第九章 騎士

(解説有)第九章一節 守護

「私の命令が聞こえていなかったのか?」


 Asrifelアズリフェル・_Arotülaアロテューラに搭乗している人物の声が、一帯に響き渡る。

 それを聞いたオティーリエは、拳を握りこみ奥歯を噛み締め、悔しさを無理やり抑え付けながら返答した。


「承知しました…………“団長”。ただ今、武装解除します」


 その言葉に合わせ、Asrifelアズリフェル・_Gelbelgaゲルベルガが剣と盾の結晶を解除し、つかと小盾とを収納する。


「良し」


 一連の動作を確かめたAsrifelアズリフェル・_Arotülaアロテューラの搭乗者が、操縦席内で満足そうに頷いた。

 そしてAsrifelアズリフェル・_Arotülaアロテューラと、取り巻きの2台――色は違うが、シルエットや全高は同じAsrifelアズリフェルである――とが、Asrionアズリオンの元まで歩み寄る。


「お前達は、何者だ……?」


 警戒心をむき出しにする、シュランメルト。

 しかしパトリツィアには、心当たりがあった。


「神殿騎士団のみんなじゃないか……! 赤いのに乗ってるのはガレスベル、青いのはサリール、緑はアサギだろ!? そうだよね!?」


 そう。

 “変わり身”としてAsrielアスリールの記憶を持つパトリツィアは、実感こそ持たぬものの、知識として誰がどの団員であるかという事を把握していたのだ。

 その問いかけを肯定する声が、Asrifelアズリフェル・_Arotülaアロテューラから響く。


「はい、まさしく私は“ガレスベル・ノルトレーベ・アズレイア”でございます。新参者であるオティーリエが、大変な無礼をしたとお見受けしましたが……」

「新参者ー? だからかぁー。ボク達に喧嘩売った理由はー」


 パトリツィアが、あっけらかんとした様子で言う。


「ボクは気にしないけどねー。シュランメルト、キミはどうかなー?」

「事情を話してくれるのであれば、何もとがめるつもりは無い」

「だってさー」


 その返答を聞いたガレスベルと名乗る男は、深い感謝を二人に示した。


「なんと寛大なるご慈悲か……! ありがとう、ございます……!」


 ガレスベルはオティーリエの代わりに、感謝の意を告げる。

 と、彼の脳裏に疑問が浮かんだ。


「して、あなた様は一体……? その魔導騎士ベルムバンツェ……Asrionアズリオンに乗っていらっしゃるという事は、御子様か“変わり身”様のいずれかとお見受けしますが」


 ガレスベルは、パトリツィアに向けて問い直す。

 それを受けて、パトリツィアが答えた。


「ボクー? ボクは“変わり身”だよ。そしてボクの名前はー、パトリツィア・アズレイア、だよー」

「何と、“変わり身”様でいらっしゃいましたか! となれば、同乗されているのは……」

「うん、キミ達が“御子”と呼ぶ存在だねー。ちゃんと特徴的なアザもあるしー。シュランメルトー、彼らに名乗ってあげてー」

「承知した、パトリツィア。おれの名前はシュランメルト・バッハシュタインだ」

「シュランメルト、様……」


 自らの脳裏に記憶させようと、ガレスベルが名前を反芻はんすうする。

 それを聞いたシュランメルトは、静かに補足した。


「もっともこの名は、今は仮の名前だがな」


 それを呟くと、パトリツィアがさらに付け足した。


「ところでみんなー、ちょっとシュランメルトに名乗ってあげてー? 今さー、記憶喪失みたいだからー、みんなの名前分からないんだってさー。ボクの知らない黄色のキミも、名乗ってくれるよねー?」


「はっ、かしこまりました! 皆、順繰りに名乗れ。後……」


 Asrifelアズリフェル・_Arotülaアロテューラが、Asrifelアズリフェル・_Gelbelgaゲルベルガに向き直る。


「オティーリエ。お前も当然名乗るのだ。順番をたがえずにな」

「ッ……。承知しました」


 オティーリエが悔し気に返答する。

 そんな様子をよそに、天色あまいろAsrifelアズリフェルから澄んだソプラノの声が響いた。


「初めまして、御子様、そして“変わり身”様。私の名前は、“サリール・リーラス・アズレイア”と申します。神殿騎士団の副団長にございます。そして私の駆る魔導騎士ベルムバンツェの名前は、Asrifelアズリフェル・_Blaufelブラオフェル。私ともども、よろしくお願いいたします」


