第十章三節 撃退

「消えなさい!」


 リラの叫びと同時に、Orakelオラケルの現出装置から多数の光球が現れる。

 20を上回る数を誇るそれは、現れるのとほぼ同時に、Beschärldベシェールトへ向かって真っすぐ飛翔した。

 Beschärldベシェールトは避ける間も無く全ての光弾を食らい、爆発四散する。


「かなりの数ですね……。大丈夫ですか、フィーレ姫、グスタフ?」

「大丈夫ですわ、師匠」


 フィーレのViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンは、手持ちの杖でBeschärldベシェールトの上半身をひしゃげさせ。


「僕も大丈夫です!」


 グスタフのFlammbergフランベルクは、またもヴァジュラでBeschärldベシェールトの胸部を刺し貫いていた。


「これで、だいぶ仕留めたはずですけど……」

「グスタフ、後ろですわ!」

「えっ!?」


 乱戦の外にいた1台のBeschärldベシェールトが、Flammbergフランベルク目掛け、剣を腰だめに構えて突っ込んでくる。

 装甲の薄いFlammbergフランベルクが食らえば、それだけで致命傷だ。グスタフはFlammbergフランベルクの腕を交差させ、防御を試みるが――




「戻って正解だったな」




 Beschärldベシェールトの胸部を、一条の光線ビームが貫いた。

 光線ビームの熱量はBeschärldベシェールトの胸部をかすだけでは飽き足らず、頭部、脚部をもまとめてかし、全身を蒸気と化す。


「大丈夫か、グスタフ?」

「お兄さん……」


 その光景に、グスタフ……いや、リラやフィーレも、そして敵達すらも呆然としていた。

 熱にすらも通常の金属を上回る耐性を誇るAdimesアディメス結晶の装甲。それをいともたやすくかすAsrionアズリオン光線ビームを、一度ならず二度も見て、最早その力を信じない者はこの場にいなかった。


「まだ続けるか?」


 襲撃者達の動揺を感じ取ったシュランメルトは、拡声機を起動して呼び掛ける。


「これ以上おれに仲間を殺されたくなければ、今すぐ去れ。去るならば見逃してやる、しかし去らねば鏖殺おうさつする」

「『みんなまとめて殺す』って意味だからー、さっさと逃げとくのがいいよー?」


 パトリツィアの一言を聞いて、襲撃者達に動きが起きる。

 大半が、この場から離脱しようとしていた。


「そうだ。素直に逃げれば、何もしない」


 と、どこかから光球が、Asrionアズリオン目掛けて飛んできた。

 シュランメルトは慌てず、光球を大盾で防ぐ。


「その行動、『殺してくれ』と受け取ろう」


 光球を放ったのは、残ったBeschärldベシェールトであった。

 いや、それだけではない。


「意地でも屋敷を壊す気か……?」


 遠くに、1台だけ、水色の遠距離攻撃用機体――Bipfeildビープファイルトが残っていた。

 先ほどまで、散々屋敷を攻撃した魔導騎士ベルムバンツェの内の1台である。


「承知した。ならばおれも、全力で受けて立つとしよう」


 自身に眠る怒りをあらわにしたシュランメルトは、Asrionアズリオンを近くのBeschärldベシェールトへ向けて疾走させる。

 Beschärldベシェールトが剣と盾を構えようとするが――


「目障りだ」


 それよりも早く、Asrionアズリオンが大剣を振り抜いた。

 あるじうしなったBeschärldベシェールトが膝を屈し、結晶片をまき散らしながら大地に倒れ伏す。


 と、Asrionアズリオンに光の矢が命中した。

 しかし、堅牢なAsrionアズリオンの装甲には何の損傷も無い。


「不愉快なものだな。よくもリラの屋敷を……」


 Asrionアズリオンが狙いを変え、Bipfeildビープファイルトに向けて疾走する。

 Bipfeildビープファイルトは慌てて、二発目を発射するが。


「無駄だ」


 Asrionアズリオンは装甲だけで完全に、光の矢を無効化させる。

 Bipfeildビープファイルトが、三発目、四発目と、立て続けに矢を放つも。


「捉えたぞ」


 全てが弾かれ、Asrionアズリオンが眼前に迫る。

 Bipfeildビープファイルトが剣を抜き、構えるも――


「さらばだ」


 構えた剣ごと、水色の機体が両断される。

 そして、上半身がゆっくりと、胸部を滑り落ち――大地と接吻した。


「パトリツィア」

「なに?」

「リラの屋敷を襲った魔導騎士ベルムバンツェは、これで全てか?」

「多分ね。もう攻撃してくる様子は見えない。近くでこっそり隠れてるヤツには気を付けるけど、そもそもそーゆー気配も感じられないし」

「承知した。その言葉、信じよう」

「ボクがシュランメルトにウソつくワケ、ないでしょ」

「そう言えば、そうだったな」


 かくして、その場の残敵を排除し終えたAsrionアズリオンは、リラの屋敷へと戻ったのであった。


---


「ひとまずは終わった。しかしどうなるか分からん以上、おれは周囲の警戒にあたる」

「承知しました、シュランメルト。私も手伝いましょう」

「いいのか、リラ?」

「ええ。その前に……」


 Orakelオラケルが後ろを向き、Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンFlammbergフランベルクを見る。


「フィーレ姫、グスタフ。貴方達は、お眠りなさい」

『師匠!?』

『ええっ、何で!?』


 即座に抗議が飛んでくる。

 が、リラは涼しい顔で返した。


「貴方達は、よく頑張ってくれました。ここからは、私達が請け負います。それに」


 一度言葉を切り、たっぷり息を吸ってから、リラが続ける。


「寝る子は育つ。貴方達は、まだまだ大きくなる存在です。既に成長期を終えた私とは違って」


 その言葉を聞いたフィーレとグスタフが、納得した表情を浮かべる。


『分かりました、師匠。では、お先に失礼いたします』

『おやすみ、ししょー、お兄さん!』


 そして、Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンFlammbergフランベルクが格納庫へと戻るのであった。


「では、警戒を始める」

「ええ。しっかり見張っておきます」


 こうして、屋敷の見張りが始まったのである。


     *


 その頃。

 ベルリール城の一室では、シャインハイルが寝息を立てて眠っていた。


「すぅ、すぅ……」


 そこに、人影が一つ現れる。

 影は針金らしきものを取り出すと、窓の鍵を開け、部屋に侵入した。


「姫殿下、お許しください。これも我が息子の、記憶の為です」


 影はシャインハイルを静かに抱えると、そのままどこかへと連れ去っていった……。

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