第十章五節 出撃

「御子様……。そのお言葉は、本心でございましょうか?」


 恐る恐るといった様子で、グロスレーベが尋ねる。

 シュランメルトは、先ほどと同じ低い声のままで返した。


「当たり前だ。一切合切いっさいがっさい、横槍を入れさせるな。これはおれ達が、いやおれが解決する問題だ」


 シュランメルトの右拳は、白みがかる程にきつく、握りしめられている。

 いや、右拳だけではない。全身が小刻みに、震えていた。


「シュランメルト」


 と、シュランメルトの眼前に、パトリツィアが立つ。

 そしてシュランメルトの両肩に自らの両手を置き、目をまっすぐ見て、告げた。


「確かにこれは、キミが解決すべき問題だ。けど、だからと言って、ボクはキミを放置できない」

「……パトリツィア?」


 突然の事に、シュランメルトが怒りも忘れて驚愕する。


「ボクはキミの母親の……Asrielアスリールの“変わり身”だ。だからボクの心には、キミの母親の心が共存している。どういう意味か、分かるかな?」

「……済まん。まだ、分からん」

「じゃ、言い換えないとね」


 パトリツィアは、シュランメルトを優しく抱きしめる。




「息子である……同時にボクの伴侶でもあるキミと、そのキミの伴侶となる女の子が抱える問題に、手を貸さない母親なんていないでしょ?」




「そうか。そういう……事、か」


 シュランメルトの頬に、一筋の涙が落ちる。


「『一人で、背負うな』……。そうだろう、パトリツィア?」

「そうだよ。頼って、いいんだよ。シュランメルト」


 パトリツィアは、シュランメルトの背中を優しく撫でる。

 シュランメルトが、呟いた。


「ならば、助けてもらおう。ただし……最後の最後は、おれがケリを付ける。それで、いな?」

「うんっ! そうでなくちゃね、シュランメルト!」


 シュランメルトの決意を聞き取ったパトリツィアが、抱擁ほうようを解いた。

 最早、必要は無い。


「では、グロスレーベ。頼むぞ」

「はっ」


 かくしてシュランメルト達は、自室を後にしたのである。


     *


「来い。アズリオンッ!!!」


 屋敷の外に出たシュランメルトとパトリツィアは、Asrionアズリオンを召喚する。


「行くぞ、パトリツィア。ガルストまでの案内を頼む」

「もちろん」


 パトリツィアの命令に従い、Asrionアズリオンのリッター・フリューゲが咆哮ほうこうに似た音を、激しく響かせる。

 そして膨大な魔力を噴射し、Asrionアズリオンを天高く飛翔させたのであった。

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