 Asrifelアズリフェル・_Blaufelブラオフェルと呼ばれた天色あまいろAsrifelアズリフェルが、ペコリと頭を下げて一礼した。


「はいはーい!」


 それに続いて、子供の声が響く。

 鮮緑せんりょくAsrifelアズリフェルからであった。


「わたしは“アサギ・ガイメス・アズレイア”! 神殿騎士団の団員ですっ! “アサギ”と、お呼びください! あっ、魔導騎士ベルムバンツェの名前はAsrifelアズリフェル・_Grünelグリューネルですっ! よろしくおねがいしますっ!」


 Asrifelアズリフェル・_Grünelグリューネルと呼ばれた鮮緑せんりょくAsrifelアズリフェルAsrifelアズリフェル・_Blaufelブラオフェルと同様に、ペコリと頭を下げて一礼した。


 それを見たガレスベルが、オティーリエに催促するように告げる。


「残るはお前だけだぞ? オティーリエ」

「ッ……。はい、分かりました、団長……」


 オティーリエは心底から嫌そうに、シュランメルト達に向けて名乗った。


「わ、私の名前は、“オティーリエ・アンゾルゲ・アズレイア”と申します……」


 怒りを押し殺すように震えた声で、オティーリエが名乗り続ける。


「神殿騎士団には、つい最近に入団したばかりでございます……。そして私の魔導騎士ベルムバンツェの名は、Asrifelアズリフェル・_Gelbelgaゲルベルガと申します……。どうぞ、今後とも……。よろしく、お願いいたします……」


 油断すれば爆発する、そんな怒りと屈辱に耐えながら、オティーリエが名乗りを終えた。

 それを見たガレスベルは、満足そうに微笑んだ。


「良し、これで全員名乗り終えたな。ああ、そう言えば。御子様、そして“変わり身”様。この場にはおりませんが、実はもう一人、団員がおります」

「あっ、それは知ってるー。ノートレイアだよねー?」

「はい、その通りでございます」

「ならばおれも把握しているぞ」

左様さようでしたか……。では、この話はこれで」


 ガレスベルが話を終えると、オティーリエの元に歩み寄る。


「お前には後で、再教育をしなくてはな。まさか御子様や“変わり身”様が乗っておられるAsrionアズリオンに戦いを仕掛けるとは、無礼極まりないぞ」

「団長……! これには、理由が……!」

「それは再教育の時に存分に聞かせてもらおうか。サリール、アサギ。オティーリエを機体ごと取り押さえろ」

「かしこまりました」

「はーいっ!」


 天色あまいろ鮮緑せんりょくAsrifelアズリフェルが、2台がかりでAsrifelアズリフェル・_Gelbelgaゲルベルガを両脇から取り押さえる。

 完全に行動を封じられたAsrifelアズリフェル・_Gelbelgaゲルベルガだが、特に抵抗せずに連行された。


「御子様、“変わり身”様」

「何だ?」

「我々の拠点へご案内致します」


 Asrifelアズリフェル・_Arotülaアロテューラが先導し、Asrifelアズリフェル3台を、そしてAsrionアズリオンを、いずこかへと導き始めたのであった。



       ――解説欄――



●ガレスベル・ノルトレーベ・アズレイア...Garethbel_Nordlöwe_Asreia


身長:208cm

体重:103kg

年齢:27歳


〈概要〉


 “神殿騎士団”団長を務める、紅髪金眼の偉丈夫。一人称は「私」。

 真紅しんくの剣と、同色のフードが付いたコートを常に身に着けている。

 乗機はAsrifelアズリフェル・_Arotülaアロテューラ



●サリール・リーラス・アズレイア...Sariel_Lieras_Asreia


身長:173cm 3size:99(J)/55/90

体重:50kg

年齢:不明(外見年齢は23歳)


〈概要〉


 “神殿騎士団”副団長を務める、青髪青眼の美女。一人称は「私」。

 天色あまいろの剣と、同色のフードが付いたコートを常に身に着けている。

 乗機はAsrifelアズリフェル・_Blaufelブラオフェル



●アサギ・ガイメス・アズレイア...Asagi_Gaimeth_Asreia


身長:133cm 3size:66(AA)/49/70

体重:30kg

年齢:13歳


〈概要〉


 “神殿騎士団”団員を務める、黒髪黒目の少女。ロリ担当。一人称は「わたし」。

 鮮緑せんりょくの剣と、同色のフードが付いたコートを常に身に着けている。

 乗機はAsrifelアズリフェル・_Grünelグリューネル



●オティーリエ・アンゾルゲ・アズレイア...Ottilie_Ansorge_Asreia


身長:158cm 3size:88(F)/56/83

体重:45kg

年齢:16歳


〈概要〉


 “神殿騎士団”団員を務める、金髪紫目の少女。入団したばかりの新入り。可愛い。一人称は「私」。

 山吹やまぶきの剣と、同色のフードが付いたコートを常に身に着けている。

 乗機はAsrifelアズリフェル・_Gelbelgaゲルベルガ

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