第二章 工房

第二章一節 朝食

「ふわぁ……良く寝た」


 はっきりと夢を見ており、脳みそが覚醒していたにも関わらず、シュランメルトの体は軽いものであった。


「おはよー、お兄さん!」

「おはよう。グスタフか」


 廊下に出ると早速、グスタフと合流した。

 よく眠った証拠とでも言わんばかりに、元気に飛び跳ねている。


「リラはもう、朝食を作っているのか?」

「うん! いつもなら、とっくに作り上げてるよ!」


 この日、自身の記憶にとって初めての朝食を取るシュランメルトは、「それは楽しみだ」とほほ笑んだ。

 と、目の前の扉が開く。少しして、フィーレが眠そうな表情で出てきた。


「「おはよう、フィーレ(姫!)」」

「おはよう、二人とも。ふわぁ、少し眠いですわ……」


 無理もない。

 シュランメルトとグスタフはあずかり知らぬが、フィーレはリラに、徹夜でシュランメルトの魔導騎士ベルムバンツェに関して報告していたのである。

 成り行き上の話とはいえ、同乗者であったがゆえに、知っている事は全て話す羽目になったのだ。

 当然と言うか何と言うか、フィーレは結果的に、寝不足となったのである。


「おや、い匂いがするな」

「ししょーのご飯だ!」

「リラ師匠、いつも早起きですものね……(私と同じように徹夜したはずなのに、どうしてこんなに早く?)」


 三人は揃って、食卓へと足を運んだ。


---


「おはよう、三人とも。既に朝食は出来ています」


 そこには、至って元気に朝食の支度を整えているリラの姿があった。


「手を洗って、食べましょうか」

「うん、ししょー!」


 すぐに手を洗った四人は、揃ってテーブルに座る。

 そして。


「「いただきます!」」

「い……いただき、ます」


 リラ、フィーレ、グスタフの三人が、揃って挨拶をする。

 それにつられるようにして、シュランメルトも同様に挨拶したのであった。


---


「「ごちそうさまでした!」」

「ご、ごちそうさま……でした」


 やはり慣れないシュランメルトは、食後の挨拶もワンテンポ遅れていた。


「グスタフ。それに、シュランメルト」


 と、リラが食器を片付けながら呼び掛ける。


「はい、ししょー!」

「ここにいるぞ」


 すると、フィーレが耳打ちしてきた。


「シュランメルト」

「何だ、フィーレ?」

「今のように、リラ師匠に食後に呼ばれたら、その人は食器を洗う事になっているのですわ。グスタフがいつもやっているから、見よう見まねでやってみなさいな」

「わかった」

「あ、後もう一つありますわ」

「何だ?」

「食器洗いに呼ばれた場合、何らかの伝達事項がある可能性もありますわ」

「わかった。では、行ってくる」


 グスタフに続き、シュランメルトもリラの元へ向かったのである。


---


「待っていました。シュランメルト、貴方は初めてでしたわよね?」

「ああ。皿洗いだろう?おれとグスタフで」

「そうです。フィーレ姫から聞いたようですね。では、“私からの伝達事項”の話も?」

「そうだ、既に聞いている。案の定か」

「その通りです。グスタフ、それにシュランメルト。洗いながら聞いて下さい」


 リラは表情一つ変えず、また洗っている皿からも視線を外さずに、二人に告げる。




「二人には、それぞれの魔導騎士ベルムバンツェで模擬戦闘、およびそのお手伝いをしてもらいます。グスタフはお手伝いを、シュランメルトは……お手合わせ、よろしくお願いします」




 キッチンに、静寂が訪れた。

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