第十章二節 要撃

「何という数だ……」


 リラの屋敷近くに集まった、30台を超える魔導騎士ベルムバンツェを見て、シュランメルトが歯噛みする。


(単に殲滅せんめつするだけならばいざ知らず、屋敷を守りながらとなると、おれだけでは少々動きづらいぞ……!)


 遠距離から飛んでくる魔力の矢を、時に防ぎ、時に叩き落し、また時に撃ち落とすシュランメルト。

 奮戦によって何とか、屋敷にこれ以上被害が拡大するのを食い止めていたのである。


(リラ達は、どうなっている!?)


 シュランメルトは、横目でチラリと格納庫を見る。

 直後、こちらに向かってくる魔導騎士ベルムバンツェが見えた。


「あれは……Orakelオラケル!」

「やっほー!」

「パトリツィア!?」


 さらに、パトリツィアがいきなり操縦席内部に転移してきた。

 原理を知っているシュランメルトであるが、このタイミングで現れた事に驚いたのである。


「リラ達は無事か!?」

「うん。今はそれぞれの魔導騎士ベルムバンツェに乗ってるよ」


 と、Orakelオラケルから声が響く。


『シュランメルト、聞こえますか!?』

「聞こえるぞ、リラ!」

『おかげさまで、無事にOrakelオラケルに搭乗出来ました。私達3人が屋敷を防衛しますので、シュランメルトは敵機の排除をお願いします!』

「承知した! 無理はするなよ!」


 シュランメルトが、敵機目掛けてAsrionアズリオンを走らせる。

 と、後ろから声が聞こえた。


『屋敷はわたくし達が守り抜きますわ!』

『うん! だからお兄さんは、安心して行ってきて!』

「ああ、承知した!」


 フィーレとグスタフの声援を受け、シュランメルトは今度こそ、Asrionアズリオンを疾走させたのである。


---


「なっ、何だこい――」


 白い機体――Beschärldベシェールトに搭乗していた男が、機体ごと両断される。


「まず1台」


 Beschärldベシェールトを瞬く間に屠ったシュランメルトは、殺意のこもった目で他の機体を睨みつける。

 その意思を反映するかのように、Asrionアズリオンの首が巡った。


「貴様ら」


 無意識に起動させていた拡声機から、シュランメルトの声が漏れる。


「覚悟しろ」


 抑揚の無い、しかし怒りに満ちた声は、襲撃者達をたじろがせた。

 その間にも、Asrionアズリオンは次なる獲物目掛けて疾駆する。


「なっ――」


 反応する間も無く、2台目のBeschärldベシェールトが三分割される。


「遅い」


 勢いそのまま、Asrionアズリオンが大盾の先端を槍の如く、3台目のBeschärldベシェールトの胸部目掛けて突き立てた。


「まだいるな……。むっ、抜けられたか」

「シュランメルト、前!」


 屋敷の防衛に向かう間も無く、Asrionアズリオンが盾で防御する。


「邪魔だ」


 振り下ろされた剣を抑えている間に、Asrionアズリオンが大剣を横なぎに振るう。

 Beschärldベシェールトが、胸元切り裂かれた。これで4台目である。


「リラ達は……大丈夫そうだな」


 チラリと後ろを振り向くと、FlammbergフランベルクBeschärldベシェールトの胸部にヴァジュラを叩きつけたのを確かめた。


おれおれのすべき事をするだけだ」


 シュランメルトはAsrionアズリオンを駆けさせ――敵のBeschärldベシェールトの異常な動きに気づく。


(むっ、何故今下がる?)

「シュランメルト、接近戦はダメ!」


 何かを察したシュランメルトは、パトリツィアの助言に従い、Asrionアズリオンを飛び退かせる。


「承知した、パトリツィア。光線ビームによる攻撃に切り替える」

「りょーかいっ。準備するね」


 Asrionアズリオンが、着地する。

 その、直後。


 何かが土煙を上げて地面に突き刺さった様子が、シュランメルトの目に留まった。


「あれは光弾……なの、か?」

「多分違うかも。それより、光線ビームの準備、整ったよ」

「承知した……むっ」


 土煙が晴れだす。

 そこでは、黄土色の強襲型魔導騎士ベルムバンツェBispeerldビースペールト”がスピアを引き抜いていた。


「ねっ、違った」

「だろうな。しかし、まさか魔導騎士ベルムバンツェとは……むっ、あれか」


 シュランメルトが空を見上げると、そこには4台の灰色の魔導騎士ベルムバンツェ――Bispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルが飛んでいた。


「そうか、おれ目掛けて落としたのか。随分独創的な手を考えたものだな」

「感心してる場合かな、シュランメルト?」

「承知している、パトリツィア……おっと」


 話している間に、2台目のBispeerldビースペールトが降ってきた。

 シュランメルトは慌てず、Asrionアズリオンを飛びのかせる。


「その隙は致命的だぞ」


 回避を完了すると同時に、降ってきたBispeerldビースペールト光線ビームで狙い撃つ。

 落ちたばかりで身動きの取れないBispeerldビースペールトは、瞬く間に全身を熱気と化した。


「次は……そうか、貴様か」


 シュランメルトがAsrionアズリオンを捻らせる。

 一瞬遅れて、Bispeerldビースペールトのスピアが、先ほどまでAsrionアズリオンのいた空間を通り過ぎた。


「逃がさん」


 突撃の勢いをそのままに離脱を試みるBispeerldビースペールト。しかしAsrionアズリオンの脚部に詰められた膨大な筋肉から発せられる加速は、Bispeerldビースペールトに容易く追いついた。


「覚悟しろ」


 追いつくと同時に、Asrionアズリオンが大剣を振るう。

 Bispeerldビースペールトは瞬く間に、ただの結晶の塊と化したのであった。


「さて、これで計6台か?」


 眼前の敵機を屠ったシュランメルトは、一度戦況を把握するためにぐるりと周囲を見回す。


「とはいえ……まずいな」


 見ると、10台程のBeschärldベシェールトがリラ達との距離を詰めていた。


「囮だったか。ならばおれがする事は一つだな」


 シュランメルトは即座に決断すると、Asironアズリオンを屋敷へと向かわせたのであった。

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