第十二章六節 招集
翌朝。
シュランメルトは、リラ工房の誰よりも早く起床した。
「ふわぁ……。どうにも、早く目が覚めてしまうな。何か、胸がヒリヒリする感覚があるぞ……」
「おはよー。ボクは何もしてないよー、シュランメルトー?」
パトリツィアが、いつも通りの際どい恰好で起き上がる。
「承知している。体には何も影響が無いからな」
「でしょー?」
「しかしだ」
シュランメルトは起き上がりながら、服を整える。
「
「当たり前でしょ。何を今更」
「ならば良し」
シュランメルトは部屋を出て、窓を覗き込む。
「……む?」
遠くに見えるは、白と金の輝き。
「あれは王室親衛隊の
シュランメルトは、急いで外に出る。
「待ってよ、シュランメルトー!」
パトリツィアもまた、シュランメルトの後に続いたのであった。
*
「朝早くに失礼する! リラ・ヴィスト・シュヴァルベ殿はいらっしゃるか……おや、貴方様は!?」
親衛隊の隊員が驚愕する。
玄関からは、ゆっくりとシュランメルトとパトリツィアが出てきたのだ。
「
『は、はっ!』
王室親衛隊の隊員は、既にシュランメルトとパトリツィアに関する情報を伝えられている。
隊員達は即座に
そして素早く降りると、全員がシュランメルトとパトリツィアの前に跪いた。
その様子を見たシュランメルトが、隊員達に確かめる。
「用件は察しが付いている。リラ達を王城へ招集しに来た、違うか?」
「いえ、その通りでございます……!」
隊長格の男が、ただちに返答する。
それを聞いたシュランメルトは、続けた。
「ならば起こすとしよう。ところで、朝食くらいは取らせてもらえるだろうな?」
「は、はい……」
「承知した。1時間後に戻るから、待っていてくれ」
シュランメルトはそれだけ言うと、屋敷の中に戻ったのである。
*
「リラ、起きろ。朝食の時間だ」
シュランメルトとパトリツィアは二手に別れ、リラ、フィーレ、グスタフの三人を起こしに行った。
リラを起こしにかかるのは、シュランメルトが引き受けていたのである。
「おはようございます。先程の物音は……?」
「王室親衛隊が来た。恐らく招集だろう」
「分かりました、シュランメルト。では、急がねば……」
「落ち着け」
シュランメルトは、リラを制止する。
「朝食を食べるくらいの時間は作ってもらった。あと55分はあるな」
「話を付けてきたのですか?」
「ああ。とはいえ、あまり重いものは食べたくないがな」
「なるほど。では、フィーレ姫とグスタフを……」
「ししょー、おはよー!」
「おはようございます、リラ師匠」
そこに、フィーレとグスタフがリラの部屋へ入ってきた。
遅れて、パトリツィアも部屋へと足を踏み入れる。
「朝食は何なのかなー? ボク、もう空腹だよー」
その言葉に続き、リラがベッドから立ち上がった。
「では、早速作るとしましょう。とはいえ、今日は簡単なものですが」
「もちろんそれでいいよー!」
リラが部屋を出ると、シュランメルトやパトリツィア達も続いて、リラの私室を後にしたのであった。
*
朝食を済ませ、後片付けや歯磨きを終えたシュランメルト達は、各々の
格納庫に向かう最中、リラ達は話をしていた。
「怖いですか、フィーレ姫、グスタフ?」
「いえ、師匠……」
「怖くないよ……?」
リラは問いに対する二人の反応を見てから、続ける。
「感情を隠す必要はありません。私も、怖いのです」
「えっ?」
「ししょー?」
リラはいつも通りの笑みを崩さず、しかし感情を込めながら言った。
「私がいまだに魔術を教えきれていないがゆえに、私自身が死ぬのはもちろんのこと、フィーレ姫やグスタフに死なれる事も怖いのです」
「ししょー、怖いんだ?」
「はい。人はいずれ死ぬ、それは承知しています。しかし、天命を全うする事以外での死を、私は恐れているのです」
「うーん……。よくわかんないけど、それって……僕のお父さんみたいな死、なの?」
「!」
リラはわずかに、グスタフの言葉に驚愕する。
しかしすぐに平静を取り戻し、返した。
「はい、その通りです。グスタフ、貴方の父親の死、それこそが私の恐れている死なのです」
「そうなんだね……」
話している内に、リラ達は自らの専用機の前まで来ていた。
「恐らく、ただちに出陣とは行かないでしょう。ベルリール城で行動指針を確認するはずです」
「はい、ししょー」
「かしこまりましたわ」
三人はようやく。自らの
*
「全員乗ったな」
離れた場所から聞こえてくる、
「ならば
そして自らも
一瞬で操縦席に着座し、両手を半球の上に置く。シュランメルトは拡声機を起動し、王室親衛隊に呼びかけた。
「準備は整った。いつでも行けるぞ」
「かしこまりました。では、王城までご案内致します」
かくして、総勢9台の
*
一行は、ベルリール城に到着した。
そのまま一同は
休む間もなく、玉座の間へと向かう。
扉が開ききると、一同――シュランメルトとパトリツィアを除く――はすぐにグロスレーベの前に跪いた。
「陛下、ただいま参りました」
「大儀である。諸君らは既に伝えられているであろうが、軍は“ヴォルフホイル”の各拠点を、本部支部問わず一斉襲撃する事を決議した。そして私は、これを承認したのだ。事に当たり、誓約に基づいて諸君らを動員させて貰う。だが……」
グロスレーベは、フィーレを見た。
「済まんな、フィーレ。いかに日頃言い伝えていれど、流石にお前を動員するのは少々心が痛む」
「いえ、お父様。わたくしは喜んで、この戦いに参じますわ」
「そうか。では、頼むぞ」
「お待ちくださいませ」
新たなる女声が、玉座の間に響く。
「
「シャインハイルッ!?」
そこに立っていたのは、シャインハイルであった。
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