第十二章七節 詰問

「どういうつもりだ、シャインハイル……!」


 シュランメルトは我を忘れ、シャインハイルの元まで大股に歩み寄る。


「複雑な言葉遊びは致しませんわ。そのままの意味です、シュランメルト」


 シャインハイルは平然と返す。

 しかし、瞳には意思が宿っていた。


「ならばおれも、そのままの意思を告げよう。『頼む、来ないでくれ』」

「それは聞けない頼みですわね」

「なぜそこまでこだわる?」

「今回の反逆にアルフレイド元1等将官が関与しているからですわ」


 アルフレイドという名を聞いて、シュランメルトは顔をしかめる。


「やはりその名が出るか。お前がどれほど奴を意識しているかよく分かるな」


 苦々しげな表情を浮かべ、シュランメルトは頭を押さえた。


「……うむ。だが、それでも言わせてくれ。『頼む、来ないでくれ』と」

「よほどわたくしには来てほしくないのですね。何故なのか、理由を教えてはいただけませんの?」


 シュランメルトは、わずかに思考する。

 そしてまっすぐシャインハイルの瞳を見て、答えた。


おれは二度と、貴女がさらわれた時の苦痛を思い出したくないんだ。頼む」


 しばしの沈黙が訪れる。

 シャインハイルは遠慮がちに、しかしはっきりと、シュランメルトに返した。


「だからこそ、わたくしは真意を問うのです。アルフレイド元1等将官に」


 言外に告げられた拒絶の意思。

 それでも、シュランメルトは引かない。


「ならばおれが奴に問おう。それでどうだ」

「譲れませんわね。あくまでも、わたくしが直接問いただしたいのです」

「どうしてこれほどまでにこだわり続ける?」

「あれほどのお方が何故あのような狼藉ろうぜきを起こしたのか。その真意を、お父様に代わって探るためです」

「フィーレでは駄目なのか」

「駄目ではありません。しかし今の彼女は、あくまでも“リラ工房”の一員として存在しております。これは王城の問題と分けて考えるべきです。板挟みにして、必要以上の精神的苦痛を与えるべきではありません」

「引く気は無い、か……」


 シュランメルトが、折れる意思を見せる。

 が、シャインハイルは微笑んだ。


「安心してください。わたくしにはベルグリーズ王国最高峰の魔導騎士ベルムバンツェGloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズがあります」


 Gloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズ

 シュランメルトの駆るAsrionアズリオンや神殿騎士団のAsrifelアズリフェルには劣るが、それでも国内では、いや公式には“ベルグリーズ王国最強の魔導騎士ベルムバンツェ”と誉れ高き性能を誇っている。


Gloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズ……。しかしそれは、グロスレーベだけのものではないのか? フィーレがよく似た魔導騎士ベルムバンツェを使ってはいるが……」

「いえ、わたくしも所有しております。そもそもGloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズは、のです」


 シャインハイルはシュランメルトを安心させるように小さく笑いながら、自らの愛機について話し出す。


「フィーレの駆る魔導騎士ベルムバンツェは、元々はGloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズでした。リラ工房に行く時に、一緒に持って行ったのを、現地で彼女に適したバランスになるよう改修を施したのです。その結果、差別化ゆえかは分かりませんが、塗装している色と操縦性が変わりました。これは同じGloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズ同士でも言えるのですが、彼女の“元”Gloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズは、いまや彼女にしか操れない、”個人専用の魔導騎士ベルムバンツェ”と化したのです」


 フィーレの専用機Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンは、外見上はGloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズと色違いなだけである。しかし実態は、操縦のクセをはじめとして何から何までもシャインハイルのGloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズとは別物であった。


 だが、そのGloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズの性能をもってしても、シュランメルトには不満であった。


「それでも不安はぬぐえんぞ」

「はい。ですから、貴方の近くに居続けるのでございます」

「なるほど、直掩という事か」

「そういう事であれば構わないでしょう?」

「ううむ……」


 シュランメルトはしばし苦々しげな顔を浮かべるが、やがて決断する。


「シャインハイル。貴女はおれの想像以上に、頑固だったようだ」


 投げ出すように言いながらも、シュランメルトは渋々ながらも、シャインハイルの同行を認めたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る