(解説有)第三章二節 王城

 “リラ工房”より魔導騎士ベルムバンツェを歩かせる事3時間。

 一行はベルグリーズ王国が王都“ベルグレイア”にそびえ立つ王城、“ベルリール城”を間近に見ていた。


「何という城だ?」

「ベルリール城ですわ。ところでシュランメルト。あなた、この後の予定は?」

「特に無いな。お前を送り届けたら何をしようか、迷っているところだ」


 シュランメルトはベルグレイアの地理をほとんど知らず、何をするべきかも定かではない。

 適当に散策でもする――そう思っていると、フィーレが提案した。


「でしたら、ベルリール城に泊まってはいかがでしょう? 確か、いくつか空いている客室がありましたわ」

「それは良いな。ただ……」

「ただ?」

おれの素性が不明だろう。好意はありがたいが、実際に泊めてもらえるかは……」

「わたくしが言い付けておきますわ。安心なさいませ」

「分かった。おっと、そろそろ着くぞ」


 そして6台の魔導騎士ベルムバンツェが足を止める。


 眼前には、巨大な門、そしてそれに沿うような長大な壁があった。

 門が若干高いのだが、門と壁のどちらも、魔導騎士ベルムバンツェ、それもとりわけ高いAsrionアズリオン2台(=30m)でも届くかどうかという高さだ。

 それを見て、シュランメルトが評する。


「高い、立派な門だ。これなら、そうやすやすと越えられる事は無いだろう。しかし、あれは金属か? 魔導騎士ベルムバンツェ武器に使われる素材という話だったが、頑健さに不安が無いか?」


 そう。

 一般的な金属は、魔導騎士ベルムバンツェの装甲、そして武器に用いられるAdimesアディメス結晶よりも強度が劣る。

 シュランメルトの心配は、真っ当なものであった。


「良いのです、シュランメルト。これは敵を欺くための手段。金属製と見せて油断させ、本命である城側の分厚いAdimesアディメス結晶で敵を防ぐのですわ」


 フィーレは我が城の誇りと言わんばかりに、目をキラキラと輝かせながらシュランメルトに説明する。


「周囲のレンガへきも同様です。内側に土をふんだんに詰め、そしてAdimesアディメス結晶の分厚い壁で防御するのですわ。それだけでなく……」


 フィーレの言葉に合わせ、城門が開く。


 そこには、膨大な量の水が流れていた。


「何だあれは、みずうみか!?」

「湖ではありませんわ。あの水は、我らがベルリール城のほりなのです」


 魔導騎士ベルムバンツェが歩くのに合わせ、フィーレが話す。


「この橋を除いて、王城へ辿り着く道はございませんわ。ベルリール城の堀は、侵入を試みる全ての狼藉者をはねのけ、時には自ら滅ぼさせるのです」


 これまた目を輝かせて話すフィーレ。

 だが、実際に自慢するだけの要素を、この堀は備えていた。


 まず城門から王城までの水の幅だが、これは横になったAsrionアズリオンが20台(=300m)いても届くかどうかという距離である。

 加えて水深は、なんと20m。Asrionアズリオンでも全身が水没する深さは、他の魔導騎士ベルムバンツェではどうなるか、言わずもがなであろう。

 この堀が円を描くように、王城をぐるりと同一の幅と深さで取り囲んでいるのだ。


 余談だが、魔導騎士ベルムバンツェは水中を進行(潜航)する能力が皆無であり、また水泳の要領で水上を移動することも容易には出来ないのだ。

 そのため、わざわざ船で運ぶか、さもなくば飛行するかが、魔導騎士ベルムバンツェの水場での移動法なのである。


 そしてこの堀を突破する唯一の橋は、標準的な体型の魔導騎士ベルムバンツェが真横に3台、どうにか並べる程度の幅しかない。

 手すりはあるが、高さ1.2mのそれは人間用以外の何物でもなく、魔導騎士ベルムバンツェの支えにならない事は明白である。


「それだけの防御があれば、確かに敵を防げるだろうな」

「でしょう?」


 得意げなフィーレに、しかしシュランメルトは冷静に指摘する。


「とはいえ、万に一つ……敵が門や壁を飛び越える事があるとしたら、どうするつもりだ?」

「そうなる前に、わたくし達ベルグリーズ王国が誇る魔導騎士ベルムバンツェが敵を打ち倒しますわ。それに量産機の1つ、Bipfeildビープファイルトそらの敵を想定した機体なのです」

