第十一章二節 熱夜

わたくしの言葉通りですわ。それとも、もう少し直接的な表現がお好みでしたか? シュランメルト」

「そうではない……! 表現の問題ではない、シャインハイル! そうではなくて、その……」


 シュランメルトは返答に困り、頭を抱える。


「くっ、何と返せば良いのか、さっぱり分からん……!」

「では、わたくしが教えて差し上げましょう。『はい』か『いいえ』の、どちらかですわ」

「そ、それは『はい』だが……待て! 脱がそうとするな、シャインハイル!」


 必死の懇願に、シャインハイルが手を止める。


「少し、整理させてくれ……。おれの感情を、明確にしたい」

「あら、でしたらおあずけ……」

「それは否定しよう。どうやらおれも、一人の、それも男だった……。その事実から目を背ける事はしない」


 シュランメルトの言葉通り、彼の股間は、いつの間にか膨らんでいた。


「だが、これだけははっきりと、言わせてくれ」

「はい」


 シュランメルトは意を決して、シャインハイルの目をまっすぐ見据えて、おのれの感情を告げる。




「シャインハイル。おれはお前が好きだ。お前の立場も、おれの記憶も関係ない。一人の女性として、お前が、好きなんだ」




 言い終えると同時に、シャインハイルの唇を塞ぐ。


「んんっ……❤」


 シャインハイルは拒まず、むしろ喜んでキスを受け入れる。

 シュランメルトとシャインハイルは、お互いに舌を絡めだした。


「んちゅ、ぴちゅ、くちゅ……❤」


 舌と唇の味を、互いの体温を確かめながら、二人は体を抱き寄せあう。

 しばし堪能したのち、二人はゆっくりと抱擁を解き――しかし体には触れながら――互いを見る。

 最初に切り出したのは、シュランメルトだった。


「既に意思は決まった。ただな……」

「はい」

おれに、お前のドレスを脱がさせてくれ」

「まぁ……❤ もちろんですわ、シュランメルト」


 二人は、お互いの服にそっと手をかけた。


     *


 その様子を、黒猫となったパトリツィアがこっそりと、見聞きしていた。

 猫の体を生かし、狭い隙間から静かに様子を見る。


(ふふ、シュランメルト……。やっと、やっと自分自身に、正直になったんだね)


 二人の熱が最高潮に達し、灯りが落ちたのを確かめる。

 パトリツィアは黙って、コトの成り行きを見守っていた。


(んん……っ❤ やっぱり、見てるとゾクゾクするなぁ❤)


 真っ暗になったために声だけが聞こえるが、パトリツィアは目をこらし、結末を見守っていた。


(そして、おめでとう。シュランメルト。一つは、キミがようやくこと。もう一つは、何年も温めていた気持ちを、ようやく素直に、シャインハイルに伝えたこと。本当に、本当におめでとう……)


 最後まで見届けたパトリツィアは、部屋からしばらく離れ続けていた。


 そして、自分自身の鳴き声が聞こえないであろう場所まで離れてから、満足げに「ミャア」と短く、一度鳴いたのであった。

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