(解説有)第三章六節 神言

「いったい、あそこに座している魔導騎士ベルムバンツェの名前は何なのだ!? けれども……どこかで、見たような気がする……!」


 起立時には全高100mを上回りそうな巨体を見上げながら、シュランメルトは青き魔導騎士ベルムバンツェに向かって、吸い寄せられるように歩いていく。

 心配したシャインハイルが駆け寄ろうとする――が、グロスレーベが、シャインハイルを遮った。


「シュランメルト!?」

い、動くなシャインハイル! ここから先はシュランメルト様の領分だ!」


 そうしている間にも、シュランメルトは青き魔導騎士ベルムバンツェへと向かい、歩いていく。


「お前は……。青い魔導騎士ベルムバンツェ、お前は!」


 足元にまでたどり着くと、地面に前のめりにへたり込んだ。

 右手と左ひざで崩れ落ちそうな体を支えながら、シュランメルトは青き魔導騎士ベルムバンツェに問いかける。


「お前は……何者、だ?」

『私の名前はAsrielアスリール

「あがっ!?」


 いきなりシュランメルトの脳裏に声が響く。

 慣れない感覚に、シュランメルトは思わず苦悶くもんの声を上げた。


「ぐっ、何だこれは……!?」

『いきなり申し訳ありません。驚かせてしまったようですね』

「頭の中で囁くのを止めてくれ……!」

『それは出来ません。他に意思疎通の方法が無いもので』


 Asrielアスリールは申し訳なさそうに、しかしはっきりとシュランメルトに告げる。

 シュランメルトは肩で荒く呼吸をしていたが、やがて落ち着くと、ゆっくりと立ち上がった。


「ところで……。おれはあんたを見た途端、何故だか懐かしさを感じた。頼む、教えてくれ。あんた、おれと何か、繋がりがあるのか?」

『そうですね――』


 Asrielアスリールはゆっくりと、言葉を紡いだ。

 シュランメルトの問いかけに、穏やかに答える。




『“親子”と表現するのが適切でしょう。というより、。我が息子、ゲ……おっと、今はシュランメルト・バッハシュタインでしたか。失礼』




「母親……だと?」


 シュランメルトが驚くのも無理はない。

 まさかこんな人型の機械が“母親”などと、誰が信じようか。


 しかしAsrielアスリールは動揺するシュランメルトに構わず、話を続けた。


『当たり前です。とは言え、私そのものではなく、“変わり身”が貴方の母親ですが』

「あんたの意識を持った女性か」

『その通りです。私はこの世界の誰でもないまったく新たな者を創造し、私の意識を宿してから、貴方の先祖達の妻、または夫として、共に過ごしてもらう。それが、私が“変わり身”に与える役割です』

「グロスレーベが言っていたな……って、ちょっと待て」


 シュランメルトが、Asrielアスリールの言葉に違和感を感じる。

 頭で思考するよりも先に、言葉が口をついていた。


「あんた、女性なのに男性……なの、か?」

『私は貴方がたの表現で言えば“両性具有の存在”となります。女性でも、また男性でもあるのです。もっとも、普段の私は女性としての性質が強いですが』

「どうなっている、守護神というのは……」


 Asrielアスリールの解答に、シュランメルトは頭を押さえる。

 と、Asrielアスリールは思い出したように『そう言えば』と切り出した。


『シュランメルト、貴方に伝えておく事があります』

「何だ?」


『明日、貴方は昼間に、黒猫を助けるでしょう。そのが貴方への“変わり身”です』


「どうして、もう決定したかのような言い草なのだ?」

『貴方の言葉通りです。貴方が明日黒猫を助ける事は、もう確定しているのですよ』


 Asrielアスリールは一方的に、シュランメルトに告げた。


『今、私が貴方に言える事はここまでです。進むべき道を見失いそうになった時は、再びここに来なさい。私は貴方に試練を与えておりますが、それ以上の加護も与えております』

「母親として、か?」

『はい。それが、私と貴方がた一族が結んだちぎりですから』


 あくまでも端的に告げるAsrielアスリール

 しかしシュランメルトに向ける声音は、柔らかいものであった。


『では、再び休息をいただきます。我が子、シュランメルトよ。私は貴方を、いつも見守っておりますよ。




 我が御霊みたまである、Asrionアズリオンと共に』




「“Asrionアズリオン”だと!? 待て、待ってくれ!」


 シュランメルトの呼びかけもむなしく、シュランメルトの頭に響く声は止まった。

 シュランメルトが見上げるが、もはや青き魔導騎士ベルムバンツェは沈黙を貫いていた。


「母親……か。それが、あんたの……おれとの繋がり、だってのか」


 シュランメルトはそれだけ言い残すと、グロスレーベ達の元へと向かった。

 青き魔導騎士ベルムバンツェは、やはり微動だにしていなかったのであった。



       ――解説欄――



Asrielアスリール


 頭頂高:105.0m

  全高:110.5m

  重量:1250.0t(装備重量)

装甲材質:古代の特殊金属

 動力源:人間(特にシュランメルト)の「守りたい(守ってほしい)」という意思/魔力/魔力増幅装置(補助動力)

 機体タイプ:守護神



〈概要〉


 濃い青に金で装飾された機体。

 操縦席は存在するが、基本的に自立行動する。


 一言で説明すると、ベルグリーズ王国の“守護神”である。


 機体そのものが意識を宿している。

 口や発生器官に相当する部位は無いが、対象者の心に直接語り掛ける事で意思疎通を可能としている。

 なおこの意思疎通は、対象者が世界のどこにいても可能とする。


 具体的にいつ建造されたのかは不明であるが、少なくとも建造後1万年は経過している。

 それでいて一切のメンテナンスを行っていないが、今まで行動に支障が生じた事は一度として無く、またこれからも起こりえないとされている。


 自らの意思を有した人間である“変わり身”を生み出し、シュランメルトの一族の息子(または娘)にあてがう事で、自らの血を繋いでもらっている。


 普段は神殿にて座すようにして眠っているが、シュランメルトの一族の試練などで目覚める。

 そして(記憶喪失という)試練に対する助言や、“変わり身”の居場所を教え、また一族の者に常時、非常に強力な加護を与えている。

 行動の真意は不明だが、少なくともシュランメルトやベルグリーズ王国にとって益となる行動を取り続ける事は間違いない。



〈武装・装備〉


(一切が謎に包まれている)

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