「ふむ、そこまで対策しているという事か」

「そうですわ。それに王城自体も、非常に頑健に造られているのです」

「なら問題は無いな」


 フィーレの説明を聞いたシュランメルトは、しかし未だ疑問を抱いていた。


(空からの敵……。どうにも、心がざわめくな)


 そして一行は二つ目の門にたどり着き、城へと入ったのであった。


     *


「ここか。ところで王室親衛隊の彼らは、どこに向かっている?」

「専用の格納庫ですわ。普段でしたら、わたくしもついていくのですが……」

「承知した。そこでアズリオンを戻すとしよう」

「整備はよろしいのですか?」

「不要だ。おれにはよく分からんが、何となく……『アズリオンがそう言っている』」


 その言葉に目を丸くするフィーレ。

 だが、シュランメルトは手をひらひらと振った。


「そんな気がするだけだ」

「は、はあ……」


 話している間に、5台のBerfieldベルフィールドが全て格納庫に入った。


「さて、もう良いだろうな。では、おれの肩に掴まれ」

「ええ」


 フィーレが肩に触れたのを確かめると、シュランメルトは小さく呟く。


「ありがとう、アズリオン。降ろしてくれ」


 同時に、Asrionアズリオンが姿を消した。


「さて、後は彼ら……王室親衛隊を待つとするか」


---


 その後、無事に格納を終えた王室親衛隊と合流を終えたシュランメルトとフィーレ達一行は、玉座の間へ向かっていた。

 道中、シュランメルトは王城の構造や調度品などを目で追い、反射神経や思考のトレーニングをしていた。


(どれも記憶には無いものばかりだ……しかし見るからに、良い見た目をしている。恐らく、高価な物ばかりを揃えているのだろうな)


 すれ違った何人かのメイドがシュランメルトを訝しむような目で見るも、彼は気にも留めずに黙々とトレーニングを続ける。


(ふむ、一見どれも同じように見えるが、細部が微妙に違うな。特に花瓶だ。細かなレリーフなどのクセが違う。おそらく、一つ一つが職人の業物なのだろう……む?)


 と、シュランメルトは視界に映った一枚の肖像画に、吸い寄せられるような感覚を覚える。


(あれは……シャインハイルにフィーレか。ところで、脇にいる男は誰だ? 二人の父親にしては、少々外見の派手さが足らない気が…………ッ!)


 肖像画を見た途端、シュランメルトが頭を抱えて崩れ落ちた。


「ちょっと! 大丈夫ですの!?」

「すまん、フィーレ……大丈夫だ。行こう」


 何とか立ち上がって歩みを再開するものの、シュランメルトの脳裏には、一人の男が強く刻まれたのである。


(あの男は誰だ……? シャインハイル、それにフィーレと同じ肖像画にいる存在という事は、相応の立場、あるいは信頼などを有しているのだろうが……)

「着きましたわ」


 シュランメルトの思考は、フィーレの一言で中断させられた。


「ここが、お父様のいらっしゃる玉座の間ですわ。では、開けてくださいませ」


 王室親衛隊の内の2人が扉の両脇にある結晶に触れると、シュランメルトの身の丈の8倍はある巨大な扉――というより“門”――が、ゆっくりと音を立てて開く。

 そして、そこには――




「待ちかねたぞ、フィーレよ。よくぞ帰ってきてくれた」




 ベルグリーズ王国が現国王であるグロスレーベ・メーア・ベルグリーズが、そしてその後ろには王家専用機“Gloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズ”が、玉座に鎮座していたのであった。



       ――解説欄――



●玉座の間


 全高15mの巨大な部屋。

 国王はもちろん、国王の背後にGloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズが、揃って玉座に鎮座している。

 扉を開けられるのは王家の者か、王室親衛隊の隊員か、一部の信頼された従者のみ。



●グロスレーベ・メーア・ベルグリーズ...Großlöwe_meer_Bergriz


身長:195cm

体重: 90kg

年齢: 45歳


〈概要〉


 ベルグリーズ王国の現国王。

「王は誰よりも強くあれ」を信条とし、身体を極限まで鍛えぬいている(軍の精鋭部隊の訓練に混ざるほど)。娘二人と同様に金髪碧眼。


「たとえ奴隷と王であっても、お互いが惚れあっているならば、その恋は誰にも止める権利無し」という自由な恋愛観を持っている(妻は平民出身。己の言葉を体現している)。

 ゆえに娘達の恋愛観も自由。「政略結婚」という概念を持たない。


 なお、フィーレをリラ工房に行かせたのは、魔術修行のため。

 乗機は“Gloria von Bergrizグローリア・フォン・ベルグリーズ”。

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