第六章十一節 迎撃

「回避しろ!」


 シュランメルトが叫ぶと同時に、3台の魔導騎士ベルムバンツェは一斉に対応した。

 アレスのBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルは、瞬時にフリューゲを稼働させて高度を取って避け。

 シュランメルトのAsrionアズリオン、そしてシュナイゼルのRandius Schildランディウス・シルトは、手にした盾で光弾を防いだ。


「ふむ、おれを殺しに来たつもりか。アレスとシュナイゼルに巻き添えを食わせたのは悪いが、その程度では話にもならんな」


 シュランメルトは光弾が雨あられと来るのにも怯まず、冷静に話していた。


 無数の光弾が通り過ぎた後、3台は同様に反撃を開始する。

 アレスのBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデル、そしてRandius Schildランディウス・シルトは、現出装置から光弾を連射した。


 残るAsrionアズリオンは右手に持った盾の結晶を霧散させ、基部となる小盾を左前腕に収納する。

 そして左腰部にあるつかを手に取ると、結晶を伸ばして刀身となした。


「貴様らが“ヴォルフホイル”というのであれば、容赦する道理は微塵も無いな」


 短い、しかしはっきりとした確殺宣言。

 低く押し殺したような声で告げたシュランメルトは、真正面にいる1台のBeschärldベシェールトへ向けてAsrionアズリオンを疾走させる。


 Beschärldベシェールトはすぐさま剣を抜き、Asrionアズリオンに備える。

 そして距離を十分に詰め切った時、剣と剣が交差し――Asrionアズリオンの大剣は、剣もBeschärldベシェールトも、ついでに左手に持っていた盾も、全てまとめて一刀の元に切り裂いた。


「次だ」


 シュランメルトは再び、Asrionアズリオンを疾走させる。


---


 Asrionアズリオンだけではなく、アレスのBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルも、そしてRandius Schildランディウス・シルトもまた、奮戦していた。


「次は誰だ!」


 アレスのBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルは、鋭いスピアの一撃でBeschärldベシェールトの胸部に大穴を空け。


「我がRandius Schildランディウス・シルトの堅牢さを、侮らないでもらおうか!」


 シュナイゼルのRandius Schildランディウス・シルトは、無謀にも突撃を仕掛けたBeschärldベシェールトの胴体を、優れた膂力で両断していた。


---


「次だ!」


 味方の2台が奮戦している間に、Asrionアズリオンは2台目、3台目のBeschärldベシェールトを同時に断ち切っていた。

 さらに離脱の遅れた4台目のBeschärldベシェールトにも追いつき、大剣と盾で機体を3つに分けた。


「そろそろ逃げておくのが賢明だと思うが?」


 Asrionアズリオンは二刀流の如くに構えたまま、残存している敵機群に呼びかける。


 ……と、敵機が妙な動きを見せた。


「む?」


 Beschärldベシェールト達が2台、Bispeerldビースペールトが1台で構成される、3機編成を組み始めたのである。

 指揮官機であるBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデル1台と、Bispeerldビースペールト2台もまた、同様に隊伍たいごを組んだ。


「……考えたな。常に3対1であるならば、押し切れるという事か?」


 そう。

 いかにシュランメルト達が奮戦しているとはいえ、現状の戦力は3対12。彼我の戦力差は、4倍もあった。

 そして1対1では、圧倒的に力が劣る。ならば数を頼みに圧し潰そうという考えに移るのは、狼のマーキングを持った者達にとっては自然なのだ。


 じりじりと迫る、3個の小隊。

 計9台が、圧力をかけてくる。


 元よりただの遠距離攻撃では決定打にならないのは、初撃を耐えきった事で実証済みだ。

 狼のマーキングを持った者達も、それは十分に理解している。

 ならば距離を詰めて袋叩きにしてしまえば良いだけの話だ。


「……ふぅ」


 ただ、彼らは見誤っていた。

 シュランメルトとパトリツィアが乗る、Asrionアズリオンの力を。


「アレス、シュナイゼル。このまま真後ろに下がり続けろ」


 シュランメルトが、一案を思い付く。


「シュランメルト殿? 何をなさるおつもりで?」

おれがあの敵機を崩す。とはいえお前達が下がらねば、からな。ここは従ってくれ」

「承知しました。シュナイゼル殿も、構いませんかな?」

「ああ」


 3台が、じりじりと後退を始める。

 それに気づいた敵機は、はやる事なく、しかしやすやすとは逃がしもしない距離を保っていた。


「まだだ、まだ下がり続けろ」


 アレスとシュナイゼルにギリギリ聞こえる声量で、シュランメルトは指示を下す。


「もう少しだ」


 さらに下がり続ける事、1分。

 敵機はまだ攻撃せず、けれども確実に距離を詰めていた。


 ……しかし、敵は気づくべきであった。

 シュランメルト達が、わざわざへと下がっている――すなわち、敵機を誘導している事に。


(そろそろ頃合いだな……)


