第十二章九節 夢語

「ここは……」

「夢の中ですわ、シュランメルト」


 シュランメルトは仮眠を取った事で、夢を見ていた。

 その夢の中で、シャインハイルと会う。つまりはシャインハイルもまた、同様に睡眠を取っている事でもある。


「そうか、貴女も眠ったのか。シャインハイル」

「ええ。貴方に伝えたい事があって来ました」


 シャインハイルはシュランメルトの目の前に立つと、まっすぐに瞳を見て告げる。


「打ち合わせの前、わたくしは貴方に、同行する理由を『アルフレイド元1等将官に真意を問う』と申しましたわね」

「その通りだ」

「申し訳ありません。あれは方便です。全てを見届けるための」


『全てを見届ける』という言葉に、シュランメルトが敏感に反応する。


「どういう意味だ?」

「これから話します。二人だけの時間と空間である、この夢で。しかし、頼みがあるのです。『他言無用』、これを徹底していただけると誓ってくだされば、打ち明けましょう」


 シュランメルトは、迷わず告げる。


「貴女の頼み事であれば、聞く他に何もあるまい」

「誓ってくださるのですね。でしたら、打ち明けさせていただきます」


 シャインハイルはゆっくりと息を吸い、そしてとつとつと語り始める。




「率直に申しますわ。わたくしとアルフレイド1等将官は、裏で繋がっております」




 シュランメルトは驚愕のあまり、一瞬呆然とした。


「正確には、わたくしだけではありません。お父様もまた、同様に繋がっております」


 続けて語られた言葉で、シュランメルトは自失から立ち直る。


「つまりは……奴の反逆も、貴女達にとっては“当然予想していた事”だというのか?」

「はい」

「貴女がさらわれた事もか?」


 シュランメルトの、二つ目の質問で、シャインハイルは困惑の表情を浮かべる。


「いいえ……。わたくしがさらわれた事は、わたくしの想定にはありませんでした」

「仲間割れなのか?」

「それは把握しておりませんの。アルフレイド1等将官に問いただすのみですわ。けれども、それは貴方にお任せします。シュランメルト」

「どういう意味だ?」


 今一つ要領を得ないシャインハイルの物言いに、シュランメルトが訝しむ。

 その疑問は、直後のシャインハイルの一言で晴れた。


「今回の反逆事件には、裏で神殿騎士団も関与しております」

「何だと……!?」


 予想もしていなかった存在が告げられた事で、シュランメルトは大きく動揺していた。


「彼らが関与する道理は無いはずだ……!」


 語勢にシュランメルトの心情を見て取ったシャインハイルは、諭すように話す。


「その通りです。彼らが関与する道理はありません」

「ならば、何故……!」

「貴方の存在があるがゆえです。シュランメルト」

「馬鹿な! おれは反逆への関与はしていないぞ!」

「もちろん、それも承知の上です」

「では何が真実だと言うのか!」


 そこまで問い詰めると、シャインハイルは押し黙った。

 シュランメルトはそれを察し、自らも黙る。


 しばしの間をおいて、シャインハイルが口を開いた。


「……わたくしが話せば、わたくしも貴方も死んでしまいます。真実は、”将軍”……いえ、アルフレイド1等将官に直接、お聞きください」

「貴女の口からは、聞けないのだな。致し方ない…………承知した」

「ですが」


 シャインハイルが、シュランメルトに歩み寄る。

 そして、そっと体を抱きしめた。


「真実を話す事は叶わずとも、貴方のそばにいる事は出来ます。せめて、心穏やかに……」

「ありがとう、シャインハイル」


 かくしてシュランメルト達は、出撃前の最後のひと時を過ごしたのである。

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