第四章五節 師匠
「さて、今日の研究はこれで十分ですね。では、寝るとしましょうか。けれどもその前に……」
リラはいつもの習慣として、寝る前に必ず水を飲む。
本人曰く「そうすると熟睡出来るから」であるが、とにかく彼女は水を飲むために、キッチンへ向かっていた。
と、通り道にある脱衣所の扉が、不意に開く。
そのままグスタフとすれ違った。
「あら、グスタフ。上がったのですね」
「ししょー……」
目をウルウルさせながら自身の顔を見つめるグスタフを見て、リラは穏やかに尋ねる。
「グスタフ? どうしたのですか?」
なおも沈黙を続け、リラの顔を見続けるグスタフ。
しかし、次の瞬間。
「さみしいよー、ししょー! うわーん!」
グスタフは泣きながら、リラに勢いよく抱きついた。
「あらあら……。けれど、その気持ちは私も一緒ですよ。グスタフ」
リラはグスタフの頭を撫でながら、優しくささやいた。
実際のところ、リラもフィーレと離れると、寂しさを感じるのだ。
何度も続いた事に慣れたとはいえ、やはりグスタフの気持ちは理解出来るものである。
「グスタフ。貴方が嫌でなければ、私と同じベッドで眠りますか?」
「……いいの?」
不安からか、あるいは唐突な――しかしグスタフにとっては夢とも言える――提案に驚いたのか。
グスタフはおそるおそるといった様子で、確認をした。
「良いのですよ、グスタフ。可愛い可愛い弟子なのですから」
その言葉に、嘘偽りは無く。
ただありのままの気持ちを、リラはグスタフに告げた。
「やった……。えへへ、ありがと、ししょー」
グスタフの表情が晴れるのを察知したリラは、「では」と切り出す。
「行きますよ、グスタフ」
「うんっ!」
グスタフはリラに腕を優しく引っ張られながら、リラの寝室へと向かったのであった。
*
グスタフを寝室に連れた後、キッチンで水を飲んだリラは、「お待たせしました」と言いながら部屋に入った。
「ししょー!」
「ふふっ、グスタフ。では、一緒に寝ましょうか」
「うんっ!」
心底嬉しそうに、グスタフが笑顔で答える。
「では、ぎゅ~っ」
「ふわぁ……」
リラの柔らかな体――特に胸――に包まれたグスタフは、幸せそうな様子で眠りにつく。
(眠りましたね……)
しかし、リラの顔はどこか浮かないものであった。
(グスタフが私の事を好いてくれるのは嬉しいのですが……。これは母親代わりの私に対する、純粋な好意なのでしょうか? あるいは、私へ抱く……異性への、愛情なのでしょうか?)
リラはグスタフの後頭部を抑え、表情を悟られないようにしながら、思考していた。
(もちろん、私はそのどちらでも嬉しいのです。こんなに可愛い子が、私に純粋な気持ちで懐いてくれるなんて、どれだけ幸運な事でしょう)
既にグスタフが眠ってもなお、後頭部を撫で続けるリラ。
(ですが、私は不安です。どれだけ愛があったとしても、私とグスタフは、年齢が13も離れている。グスタフはこの事実をどう受け止めるのか、それだけは、不安なのです……)
悩みに囚われながらも、やがてリラはグスタフに続き、眠りに落ちたのであった。
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