第二章三節 手合

『参ります!』


 開始の合図と同時に、Orakelオラケルが光弾を数発放つ。

 こちらは実戦用だが、リラは威力を押さえて使用した。当然、胸部も外している。


 とはいえ、Asrionアズリオンの上腕部目掛けて飛来する光弾には、並みの魔導騎士ベルムバンツェならば関節の一つ二つが易々と吹き飛ぶ威力が込められていた。

 フィーレの話を聞いたリラは、Asrionアズリオンの装甲の強度を標準以上と推測し、割り出した“対Asrionアズリオン用の低致死性攻撃”としては最適な威力の光弾を放ったのである。


「ふむ、素晴らしい初撃だ。では、おれも迎え撃つとしよう」


 シュランメルトはAsrionアズリオンに、胸の前に剣と盾を持って行った構えを取らせる。

 しかし、その場からは動かない。


「頼むぞ」


 シュランメルトが半球に手のひらを密着させ、思念を送り込む。

 その、次の瞬間。


 Asrionアズリオンが最初の二発を、剣と盾で払うように打ち消した。

 反動を利用し、盾で三発目を、剣で最後の光弾を斬り払う。踊るように繰り出された一連の動作は、Asrionアズリオン本体に一発たりとも光弾を命中させなかったのである。


「初撃はこれで終わりか? ならば、次はおれの番だな」


 光弾を払った後の体勢を整えながら、AsrionアズリオンOrakelオラケル目掛けて疾走する。

 盾で左半身を守りながら、右手の片手剣を切っ先を斜め上に向けた状態で保持し、攻撃、防御のどちらにも瞬時に移行できる体勢で、だ。


『まだ、手番はこちらのものです!』


 リラがOrakelオラケルに魔力を送り込むと、Orakelオラケルの各部に取り付けられた紫色の宝石が輝きだす。

 そして、合計で20もの宝石から、一斉に光弾が射出された。


「やはり一筋縄では行かないか。だが、正確さが仇となったな」


 20発の光弾が壁の如く、Asrionアズリオンに迫る。

 “低致死性”とはいえ、全弾同時に受ければAsrionアズリオンといえど無事では済まないだろう。


 ……だというのに、シュランメルトはいつもの通りに平然としていた。


「このまま行けば全弾命中するが……。対処法は既に見えている」


 光弾もAsrionアズリオンも、共に距離を詰め合っている。

 そして光弾の先端が、Asrionアズリオンをあと少しで捉えんとしたその時。


ッ!」


 号令と同時に、Asrionアズリオンの姿勢がわずかに低くなる。

 そして、次の瞬間。




 Asrionアズリオンが、宙を舞った。

 全高の10倍以上の高さを、ただ一度の跳躍だけで上回ったのだ。




 そして20発もの光弾は、先程までAsrionアズリオンのいた場所を虚しく通り過ぎて行った。


『なっ!?』

『『なに(何なのです)、あのジャンプ(跳躍)は!?』』


 対峙していたリラは元より、見学していたグスタフとフィーレも驚愕する。

 基本的に、魔導騎士ベルムバンツェは人体を拡大強化したシロモノであるため、多少の跳躍は出来るが――それを踏まえてもなお、Asrionアズリオンのこの跳躍は異常だった。


「次だ」


 そんな三人の驚愕も知らず、シュランメルトはさらなる動作に移る。

 なんと、左手の盾を全力で、Orakelオラケル目掛けて投げつけたのだ。


『盾を!? くぅ……っ!』


 リラの反射神経と膨大な魔力が、Orakelオラケルの躯体を動かす。

 鈍重そうな見た目に反し、Orakelオラケルは軽やかなサイドステップで盾を避ける。

 Asrionアズリオンの凄まじい膂力で投げられた盾は、速度と自重でもって、槍の如く地面に突き刺さった。


(土煙が……。視界が封じられましたね)


 それだけに留まらず、猛烈な勢いで刺さった盾の周囲からは、土煙が舞い上がった。

 煙幕の如き土煙は、瞬く間にOrakelオラケルの視界を覆ったのである。


「狙い通りだな」


 そこまで見越していたシュランメルトは、重力に逆らわず、Asrionアズリオンを土煙目掛けて落下させる。

 狙いは、リラの乗るOrakelオラケル――その腕だ。


「この分なら、問題無いな」


 空中でAsrionアズリオンの躯体が回り、一瞬で180度向きが変わる。


「もらうぞ、リラ」


 そしてAsrionアズリオンが、両手持ちにした剣を振り下ろし――




 しかし命中する直前に、Orakelオラケルから光のドームが現れて阻まれた。

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