第六章 学校

(解説有)第六章一節 試動

 パトリツィアの『重婚オッケー』という爆弾発言から二日後。

 シュランメルト、パトリツィア、そしてフィーレにシャインハイルとグロスレーベの5人は、玉座の間にいた。


「では、結果をご報告いたします」


 さらに一人の“導師どうし”――魔導師を指す――を加えて、である。

 彼は頭を深々とグロスレーベに下げ、パトリツィアの生み出した金属について報告していた。


「我々導師がかの金属を確認した結果……あれは既存のいかなるものにも、該当しない物質でございました。しかしながら、詳細は現在調査中でございます」

「良い、分かった。下がれ」

「はっ!」


 グロスレーベは導師を下がらせると、パトリツィアに向き直った。


「やはり、貴女様は本当に“変わり身”でいらっしゃるのですね……。パトリツィア様」

「当たり前だよー。ウソなんてついてどうするのー? バレたらタダじゃ済まないでしょ、そんなものつく必要も無いよー」

「大変、申し訳ございません!」


 即座に平謝りするグロスレーベだが、パトリツィアはあっさり許した。


「別にいいよー、万一ウソだったら困るのはキミ達だからねー。ところでさー」


 シュランメルトを見たパトリツィア。

 何事かと、シュランメルトが身構える。


「別に怖がらなくていいよー。ただ、キミのAsrionアズリオンに乗せてほしいだけだからさー」

「何だと? おれAsrionアズリオンに?」

「うん。ボクが乗ったら、キミのAsrionアズリオンは強くなるよー」


 それを聞いたシュランメルトは、パトリツィアの言葉を確かめるため、ある事を思い付いた。


「グロスレーベ」

「はっ!」

「なるべくこの城の近くで、魔導騎士ベルムバンツェを扱える広い場所はあるか?」

「それでございましたら、“騎士教練学校”がございます」

「騎士教練学校だと? 初めて聞くな」


 やはりシュランメルトには、聞き覚えの無い言葉であった。

 ただちにグロスレーベが説明に入る。


「騎士――魔導騎士ベルムバンツェを操る者――を育成する学校にございます。同時に軍人としての技能も教練し、このベルグリーズを守る者達を育てる。そのような施設にございます」

「ふむ。だとしたら、実習もあるのだろうな」

「はい。ですが、今日は休日ですので恐らく空いているでしょう。それでも、許可は取りつけて参りますが。誰ぞ、あれ」

「はっ」


 グロスレーベの言葉に合わせ、一人の男が現れる。


「早馬で騎士教練学校へ話を付けよ。書状は今から用意する」

「かしこまりました」


 そしてGloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズの裏手にある執務室へと入っていったのであった。


---


 それからおよそ3時間後。

 午後を迎えたばかりの時間、謁見の間に、書状を持って行った男が現れた。


「失礼します。騎士教練学校の使用許可を取り付けました」

「そうか。大儀であった」

「はっ」


 グロスレーベは男を下がらせるや否や、すぐさまシュランメルトの元へ向かう。

 3回のノックにて、部屋に入った。


「失礼します、御子様。騎士教練学校の使用許可を取り付けました。馬車で送らせます」

「承知した。行くぞ、パトリツィア」

「はーい」


---


 さらに15分後。

 馬車に揺られたシュランメルトとパトリツィアは、騎士教練学校の敷地内まで送られたのである。


「では、こちらで待っております」

「頼んだぞ」


 御者を留めさせたシュランメルトは、前もって教えられた場所へ向かう。

 そこには、筋骨隆々の一人の男がいた。男はシュランメルトを見た瞬間、わずかに表情を緩めたが、シュランメルトとパトリツィアが近づくや否や折り目正しく頭を下げる。


「初めまして、シュランメルト・バッハシュタイン殿。並びに、パトリツィア・アズレイア殿。自分はアレス・リッテ・ブライスト特尉とくいと申すものです。この騎士教練学校の教官であります。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 この数日間でメイド服から着替えていた、パトリツィアの扇情的せんじょうてきな服装や格好を見ても一切動揺せず、彼は挨拶を終える。


