第九章七節 帰還

「さて、この場において聞くべきは聞かせてもらった。帰るぞ、パトリツィア」


 午後に入った頃、シュランメルトは騎士団の拠点を後にする。

 と、サリールに見つかった。


「おや、御子様に“変わり身”様。もう、帰られるのですか?」

「ああ。色々と世話になった」

「ごはん、おいしかったよー!」


 シュランメルトとパトリツィアが、頭を下げる。


「いえ。我々はすべき事をしただけです。今自由に動ける団員は私だけですが、せめて入り口まではお見送りさせていただきます」

「では、頼むとしようか」

「いいよー、おねがーい!」


 サリールの申し出を、シュランメルトとパトリツィアはあっさり受け入れた。

 そしてそのまま、三人は格納庫へと向かったのである。


---


「ここなら大丈夫だな……。来いッ! アズリオンッ!」


 格納庫に着くや否や、すぐにシュランメルトがAsrionアズリオンを召喚する。

 突風が巻き起こると同時に、漆黒の巨人騎士が出現した。


「世話になったな。ガレスベルや他の団員にも、よろしく告げてくれ」


 シュランメルトはそれだけサリールに告げると、Asrionアズリオンの重厚な足音を響かせながら立ち去る。

 やがて足音が完全に聞こえなくなり、その上さらにしばらくの間をおいてから、サリールはようやく頭を上げたのであった。


「シュランメルト様、ご武運を。我らが守護神様と共に、見守らせていただきます」


     *


「見えた。もうすぐリラの屋敷だな」


 Asrionアズリオンを歩かせてから、しばらく経っての事。

 リラの屋敷を見つけたシュランメルトは、そのまま屋敷へと直進した。同時に拡声機を起動し、屋敷へと呼び掛ける。


おれだ、シュランメルトだ! 済まない、心配をかけたな!」

「ボクもいるよー!」


 その声を聞いて、リラの魔導騎士ベルムバンツェであるOrakelオラケルが真っ先に振り向く。

 フィーレとグスタフも、それぞれの魔導騎士ベルムバンツェの首を巡らせて、シュランメルトのAsrionアズリオンを視界に収めたのである。


『シュランメルト! シュランメルトなのですね!?』

『心配したんですのよ……!』

『おかえり、二人とも!』


 3台が同時に、Asrionアズリオンの元へと駆け寄る。Asrionアズリオンもまた、3台の元へと駆け寄った。

 そして近くまで来ると4台同時に停止し、Asrionアズリオンの姿が消える。

 リラ達の魔導騎士ベルムバンツェもひざまずき、胸部装甲が開放された。


「みんな! 今、帰ったぞ……!」


 シュランメルトが叫びながら、リラ達の魔導騎士ベルムバンツェに駆け寄る。その後を、パトリツィアが追った。


「お帰りなさい、シュランメルト……!」

「パトリツィアも……!」

「寂しかったよ……!」


 駆け寄ったシュランメルトを、同じく駆けていたリラとフィーレ、そしてグスタフが抱きしめる。


「ボクも帰ったよ……!」


 さらにシュランメルトの後ろから、パトリツィアが抱擁ほうようを返した。




 五人はしばしの間、その場で抱き合っていた……。

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