第十章七節 不審

「ここか?」

「そうだね」


 アジトの入り口を見つけたシュランメルトとパトリツィアは、近場の平原にAsrionアズリオンを着陸させる。

 奇襲を警戒し、Asrionアズリオンの頭部をぐるりと回転させるが。


「伏兵の気配は……無いな」

「降りるよ」

「ああ。助かったぞ、Asrionアズリオン


 シュランメルトはAsrionアズリオンを元の場所へと戻すと、徒手空拳のままアジトの入り口へ侵入した。


「暗いな……。灯りはあるが、道案内が欲しくなる」

「なら、Asrielアスリールを呼ぶ?」

「呼べるものなのか?」

「うん。会話だけだけど」

「なるほど……ああ、そう言えば、言っていたな。『私は貴方を、いつも見守っておりますよ』と。つまりは、まさか……」

「そうだよ。Asrielアスリール、お願い! シュランメルトに力を貸してあげて!」


 パトリツィアが叫ぶと、シュランメルトは脳裏で、聴覚が冴えたような感覚を受けた。

 一拍遅れて、脳内に声が響く。


『お呼びですね、シュランメルト?』

「っ……。そうだ、Asrielアスリール


 シュランメルトはいまだ、脳に響く会話に慣れきっていない。

 しかし頭痛を感じながらも、最初の時よりは素早く返事をした。


『私を呼んだ目的は、既に承知しております。この先の案内を、求めているのですね?』

「その通りだ。出来るならば、伏兵がいないか探してくれればよりありがたい」

『では、併せて行いましょう』


 Asrielアスリールは落ち着いた声で、シュランメルトとパトリツィアの補佐を開始する。


『少々お待ちを……大丈夫です。準備は整いました』

「進んでも構わないのだな?」

『はい。しばらくは道案内を行います。ですが……妙ですね』

「妙だと?」

『ええ。


 シュランメルトは完全に予想からかけ離れたAsrielアスリールの一言を聞き、しばし呆然とする。


「人影が……無い、だと?」

『はい。ただの一人も見当たりません。少なくとも、あなたから400m以内には』

「となると、400m進めば一人はいるのだろうか?」

『おそらく。奥で2人……いえ、3人でしょうか? 固まっている人影があります』

「ならばそこまで進めという事か」

『はい。ですが、途中で分岐路があります。そこにも人影が、数名分見えます』

「そこから一人でもおれ達のいる道に流れ込む事はあるか?」

『今はありません。ただし、今後どうなるかは不明です。もしかすると……』

「仮定の話は後だ、今は分岐路まで進む。その手前までたどり着くか、あるいはおれ達のいる側の通路に人影が流れ込んだならば警告が欲しい」

『かしこまりました。では、そのまま直進を』

「承知した。聞こえた通りだ、パトリツィア。直進するぞ」

「はーい」


 かくしてシュランメルトとパトリツィアは、Asrielアスリールの指示通りに進んだのであった。


     *


『止まって下さい』


 分岐路手前まで進んだとき、Asrielアスリールがシュランメルトとパトリツィアを止める。


『向かってくる気配が2つ。恐らく貴方達に敵対する者かと』

「承知した。死角に隠れて奇襲を仕掛ける」

『お気を付けて』


 Asrielアスリールの声を聞きながら、シュランメルトとパトリツィアは素早く目配せをし、分岐路のかどに隠れたのであった。

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