 そう判断したシュランメルトは、パトリツィアに指示を飛ばす。


「パトリツィア」

「なに?」

「大剣の先端から撃つアレの準備を頼む」

光線ビームだね? りょーかい」


 パトリツィアがAsrionアズリオンへと思考を送る。

 魔力が大剣に流入し、その影響を受けて刀身がわずかに輝いた。


 そして、さらにアレスのBispeerldビースペールト_KapitänmodelカピテーンモデルRandius Schildランディウス・シルトが下がった、その時。


「今だ。行くぞ、Asrionアズリオン!」


 Asrionアズリオンが、空高く

 Beschärldベシェールト達が、突然の事態に右往左往する。




 次の瞬間。

 Beschärldベシェールト達の頭上から、光線ビームが降り注いだ。

 どれも一撃で、機体を完膚なきまでに破壊していた。




 フレームを失い、主もまた喪ったBeschärldベシェールトBispeerldビースペールトの残骸達は、地面に倒れて結晶片を盛大に撒き散らす。


「流石だねー。シュランメルト、全部一撃で仕留めちゃった」

「油断するなよ、パトリツィア。まだ3台残っているぞ」

「分かってるよ。残りもちゃんと、潰すからさ」


 パトリツィアがさらに魔力を刀身に流し込んだ。

 刀身が幅広く、そして長くなる。


 全身から魔力を溢れさせ、輝いて見えるAsrionアズリオン

 その頭部が、カメラアイが、残存しているBispeerldビースペールト2台、そしてBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデル1台の計3台を睨みつける。


「まだやるつもりか?」


 狼のマーキングを持つ3台は、シュランメルトの言葉にたじろいだ。

 まさか16台というシュランメルト達の5倍強もの戦力で襲撃したにも関わらず、いつの間にか、仲間がわずか3台にまで減らされていたのだから。


「シュランメルト殿、少しお待ちを!」


 と、そこにアレスの声が響いた。

 遅れて、Bispeerldビースペールト_KapitänmodelカピテーンモデルRandius Schildランディウス・シルトが駆け寄ってくる。


「何だ、アレス?」

「シュナイゼル殿からのお話です。生きて捕らえるべきかと」

「何故だ?」

「襲撃の理由を聞くためです」


 それを聞いたシュランメルトは、少しだけ逡巡しゅんじゅんする。

 しかし、即座に決断した。


「良し、ならば従おう。パトリツィア、もう光線ビーム機能は仕舞しまっていいぞ」

「りょーかーい」


 パトリツィアの軽い返事と共に、Asrionアズリオンから溢れる魔力が止まる。

 しかし刀身は拡大されたままであり、それはパトリツィアの、そしてシュランメルトの容赦の無さを、端的に表していた。


「覚悟しろ。戦闘能力の全てを、奪い去ってみせる」


 シュランメルトはそれだけ告げると、高く跳躍する。

 常軌を逸した跳躍に対応出来たのは、Bispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルただ1台であった。


 Asrionアズリオンは大剣と盾でもって、1台のBispeerldビースペールトの両腕を、肩口から切り裂いたのである。

 バランスを失ったBispeerldビースペールトは倒れるが、それよりも先に頭部と腹部も切断し、胴体部だけが残された。


「……ッ!」


 残されたBispeerldビースペールトが逃げようとするも、それよりも先に大剣が大腿部を走り抜ける。

 一拍遅れて、Bispeerldビースペールトが前に転倒した。


 したたかに正面を打ち据え、起き上がるのもままならぬBispeerldビースペールトに、容赦なくAsrionアズリオンが迫る。

 そして頸部と両肩を切断し、逃走能力を奪い去った。


「残るは、1台か」

「逃げるよ?」

「逃がすか。おれ達も飛ぶぞ」

「りょーかーい! Asrionアズリオン、もういっかい本気出してちょーだい!」


 パトリツィアが思念を送ると、Asrionアズリオンの背中、両腰、両ふくらはぎに搭載された5つもの筒状の装備が光り輝く。

 “リッター・フリューゲ”と称される専用の飛翔機構は、次の瞬間には膨大な魔力を噴射していた。


「覚悟しろ……!」


 Bispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルとは比較にならない速度で、Asrionアズリオンが飛翔する。

 Bispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルが振り向く時間もあらばこそ。あっという間に距離を詰めたAsrionアズリオンは、次の瞬間には――




 両肩と両足、そして頭部を瞬く間に両断した。




 そして推力を失い、落下する胴体部を両腕で抱え、地上に軟着陸したのであった。

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