第十二章三節 意志

「ふわぁ……よく寝たな」


 シュランメルトは昼寝を終えると、リビングへ気付けのための水を飲みに行く。


「おはよー、お兄さん」

「グスタフか。おはよう」


 グラスを1つ手に取り、水を注いでからぐっと飲む。


「ふう、やはり寝起きに水を飲むのは良い気付けになるな。……そうだ、グスタフ」

「何?」


 シュランメルトはコップを水で満たして端に置くと、グスタフの隣の席へ座る。


「一つだけ、聞きたい事がある」

「いいよー」


 グスタフの同意を確かめたシュランメルトは、本題を切り出した。


「グスタフ。お前は、リラとの弟子入りの際に、何か約束事を交わしたか?」

「うん。『ベルグリーズ王国に何かあったら、僕たちはベルグリーズ王国を助ける』約束をしたよ」

「やはりか……。それは、リラから強制されたか?」

「ううん。僕はししょーに恩を感じてたし、今も感じてるから、分かった上で約束したの」

「恩だと?」


 グスタフの言葉に、シュランメルトは違和感を覚える。


「その……“恩”、というものだが。どういうものか聞かせてくれないか?」

「いいよ。……僕ね、両親がいないの。もう死んじゃった」

「何だと!?」


 シュランメルトは我を忘れ、叫ぶ。


「ッ、すまん」

「いいのいいの。お兄さんにはまだ、話してなかったからね」


 グスタフはコップに茶を注いで、少しだけ飲む。


「お母さんは僕を産んですぐに病気で死んじゃったし、お父さんは僕が6歳になったばかりで死んじゃった。土木工事をしているときにね、魔導騎士ベルムバンツェが持ってた、土のたっぷり入った袋が破れちゃって、生き埋めになったんだって」


 特に感情を込めるでもなく、グスタフは淡々と続ける。


「けど、お父さんとの知り合いが、僕を助けてくれたの。それが、ししょーなんだ」

「そうか……。お前の父とはどのように知り合ったか、良ければ教えてくれないか?」

「うーん。ししょーの父親が、僕のお父さんのお父さん……お爺さんと、知り合いだったみたい。それで、あるときにお互いの子供を紹介して……って、ししょーから聞いたよ」

「なるほどな」

「来たばかりの話だから、そんなに覚えてないけど……あっ、そう言えば。この屋敷は、お父さんが建設に関わったんだって」

「ここが、か?」

「そうだよ。あっ、お父さんが死んじゃったところとは別だからね?」


 シュランメルトは、キッチンを眺める。


「そうか……。お前の父が、ここを建てたのか」

「うん。これもししょーから聞いたんだ」

「なるほどな……。良い父を、そして良い師匠を持ったのだな。グスタフ」

「えへへ。だから、ししょーには感謝してるの。大好きなんだ」

「そうか」

「そうだよ。最近は一緒にお風呂に入ってるし」

「ぶっ!?」


 突然の爆弾発言に、シュランメルトが噴き出した。


「お、おお、お風呂だとぉ!?」

「うん……。どうしたの、お兄さん?」

「い、いや……。ところで、お前は今、いくつだ?」

「10歳。フィーレ姫とは同じ年に生まれてるから、もうすぐ11歳だけど」

「リラは?」

「ししょーは23歳」

「このベルグリーズでの成人年齢は?」

「15歳」

「一回りも違うのか……。それはそうとして、問題にならないか……?」

「問題? なんの?」

「何だろうな……ぐっ、適切な言葉が思い付かん」


 シュランメルトは頭を抱えるが、結局適切な言葉は分からなかったのであった。


---


「それじゃ、僕はししょーの手伝いに行くね」

「承知した」


 去っていくグスタフを見送ったシュランメルトは、額を押さえる。


おれやシャインハイルと同じくらいのとしであろうリラが、まだ未成年であるグスタフと、入浴を共にするなど……。ううむ、妙に引っかかるぞ)


 シュランメルトが天井を眺めている。と――


「シュランメルト?」


 フィーレが、シュランメルトの脇に立っていたのであった。

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