第三章三節 拝謁

 グロスレーベの顔を見たシュランメルトは、すぐさま気付いた。


(やはり、フィーレの父親はあの肖像画にいた男ではないな)


 冷静に分析しながらも、王室親衛隊やフィーレの動きに合わせ、頭を下げる。


「良い、前へ出よ」


 グロスレーベは手招きし、一同を招く。

 全員が跪いたタイミングで、満足げに頷いた。


「まずは大儀であった、親衛隊よ」

「「はっ、ありがたき幸せ!」」


 王室親衛隊が跪いた姿勢のまま、揃って感謝の意を表する。


「そして、よくぞ帰ってきてくれたな、フィーレよ。ところで、そちらの男は何者か?」

「はい、お父様。彼はわたくしの、命の恩人でございます」

「ふむ。詳しく話を聞きたいものだな。親衛隊よ、下がるが良い」

「「はっ!」」


 グロスレーベの言葉に続き、ただちに玉座の間から王室親衛隊が立ち去る。

 やがて完全に去った後、グロスレーベはゆっくりと問うた。


「男よ、名乗れ」

おれはシュランメルト・バッハシュタインだ」


 いつもの調子でシュランメルトが答えると、フィーレの顔が怪訝なものになる。

 しかしそれとは対照的に、グロスレーベは大きな声で笑いだした。


「ふははははははははっ……いやぁ、愉快愉快。お主、まさか王である私にそのような言葉遣いをするとはな。大した胆力よ」

「何か、まずかったか?」

「いやいや! その度胸、見事なものよ!」


 再び笑い上戸に入るグロスレーベ。

 ひとしきり笑ったのち、グロスレーベはシュランメルトに、そしてフィーレに尋ねた。


「さて。聞けばお主、我が娘であるフィーレを助けたそうだが……本当なのか、フィーレよ?」


 問いを受けたフィーレが、グロスレーベを見据えて答える。


「はい、お父様。レスティアの街にて狼藉者達に襲われたところを、この方に助けていただきました」

「ほほう、やはりな! リラ殿の返信にあった通りだ!」


 以前リラ工房に届いた複数の手紙だが、実はリラは一枚一枚に、きっちり返信用の手紙を書いていたのである。

 当然王都から“フィーレを帰してもらう”という手紙にも、返信を書き上げていた。


「そう言えば、返信にはこうも書いてあったな。『のどぼとけに盾の形をしたアザがある』と。お主……いや、そなた、見せてもらっても構わんか?」

「ああ」


 シュランメルトが天井を向き、アザを見せようとする。

 と、フィーレが小声でささやいた。


「シュランメルト、お父様の元へ行きなさい!」

「承知した」


 正面を向きなおし、ゆっくりと歩くシュランメルト。

 やがてグロスレーベの前に立ったシュランメルトは、改めて天井を向き、のどぼとけのアザを見せた。


「見えるはずだ」

「あ、ああ……。これは……」


 グロスレーベが何かに驚くように、シュランメルトのアザをじっと見ている。

 穴が開くほどアザを見つめてから、グロスレーベは、次なる問いを投げた。


「まさしく、盾の形をしたアザだ……。そなた、両の手首と足首も、見せてもらって構わぬか?」

「構わない。どうしてかは、気になるがな」

「確かめたいのだ。見せてもらうぞ」


 シュランメルトが服の裾をわずかに捲り上げ、両手首を見せる。


 外側、そして内側のどちらにも、光を表すひし形のアザが4つ、刻み込まれていた。


「おぉ……!」

「うん?」


 感嘆するグロスレーベに対し、シュランメルトはまったく状況を把握出来ていない。

 と、さらにグロスレーベが要求する。


「そなた、足首も見せてくれ! 頼む!」

「構わないが……。本当に、何なんだ?」


 必死な様子のグロスレーベに、不気味さすら感じるシュランメルト。

 しかし頼みは聞き届け、ズボンをまくって足首を見せる。


「お、おお、おおおおおお……! これは、まさしく……!」

「何でしょうか? わたくしにも、見せていただきたいのですが…………。ッ、これは!?」


 グロスレーベ、そしてフィーレが、揃って驚愕の表情を浮かべる。


 シュランメルトの足首には、まるでアンクレット足首の輪飾りが如く足首の周りに刻まれた柱状のアザが、くっきりと浮き出ていた。


「あ、貴方様は……」


 思わず後ずさりしながら、グロスレーベが畏敬の念を込めた声で呟いた。




「“守護神の御子みこ”様……!」

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