第十一章四節 陰謀

 時は前後する。

 シュランメルトがシャインハイルを助けてから3時間後、シュレーネの街にいる“将軍”に、書状が届いた。


「ご苦労様だった。下がってくれ」


 “将軍”は伝令役の男を下げると、書状を開く。

 そこには、以下の通りに書かれていた。


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 親愛なる“将軍”へ


 オティーリエよりもたらされた情報によると、『ガルストにかくまった小鳥は、黒き騎士が檻を壊した事によって逃げた』そうだ。

 ここまでは予定通りだ。


 我々は貴方の計画に基づいて行動する。

 次は、計画の最終段階だったはずだ。


 我々も貴方も、もう少しの辛抱だ。

 貴方が無事に、悪として名を残さん事を祈る。


 ガレスベル・ノルトレーベ・アズレイアより


---


「よくぞやった。よくぞやってくれた、我が息子よ。これで私こと“将軍”は、悪の代名詞と化した」


 “将軍”は、微笑みながら手紙を折りたたむ。

 そして席を立つと格納庫へ向かい始めた。


「7年前に、我が息子は首元に傷を付けられた。やいばに塗られた猛毒で、今の今まで記憶を失い、倒れていた。しかし、幸いにして我が息子は無事だった。我らが守護神、そしてが妻であるAsrielアスリールのおかげで」


 独り言を呟きながら、“将軍”は格納庫の扉を開く。




 そこには、朱色の魔導騎士ベルムバンツェが鎮座していた。




「このBerfieldベルフィールドに塗られた色は、私が流す血そのものだ。我が覚悟の証拠だ。しかしそれを示すには、まず私を“討たれるべき存在”とする必要がある」


 “将軍”はしばらくの間、自らのBerfieldベルフィールドを眺めていた。

 やがて、自らの部屋へと戻る。


「ゆえに私は、陛下へ書状を差し上げる必要がある。そう、“悪”としての存在を証明する書状を」


 机に座った“将軍”は、紙と羽ペンを取り出し、書状をしたため始めたのであった……。


     *


 時刻は今へと戻る。

 ほとんど服をまとわずに眠っているシャインハイルの横で、同様の格好をしたシュランメルトが上半身を起こし、シャインハイルの頭を撫でていた。


「ふふっ。おれは幸せ者さ、シャインハイル。何せ、貴女という女性と、共にる事が叶っているのだから」


 笑顔でシャインハイルの頭を撫で続けるシュランメルト。




 そんな彼の喉元に、アザから少し離れた場所に切り傷のあとが明確に存在していた。

 それもほぼ下顎で、正面からは見えない位置に、である。




「ふふ……む?」


 と、シュランメルトの耳に、慌てた様子の足音が聞こえる。


「済まない、シャインハイル。どうやら何かありそうだ」


 シュランメルトはシャインハイルに詫びを入れながら、服を着て部屋を後にしたのである。


---


「何事だ?」


 シュランメルトが足音――一通の書状を携えた従者――を追跡した結果辿り着いたのは、玉座の間であった。


「小言はあまり言いたくないのだが……騒々しいぞ。部屋の中にいても聞こえる足音とは、どういうものだ?」

「申し訳ございません、御子みこ様!」

「グロスレーベ。この従者が手紙を届けるために走ったという事実は、おれがこの目で見て確かめている。それを咎めるつもりは無い。だが、そこまで従者が慌てるほどの、書状の中身を見せてほしいのだ」

「はっ……!」


 グロスレーベが、シュランメルトに書状を見せる。


「何だと……!?」


 シュランメルトは、文面を見て手紙の端をくしゃくしゃにした。


---


 親愛なるグロスレーベ陛下へ


 明々後日しあさって、ベルグリーズ王国の王位を簒奪する。

 お覚悟を。


 ヴォルフホイル総司令官“将軍”より


---


「“将軍”……許すまじ!」


 シュランメルトの瞳は、その場の誰よりも、怒りに燃え上がっていた……。

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