第十章 襲撃

第十章一節 警戒

 抱擁を終え、屋敷内に入ったシュランメルトは、開口一番こう告げた。


「心配を掛けておいて何だが、今晩この屋敷は襲撃される」


 その言葉に、リラとフィーレ、そしてグスタフが茫然とした。

 脈絡も無く言われたのだ、当然の反応である。


 しばしの間をおいて、最初に返答したのは、リラであった。


「何をすれば良いのでしょうか? シュランメルト」


 シュランメルトが即答する。


「お前達の魔導騎士ベルムバンツェを、十全な状態に整えろ。そしてお前達自身のコンディションも、だ」

「整備と、休息……」


 遠回しな言い方でも、リラは即座に意味を悟った。

 “ヴォルフホイル”という犯罪組織ですら魔導騎士ベルムバンツェを持つベルグリーズ王国では、魔導騎士ベルムバンツェが無ければ自衛どころの話ではないのが常識。だからこそ、弟子であるフィーレとグスタフには、徹底して「いついかなる時でも魔導騎士ベルムバンツェと自分自身を最高の状態に持ち込めるよう心掛けなさい」と言ってきていた。


 しかし、のだ。

 それを受けたリラは驚嘆しつつも、返事をする。


「では、早速魔導騎士ベルムバンツェの整備をします。フィーレ姫、グスタフ。格納庫へ向かいます」


 リラの指示で、格納庫へ向かい始めるフィーレとグスタフ。

 と、パトリツィアが呼び止めた。


「待って!」

「何でしょうか?」

「終わったら、昼寝しなよ。安心して、ボクが起こすからさ!」


 いつも通り、明るい調子で話すパトリツィアを見て、リラは微笑む。

 そして、「では、整備が終わったら」とだけ言うと、今度こそ格納庫へ向かったのであった。


     *


 それから3時間後。

 何の異常も無く整備を終えたリラ達は、リビングのソファで眠っていた。


 その脇を静かに、シュランメルトが歩く。彼はカップを手にすると、水を一口だけ飲んだ。


(既に日は沈んだが……。まだ何も無い、のか?)


 そう思いながら、シュランメルトはダイニングの椅子に無造作に座る。

 一見くつろいでいるように見えるも、シュランメルトは気が気でなかった。


(いや、下手な憶測は挟むまい)


 自分に言い聞かせ、二口目の水を飲むシュランメルト。

 と、突然体が震えた。


(……!?)


 カップがテーブルの上に落ちる。

 陶磁で出来ていたそれは、わずか20cmからの高さでもあっさりと割れたのだ。


「……どうしたのですか?」


 当然、陶器の割れる音でリラが起きる。

 フィーレとグスタフはよほど疲れていたのか、眠ったままであったが、リラはシュランメルトの元へ近づいてきた。


「済まない、リラ。割ってしまった」

「あら……。怪我はありませんか、シュランメルト?」

「無いな…………ッ、伏せろ!」


 リラを押し倒し、覆い被さるシュランメルト。




 直後、リビングの壁が爆散した。




「ッ!?」

「なんなの!?」


 これだけの音がすれば、眠りの深いフィーレとグスタフでさえも飛び起きる。


「パトリツィア、急いで格納庫へ行け!」

「分かった!」


 シュランメルトはパトリツィアを別行動させると、爆散した壁から屋外へ出る。


「来いッ! アズリオンッ!」


 そのままAsrionアズリオンを召喚し、大剣と大盾を構えさせた。


     *


 一方、パトリツィアは。


「なーにやってるのかなー?」

「ッ!?」


 シュランメルトに指示され、格納庫へ向かうと、案の定、覆面を被った男が5人いた。

 パトリツィアの容姿を見て、一瞬動きを止める男達。その隙を、逃さない。


「はぁっ!」


 みぞおちに蹴りを叩き込み、最初の1人をダウンさせると、両足首を掴む。


「それー!」


 そのまま振り回すと、他の3人に振り回された男の体が命中し、次々となぎ倒す。


「何しやがる、このアマ…………ッ!?」


 最後の1人がフリントロックの拳銃を抜くが、それよりも先に、足首を掴まれたはずの男のを見る。


「ぐはっ!」


 当然顔面部にクリーンヒットし、放り投げられた男ともども倒れ伏した。


「さてー、こっちはだいじょーぶかなー? いるよねー、みんなー?」


 男達を一掃したパトリツィアは、ついてきていたリラ達3人を見る。


「はい、こちらに」


 その声を聞いたパトリツィアは、胸をなでおろす。


「よかったー。それじゃーさ、みんなの魔導騎士ベルムバンツェを見てくるねー。多分大丈夫だろうけどー」


 パトリツィアはすぐさま、Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンFlammbergフランベルクOrakelオラケルの順で見回る。

 無論見回りが終わった順番に、フィーレ、グスタフ、そしてリラが搭乗して起動した。


「だいじょーぶだねー。それじゃー、ボクはシュランメルトと合流するよー!」

「お願いします!」


 拡声機越しのリラの返答を聞きながら、パトリツィアはシュランメルトの元へ行く為に、念じ始めていたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る