第六章十節 襲来

 2台の魔導騎士ベルムバンツェが、盾を構えたまま正面から激突する。


「はあぁっ!」

「せやあっ!」


 シュランメルトとシュナイゼルが掛け声を上げると同時に、2台が凄まじい音を響かせて激突した。


 2台とも、微動だにしない。

 しばしの間を置いて、ゆっくりと離れた。


 Asrionアズリオンは何の問題も見せず、堂々と立っている。

 Randius Schildランディウス・シルトもまた、堂々と立っているように見えた――が、次の瞬間。


「何ッ!?」


 ズシィンという音を響かせ、大盾を取り落とす。

 Randius Schildランディウス・シルトは胴体にこそ影響は少ないものの、直接衝突した大盾を保持する手や腕が、衝撃に耐え切れなかったのである。


「しまった、盾を……ッ!」


 シュナイゼルは覚悟を決める。

 大盾を取り落とすという明確な隙を見せた以上、半分とはいえ切り裂いてみせたAsrionアズリオンの大剣による一撃を受ける他の選択肢は無い。

 その、はずだった。


「むっ?」


 何故かAsrionアズリオンは、いつまで経っても攻撃してこない。

 それどころか、大剣の刀身を霧散させ、つかを腰部に収納したではないか。


「何だ、何が目的で……」


 と、Asrionアズリオンが左前腕に固定している小盾を取り、結晶で装甲を形成する。

 同時に、シュランメルトの声が響いた。


「その盾を拾え。お前が盾を拾った瞬間、おれはお前を全力で攻撃する」

「何でしょうか、それは?」

いから拾え。お前の誇りの盾だろう、それは」


 シュナイゼルは、シュランメルトの思考を、真意を理解出来ていない。

 それゆえ、呆けた顔で固まっていたのである。


 が、シュランメルトは依然として、攻撃の代わりに言葉をかけ続けた。


「お前の盾は、その程度で捨てられる程度の、軽いものだと言うのか?」

「何です、先程から何を……」

「落とした盾を拾うんだ、シュナイゼルッ!」


 ついに、シュランメルトが怒鳴りだした。

 シュナイゼルは理解が追いつかないながらも、何とかRandius Schildランディウス・シルトを操り、落とした大盾を拾った。


「それでい。お前を倒すには、その盾を両断する必要があるからな」


 シュランメルトは満足そうに、そう呟いたのである。


---


「ねーねー」


 Randius Schildランディウス・シルトが大盾を拾った直後、パトリツィアが不満そうに話しかけてきた。


「あんな硬い盾をわざわざ拾わせるなんてさー……。シュランメルト、どんな目的でそうさせたの?」


 パトリツィアの疑問も道理である。

 わざわざ敵に態勢を整えさせるのは、理解に苦しんだ。


「目的、か」


 しかしシュランメルトには、自分なりの考えがあった。


「シュナイゼルの誇りであるあの大盾を両断すれば、奴も戦意を喪失するだろうな」


 それを聞いたパトリツィアは一転して、意地の悪い笑みを浮かべる。


「ふーん……。シュランメルト、キミも存外、えげつない考えを持つんだねー?」

「どうだろうか。おれは、“盾の使い方は別にある”と伝えたいだけだぞ」


 そう言いながらシュランメルトは、態勢の整ったRandius Schildランディウス・シルトを見て、Asrionアズリオンに盾を両の順手じゅんてでしっかりと持たせたのであった。


---


 シュランメルトによる意図的に生み出された冷却時間クールタイムを経て、決闘は再開する様子を見せつつあった。


「盾は拾ったな。では、今度はおれから参るとしよう」


 その言葉と同時に、シュランメルトがAsrionアズリオンへと思念を送る。

 Asrionアズリオンは両手の盾を手甲剣パタの如く保持し、Randius Schildランディウス・シルト


「なっ、何を……!?」


 シュナイゼルが叫ぶも、Asrionアズリオンは大盾への攻撃をやめない。

 慌ててRandius Schildランディウス・シルトが剣を抜いて反撃に出る。


「振りが甘いな。自慢の盾に頼り過ぎだ!」


 シュランメルトがそう言うや否や、Asrionアズリオンは盾を振る。

 盾のふちRandius Schildランディウス・シルトの剣の護拳付近に当たり、膂力でもって弾き飛ばした。


「しまった、剣が……!?」


 近距離での主な反撃手段である剣を失ったRandius Schildランディウス・シルトは、あるじであるシュナイゼルの動揺とあいまって大きく態勢を崩す。


 その隙を突き、Asrionアズリオンは両腕を交差させると――


「自慢の盾、両断させてもらおうか!」


 外側に腕を思い切り振り抜き、Randius Schildランディウス・シルトの大盾を両断したのである。

 元々“半分”切り込みが入っていた大盾だが、僅かな切れ目に盾が入り込み、はさみよろしく大盾の装甲を左右両側から切断したのであった。


「なっ――」


 シュナイゼルが目の前の事実を見て、さらに動揺する。

 そして同時に、シュランメルトの意図を思い知ったのだ。


 一つ。自慢の盾を両断する事で、シュナイゼルの戦意を完膚なきまでにへし折る事。

 一つ。「盾とは身を守るものだけにあらず」という事柄を、突きつける事。


 短い時間で全てを察したシュナイゼルは、しかしズズゥンという切断された大盾の一部が地面に落ちた音を聞いて、自信と気力を失ったのであった。


 そこへダメ押しとばかりに、シュランメルトの声が響く。


「どうする、シュナイゼル? お前の盾は両断されたぞ」

「ッ……」


 しらじらしいにも程がある。シュランメルトの言った事は、挑発に他ならない。


 しかし事実として、シュランメルトは、Asrionアズリオンは、シュナイゼルが誇る巨大で分厚い盾を、綺麗に両断した。

 どう弁解しようが、落下した盾の一部がひとりでにくっつく事など無い。


 全てを諦めたシュナイゼルは、絞り出すような声で、何とか自らの意思を告げた。


「分かり、ました……。この決闘は、私の……負け、です」


 その言葉を聞いたアレスは、立会人としてただちに裁定を下した。


「そこまで! 勝者、シュランメルト殿!」


 アレスの声が砂場一帯に響くのを、シュナイゼルは黙って聞いていたのであった……。


「おや、妙だな?」


 と、シュランメルトが何かに気づいた。


「あの魔導騎士ベルムバンツェ達、まっすぐこちらに向かってくるぞ? 知っているか、アレス?」

「いえ、全く心当たりはありません。ここに来るという話も、聞いておりませんゆえ」

「では、いったい何なのだろうな?」


 シュランメルトが話題にしたのは、接近してくる魔導騎士ベルムバンツェの一団であった。

 数にして16台。内訳としては現行機にして標準機であるBeschärldベシェールトが10台と、強襲突撃機のBispeerldビースペールトが5台、そして指揮官機のBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルが1台であった。


「……待て」


 と、シュランメルトが何かを呟く。


「あの左肩の紋様……見覚えがあるぞ?」


 シュランメルトが、アレスが、そして意気消沈していたシュナイゼルまでもが、向かってくる機体の左肩を見る。




 そこには、がペイントされていた。




「あれは、おれとフィーレを襲った魔導騎士ベルムバンツェと同じ……!」


 シュランメルトが叫ぶが、遅きに失していた。


 16台の魔導騎士ベルムバンツェは、一斉に現出装置を輝かせると――




 シュランメルト達へ向けて、光弾を無数に放ったのであった。

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