「よろしく頼む」

「よろしくー」

「お二人の活動の補佐を行えと、国王陛下よりの命を受けております。どうぞ、何なりと」

「承知した」

「それなら早速、お願いしたいものがあるんだけどねー」


 パトリツィアは挨拶もそこそこに、要望を並べた。

 それを聞いたアレスは、急いで学校の格納庫へと向かっていったのであった。


---


 アレスが準備を終えた後、二人は巨大な砂地の前に立っていた。


「確かにこの広さなら、Asrionアズリオンを動かす邪魔にはならないな」


 一辺2kmの正方形状に整えられた砂地は、魔導騎士ベルムバンツェによる訓練を行うのに十分な広さを有していた。

 また安全のため、及び訓練内容の秘匿のための防壁が三方に張り巡らされている。その全高は50m、Asrionアズリオン3台の高さよりもさらに高いものであった。

 加えて防壁の角――砂地の四隅――には円柱型の見張り台があり、高所の視界を確保している。


 もはやちょっとした要塞とも見まがう騎士教練学校の広場に、シュランメルトとパトリツィアは立っていた。


「では、召喚ぶとしよう。肩に触れていろ」

「え~っ、抱っこ~」

「勝手にしろ」

「わ~い」


 シュランメルトの黙認を受けたパトリツィアは、ひしりとシュランメルトを抱きしめる。

 そんなパトリツィアに呆れながらも、シュランメルトは右腕を天高く掲げた。


「来いッ! アズリオンッ!」


 突風が吹き荒れ、砂を多量に巻き上げる。

 風が止む時、漆黒の魔導騎士ベルムバンツェAsrionアズリオンが堂々と立っていた。


「さて、そういうわけでお前に同乗してもらったのだが……。どんな変化がある?」

「まずはAsrionアズリオンを、あの魔導騎士ベルムバンツェの元まで走らせてみて」

「あれだな。アレスの搭乗している魔導騎士ベルムバンツェか。やってみよう」


 灰色で、左肩の一部が赤く塗装されているアレス専用の魔導騎士ベルムバンツェ、“Bispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデル”。

 パトリツィアに言われた“準備”を終えた彼は、その場で待機していた。およそ1kmほどの距離があるが、肩の赤色のおかげで、シュランメルトにとっては良い目印となっている。


「では、行くぞ」


 シュランメルトが透明な半球に手を乗せ、思念を送り込む。

 と、彼はこれまでとは違う感覚を覚えていた。


「何だ、これは? “速い”ぞ?」


 ただでさえ速いAsrionアズリオンの走行速度だが、今回はさらに速かった。


「ね、言った通り、ボクが乗ったら強くなるでしょ? けど、こんなのは小手調べ」


 パトリツィアが背もたれに体を預けながら、シュランメルトに話しかける。


「それにしても、あっという間だね」


 時速100kmを軽く上回る速度で疾走したAsrionアズリオンは、30秒と経たずに1kmの距離を走破した。


「まったくだ。以前も速いと言えば速いものだったが、今回は速いだけではない。軽やかだ。どういう事だ、これは?」

「あれだね。Asrielアスリール曰く、『“変わり身”が共に乗ると、しんなる力が引き出される』だったかな。原理は分からないけどね」

「そんな事が……」


 シュランメルトは自分でさえもいまだ理解しきっていないAsrionアズリオンに、畏敬の念を抱いていた。


---


 Asrionアズリオンの疾走を目にしたアレスもまた、速度に驚愕していた。


「何だ、あれは……!?」


 自らの搭乗するBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルよりも1.25倍高い全高。

 明らかに並の魔導騎士ベルムバンツェよりも重量があり――実際その通りなのだが――鈍重なはずなのに、自身の愛機を上回る速度で走るAsrionアズリオンに、彼もまた驚愕していた。


(凄まじい、脚の筋力だ……! この漆黒の魔導騎士ベルムバンツェ……その性能、見てみたい!)


 アレスは操縦席で、不敵な笑みを浮かべていたのであった……。



       ――解説欄――



●アレス・リッテ・ブライスト...Alles_ritte_Breist


身長:182cm

体重: 97kg

年齢: 43歳


〈概要〉


 ベルグリーズ王国軍の特等尉官(“上級大尉”相当)。

 平時は騎士教練学校の教官を務めているが、有事の際は前線隊長となる。


 実は戦闘狂の素質を密かに有している。

 乗機は“Bispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデル(アレス専用機)”。



Bispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデル(アレス専用機)


 左肩が赤く塗装されている点を除き、通常のBispeerldビースペールト_Kapitänmodelカピテーンモデルとほぼ同等の外観である。

 全高や重量、そして武装にも大きな差は無い。


 しかし、飛翔用装備“フリューゲ”の速度と持続時間が異なる(右側に表示されたものが“アレス専用機仕様”)。


飛行可能時間

1時間 ⇒ 2時間半


最高速度

600km/時 ⇒ 750km/時

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