第二章二節 準備

「ししょー」

「何でしょうか、グスタフ。これは決定事項ですよ」


 口を挟むグスタフをたしなめるリラ。

 それを受けて、グスタフが訂正する。


「ううん、そういう事じゃないよししょー。ただ……」

「ただ?」

「これって、“僕がししょーと、最初に魔導騎士ベルムバンツェで戦った時と同じ”だよねーって思ったの」


 その言葉を受けたリラは、しばし黙考する。

 ややあって、ニコリと笑顔を見せてから、グスタフに話した。


「そうですね。その通りです。私はシュランメルトと、互いの魔導騎士ベルムバンツェで手合わせをしたいと思っているのですよ」


 その言葉を受けたシュランメルトが、皿を取り落としそうになる。


「わっ!」


 慌ててグスタフが、皿をキャッチする。

 滑った手ではうまく捕まえられなかったが、割れる事だけは防いだ。


「気を付けて、お兄さん」

「済まない、グスタフ。呆然としていた」


 シュランメルトが謝りながら、残りの皿を洗う。


「ところでししょー、どうして手合わせを?」

「簡単な話です。シュランメルトの用いる魔導騎士ベルムバンツェと実際に戦い、その結果を収集したいのです」

「何のためにだ、リラ?」

「王国の魔導騎士ベルムバンツェ発展に繋げる為です。そういうわけで、シュランメルトにグスタフ。お手合わせとそのお手伝い、よろしく頼みますよ」

「承知した。おれとしても、泊めてもらった恩をどう返すかを考えていたからな。それで十分ならば付き合おう」

「ありがとうございます」


 リラはさらにペースアップし、あっという間に皿洗いを終えたのである。

 そしてフィーレにも手合わせの話を伝えると、支度を整えて工房に向かったのであった。


     *


 それからというもの、フィーレとグスタフ、そしてリラは格納庫へと向かっていた。

 言うまでもなく、魔導騎士ベルムバンツェ本体を、そして模擬戦手合わせ用の低致死性武器(刃を潰した刀など)を準備するためである。


 残されたシュランメルトは、広場で自らの魔導騎士ベルムバンツェを呼び出していた。


「あの時はすんなりと召喚べたが……いつも来てくれるのだろうか? いや、言うまい。まずは試すのが先決だ」


 シュランメルトは空に向かって手を伸ばし、叫ぶ。


「来いッ! アズリオンッ!」


 その言葉の後に、突風が吹き荒れる。


召喚べたか……。やはり、お前はおれの相棒なのか?)


 安心と疑問を同時に抱えながら、シュランメルトは“Asrionアズリオン”と呼ばれる漆黒の魔導騎士ベルムバンツェに、搭乗したのである。


---


 その様子を、シュランメルト以外の三人は遠くから見ていた。


「フィーレ姫、グスタフ。今のを見ましたね?」

「はい。以前見たのと、全く同じです」

「はい、ししょー! 何あの魔導騎士ベルムバンツェ、カッコいい……!」


 それぞれの魔導騎士ベルムバンツェのモニター越しではあったものの、シュランメルトがAsrionアズリオンを呼ぶところを、確かにおのが目に収めたのである。


 しばしその光景の余韻に浸っていたが、やがてリラが切り出した。


「私は彼の魔導騎士ベルムバンツェの力を見極めたいのです。グスタフ、準備を頼みます。フィーレ姫は先に見学位置へ」

「わかりました、ししょー!」

「はい!」


 フィーレのViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンがリラに指定された広場へ行く。同時にグスタフの魔導騎士ベルムバンツェが六本の腕で、器用にリラのOrakelオラケルに剣と盾を渡す。

 そのままAsrionアズリオンの元にも向かい、同様に武装を手渡した。


     *


「その武器は、金属で出来ています。魔導騎士ベルムバンツェの装甲に用いるAdimesアディメス結晶より、強度が劣っているのです。加えて刃を潰しているため、お手合わせに用いるものとしては最適でしょう」


 リラがOrakelオラケルに剣と盾を構えさせながら、シュランメルトに語り掛ける。


「貴方に渡した武器も同様です。準備はよろしいでしょうか?」

「既に整っている。他に留意するべき事はあるか?」

「“胸部への攻撃は控える事”。これだけは厳守して下さい。あくまでも、今回はお互いの実力を確かめるためです」


 リラはあくまでも穏やかに、しかしはっきりと聞こえる声で、シュランメルトに告げる。

 それを聞き届けたシュランメルトは、すぐに承諾した。


「了解した。胸は狙わないよう加減する」

「お願いします。グスタフ、開始の合図を」


 Orakelオラケルがグスタフの魔導騎士ベルムバンツェに向き直ると、グスタフが搭乗する赤紫の魔導騎士ベルムバンツェは、三本の右腕を一斉に振り上げた。


「では……始め!」


 こうして、“お手合わせ”が始まったのである。

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