第九章四節 百合

「ひとまずは、手は打ったか……」


 シュランメルトを無事に救護室へ運んだガレスベルは、別の場所へと向かっていた。


「さて、オティーリエの様子を見るか……。あのような大事おおごとを起こしたとはいえ、私の、“神殿騎士団”の団員である事に変わりは無い。彼女の性格だ、大人しくしてはいるだろうが……」

「ひぅっ、そこはらめぇ!」

「……ん?」


 突然の声、しかも妙に色っぽい声を聞いたガレスベル。


「何事だ!」


 反省房の中に入っているのは、オティーリエだけのはず。

 そう考えたガレスベルが謎の声を訝しむのは当然で、腰の剣に手を掛けながら反省房まで走っていった。


---


「どうした、オティーリエ!? ……むっ、お前は!」


 ガレスベルが、反省房にいるオティーリエを見る。

 そこには。


「イイじゃないか、オティーリエ……なあ?」

「だめっ、やめてノートレイア……んむぅ」

「んちゅ、ぴちゅ……」


 反省房に入れられたオティーリエと、どういう訳か房内に侵入したノートレイアが、熱い口づけをわしていたのである。


「…………」


 しかもそこには、サリールとアサギがいた。当然彼女達も、この様子を見ている――“オティーリエとノートレイアが隠そうともしない”という一面もあるが――。


「……サリール、アサギ。聞こえているか」

「はい」

なにー、団長?」


 ガレスベルはやや気の抜けた声で、命令を下す。


「ノートレイアを引き剥がせ」

「かしこまりました」

「了解だよー」


 サリールとアサギが房内に入り、ノートレイアを力ずくで引き離す。


「離れてください」

「不謹慎だよー!」

「あぁん、二人してあたしには手荒いねぇ」


 ノートレイアがぼやきながらも、オティーリエから引き離された。

 同時にパンパンと服をはたいて、格好を整える。


 そんなノートレイアを、ガレスベルがまっすぐ見据えた。


「ノートレイア。ここに来たのは、オティーリエとそのような事をするためだけか?」

「まさか。そんな事はありませんよ、団長。あたしは団長に報告したい事がありましてね。まあそのついでにオティーリエを見つけたので、ちょっと房内に侵入した訳ですが」


 “ちょっと”では済まない事をしでかしたノートレイアだが、今回は報告の優先のために流された。


「聞かせてもらおうか」


 ガレスベルが促すと、ノートレイアが報告する。




「では、遠慮なく。




 その言葉に、ガレスベルとノートレイアが無言で頷く。


「そうか。引き続き静観頼むぞ、ノートレイア」

「もちろんでさあ、団長。では、あたしはこの辺で。ホントはもうちょいと、オティーリエとイチャつきたかったんだけどねぇ」


 ノートレイアはそれだけ呟くと、体を闇に溶け込ませた。

 残ったガレスベルは、ボソリと言った。


「そうか、“将軍”が、か。あのお方の事だ、明日にでも決行されるだろうな」


 それだけ呟くと、オティーリエのいる反省房に鍵を掛け、その場を後にしたのであった。

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