員に聞こえる声量であったのだが、動く者は誰もいなかった。


「どうした? 去るも留まるも自由だ。しかしあくまでおのれの意思で決めろ。流されるな、迷うな!」


 アルフレイドの言葉で、一人の構成員が恐る恐る手を挙げた。


「あの……。俺は、自首したいんすけど……」

「よろしい。ならば今すぐここから出て、王都へ向かえ。私含め、誰も止めはせん」


 構成員が頷くと、ゆっくりと講堂を後にした。

 彼に続き、続々と部屋を後にする者達。


「おい! お前ら、何を……」

「止めるな。彼らの決断だ」

「しかし、“将軍”!」

「良いのだ。死ぬのは、死ぬ覚悟のある者だけで十分である。彼らの賢明なる判断を止める権利など、私を含めて誰にも無いのだ」


 次々と去る部下を見ながらも、アルフレイドは淡々と話していたのである。


     *


 結局、アルフレイドの元に残ったのは、集まった人数の4分の1であった。


「なるほど。これだけの人数が残ったか」

「はい。まさか“将軍”から去って、生き長らえられるとは思えませんので」

「そうか。しかし、そろそろ私も犯した罪を償う頃かもしれん」

「何を弱気な……!」

「いや、これは覚悟だ」


 アルフレイドは正面を――いや、目線はどこか遠くを――見据えていた。


「君達も、自らの求める物に命を使え。死に場所は私の近くとは限らないのだぞ」


 諭すような言葉を掛けるアルフレイドであったが、しかしすぐに、気持ちは切り替わっていた。


「ともあれ、ここに残る全員が私の戦力だ。自ら決断したからには、徹底的に使い倒させてもらうぞ」


 アルフレイドの顔には、既に覚悟が宿っていたのである。

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