第十一章 愛情

第十一章一節 抱擁

 “ヴォルフホイル”の魔導騎士ベルムバンツェ達をほふり、無事にベルリール城へと戻ったシュランメルト達は、真っ先に玉座の間へ向かった。


「一刻も早くグロスレーベに報告するぞ!」

「うん!」

「あっ、あの、シュランメルト……」


 困惑しているのは、シャインハイルである。


「いくら何でも、わたくしをこのように抱きかかえるのは……その、少し、恥ずかしいのですが……」

「もう少しの辛抱だ!」

「えぇえええええ~っ!?」


 そう。

 またもシャインハイルは、シュランメルトにお姫様抱っこされていたのである。


「先に行ってるよ!」

「承知した! 扉を開けていてくれ!」


 その間に、パトリツィアが扉を開けてもらう。

 完全に開く頃、シュランメルトとシャインハイルが到着した。


「グロスレーベ! シャインハイルを取り戻してきたぞ!」


 減速し、シャインハイルを降ろすシュランメルト。

 その様子――とりわけ、シャインハイルの姿――を見たグロスレーベは、安堵した。


「ありがとうございます……ありがとうございます、御子様!」


 グロスレーベは、何度も何度も、シュランメルトに頭を下げていたのであった。

 シャインハイルもまた、シュランメルトに頭を下げる。


「シュランメルト。ありがとうございました」

「気にするな。貴女を助けるのは当たり前の事だ、シャインハイル」

「ありがとうございます……あら?」

「シャインハイル? 泣いているのか?」


 シュランメルトは、シャインハイルの頬に光る何かがあるのを見た。


「あれ、おかしいですわね……。どうして、涙が……? っ、溢れてしまって、止まりません……」

「シャインハイル」

「えっ……?」


 シュランメルトは無言で、シャインハイルの顔を自らの胸に引き寄せる。


「泣いてい。心の中にある感情が静かになるまで、存分に泣くんだ。おれも、いやこの場の誰もが、お前の涙を咎めない」

「っ、はい、シュランメルト……。うっ、ううっ……」


 シャインハイルは、安堵したがゆえにこみ上げた涙を、ひたすら流していた……。


     *


「終わったか?」

「はい、シュランメルト。ありがとうございます」


 ようやく落ち着きを見せたシャインハイルは、いつもの表情に戻っていた。


「それで、その……」

「何だ? はっきり言ってほしいものだな」


 恥ずかしがりながら何かを言おうとするシャインハイルを見て、シュランメルトが不審がる。


「その……一旦わたくしの部屋で、はっきりと申したいのです」

「ここでは言いづらいのだな。承知した」


 シュランメルトとシャインハイルは、シャインハイルの私室へと向かった。


 それを、いつの間にか黒猫に変身していたパトリツィアが、こっそりとつけていた。


---


「ここなら何の問題もありませんわね。シュランメルト」

「ああ。聞かせてもらおうか、シャインハイル」


 シャインハイルは息を目いっぱい吸い込むと、シュランメルトにはっきりと、頼み事を告げた。




「シュランメルト。わたくしを、貴方のものにしてください。具体的には……その、わたくしの処女を、貰ってくださいませ」




「なっ……!?」


 シュランメルトは目を見開き、驚愕したのである。

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